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若者も増えている 移住生活
murayama
村島正彦
2014年11月13日 (木)

地域おこし協力隊で武雄市に移住し “猪突猛進”でシェアカフェをオープン

【画像1】民放キー局のディレクターから武雄市へ移住した永田裕美子さん。いのししcaféにて(写真撮影:村島正彦)
写真撮影:村島正彦

2014年7月、佐賀県武雄市に1軒のシェアカフェがオープンした。その名は「いのししcafé」。店主は1年半前に武雄市に移住してきた永田裕美子さん(44歳)だ。1週間、曜日毎にカフェ運営者が変わるシェアカフェというスタイル。都会では近年見られるようになったが、佐賀県下では初の試みとのこと。このシェアカフェ・オーナーの永田さんに、その背景と思いを聞いてみた。

六本木勤務のテレビディレクターから転身。武雄市に地域おこし協力隊で赴任

「1年半前までは六本木のテレビ局で朝の情報番組のディレクターをしていたんです。まさか武雄でカフェオーナーになるとは思いもしませんでした」と語る永田さん。

きっかけは、樋渡啓祐武雄市長だった。「随分前から、武雄市長は面白いことやってるなぁ…と意識していたんです。東日本大震災の直後に『武雄市は被災者を3000人受け入れます』と早々に宣言したり。市長が次々に打ち出す市政改革には常に注目してて、ある意味”追っかけ”やってました」と笑う。

そんなある日、テレビ局に樋渡市長が出演のために訪れた。永田さんは、迷わず市長に声を掛けた。「武雄市に移住したいんですけど、どうしたらいいですか?」と。テレビ番組のディレクターという昼夜逆転するような激務のなか、シングルマザーで幼い娘を子育て中の永田さんは、職場からも近い西麻布のマンションに住んでいた。子育ては、外国人も含む3人のシッターの援助を受けながらだ。シッターの費用は月に10万円に及んだ。そんな都会での多忙な日々に疲れたこともあったのだという。

市長は、フランクに話しを聞いてくれ、アドバイスもしてくれた。それから半年後、昨年4月に「地域おこし協力隊」という、地方活性化を支援する国の制度を利用して、武雄市へ転身・転居してきた。当時、小学1年生になる娘を連れてだ。

【画像1】民放キー局のディレクターから武雄市へ移住した永田裕美子さん。いのししcaféにて(写真撮影:村島正彦)

【画像1】民放キー局のディレクターから武雄市へ移住した永田裕美子さん。いのししcaféにて(写真撮影:村島正彦)

【画像2】もとはスナックだった内装を、明るくオシャレに改装した。デザインは、永田さんがNYで暮らしていたときの友人が協力してくれた。改装資金は、行政からの創業支援やクラウドファンディングで募った(画像提供: studio blueprint)

【画像2】もとはスナックだった内装を、明るくオシャレに改装した。デザインは、永田さんがNYで暮らしていたときの友人が協力してくれた。改装資金は、行政からの創業支援やクラウドファンディングで募った(画像提供: studio blueprint)

広報番組づくりや特産品「いのしし肉」の販売促進。「武雄推し」で大活躍

永田さんが、武雄市に来てから取り組んでいるのは、市の広報番組づくり。毎週、地元のCATVで放映される15分の番組だ。この番組の、企画、構成、撮影、出演、原稿、ナレーション、編集……の全てを一人で手掛けている。何が市民に興味を持って見てもらえるか、市政についてどう情報発信したら伝わり易いか……テレビ局勤務のノウハウが活かされている。市内を取材で精力的に駆け巡り、広報番組を見ている市民も多く、永田さんはあっという間に武雄市の”有名人”になった。

このほか、武雄市が害獣対策を兼ねて特産品化に取り組んできた「いのしし肉」のソーセージやジャーキーの販売促進の活動にも精力的に取り組んできた。自らの名前を冠した「ゆみこのいのしし おつまみセット」を、ネットショップを中心に販売する。今年8月には、東京新聞などで取りあげられ、反響は大きく、押し寄せる注文に発送が追い付かないばかりか商品の底がついたという。

【画像3】武雄市の広報番組に出演中の永田さん。一人で何役もこなし番組制作を行っている(画像提供:永田裕美子)

【画像3】武雄市の広報番組に出演中の永田さん。一人で何役もこなし番組制作を行っている(画像提供:永田裕美子)

武雄の情報発信、交流の場、移住・起業支援のための「いのししcafé」をオープン

移住2年目になって、永田さんはシェアカフェの構想を思い立つ。販売促進に当たる「いのしし肉」のおいしさを、直接お客さんに味わってもらう場を持ちたいと考えたからだ。そして、たまたま市役所にもほど近い飲食店通りに格好の空き店舗が見つかった。

「思いついたら、すぐ行動に移さないとイヤなんですよ」と、猪突猛進の心意気はカフェ実現にも発揮された。行政の創業支援や、クラウドファンディングなど、足りない開業資金は知恵とやる気で調達した。「内装工事など開業に当たっては、武雄に来て知り合った人たちの協力はもとより、古くからの友人知人も遠くから駆けつけ加勢してくれました」と、思いの実現に多くの人たちの協力があったことを打ち明ける。

永田さんがシェアカフェを開業したのは、移住や起業を支援したいという思いがあってのことだ。「武雄市に移住してきたいという人が増えていますが、いきなり飲食店を開業しよう、というのもハードルが高い。まずは、初期投資の要らないシェアカフェを足がかりに、移住や起業に向けてのシミュレーションをしてもらいたい」と、その意図を語る。

実際に、福岡市や佐賀市、佐世保市在住の人たちが、このシェアカフェの活用をはじめている。永田さん自身は、水曜日それから土曜日の夜にお店に入る。いのしし肉を使ったハンバーグなどが食べられる。

【画像4】土曜日の夜は、永田さんが花魁に扮して「花魁ナイト」を開催することも(画像提供:永田裕美子)

【画像4】土曜日の夜は、永田さんが花魁に扮して「花魁ナイト」を開催することも(画像提供:永田裕美子)

また、カフェでは、起業をはじめとした各種セミナーや婚活イベントの開催なども行う。さまざまな人たちが気軽に交流し、情報交換できる場にしたいと、永田さんは考えている。

先に、武雄市の定住支援を担う「お住もう課」の取り組みを紹介した(https://suumo.jp/journal/2014/10/30/72002/)。その、定住支援員(お住もうさん)に、移住経験者、そして起業支援という役割で永田さんも委嘱された。行政の行う定住支援のみならず、移住希望者にとっては、永田さんのように武雄市に新たな風を呼び込んで活動する人や、そうした人たちとふれ合える場があることが大切に思われる。「いのししcafé」は確実にそうした役割を担ってくれそうだ。

【画像5】武雄市の広報紙9月号では永田さんが表紙を飾った。記事は「いのししcafe」の取り組みを紹介するものだ。広報紙を担当する市フェイスブック・シティ課の池谷知啓さんも移住者の一人(移住先は近隣の白石町)。札幌市の航空会社勤務から転身した。(画像提供:浦郷千尋)

【画像5】武雄市の広報紙9月号では永田さんが表紙を飾った。記事は「いのししcafe」の取り組みを紹介するものだ。広報紙を担当する市フェイスブック・シティ課の池谷知啓さんも移住者の一人(移住先は近隣の白石町)。札幌市の航空会社勤務から転身した。(画像提供:浦郷千尋)

これまで、武雄市図書館からはじまり4回にわたって、佐賀県武雄市の取り組みを紹介してきた。武雄市では行政によるまちの魅力づくりとともに、その魅力に引き寄せられた移住者たちが、また地域の魅力づくりの担い手となっているようだ。来年度、本格化する教育改革の動向や、移住者支援の取り組みの成果に、これからも注目したい。

https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/3c791b3f9cce17f7ea0b421f63323f3f.jpg
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