住環境研究所(JKK)は、一戸建て居住者で30万円以上のリフォームを経験した人に調査を実施したところ、住まいに対する不安として「耐震」がトップに挙がったにもかかわらず、耐震補強のリフォームをした比率はわずか4.6%しかなかったという。これはどういうことだろうか?
調査結果を見ると、現在住んでいる一戸建てに「一生住む」と答えた比率は、66.1%とかなり高い。では、「家を維持することに関する不安要因」は何かというと、「耐震」が最多の34.1%。2番目に多い「基礎を含む床下」が18.3%とその差が大きいことから、耐震への不安が高いことが分かる。
一方、住宅の状況を把握するための「住宅の検査・診断」の経験がないという比率は68.2%と高く、経験があるという比率は26.8%にとどまっている。JKKによると、検査・診断を行わない主な理由は「誰に頼んだらよいか分からない」「信頼できる業者が分からない」からだという。
リフォーム工事の内容については、「外装の変更」(61.3%)、キッチンやトイレなどの「住宅設備の変更」(47.0%)、「内装の変更」(38.7%)がトップ3であるのに対し、「耐震補強工事」はわずか14位、4.6%しかなかった。ただし、耐震補強工事については、築30年以上の住宅で実施率が高くなる点に注目したい。
JKKが耐震補強工事をしない理由を聞いたところ、「過去の地震経験から必要性を感じない」「費用が高く、工事メリットが分からない」「工事の際の荷物の移動が面倒くさい」「耐震工事のきっかけがなく放置している」などが挙がったという。
不安を感じているわりには、実施されていない耐震補強工事。
巨大地震が起こる確率が高まるなか、命と財産を守る住宅の耐震補強は重要な問題だ。
実は、耐震リフォームについては、地方自治体の補助金があったり、所得税や固定資産税の減税があったりする。もちろん条件がある。建築基準法の耐震基準は1981年6月に抜本的に改正され、この基準を「新耐震基準」と呼んでいる。補助金や減税が適用されるのは、1981年5月末以前の「旧耐震基準」で建てられた木造一戸建ての住宅を、現行の耐震基準のレベルに引き上げるリフォームをした場合が多い。地震による被害が最も想定される住宅で、耐震性強化を急ごうという政策なのだ。
そのため、旧耐震基準の一戸建て住宅の「耐震診断」を行う場合に、診断士を派遣したり、その費用を補助したりする自治体は多い。そこで耐震性が低いと判定された場合、耐震リフォームの設計や工事についても補助金が出るケースも多い。自治体を介しているので、依頼する住民のほうも安心できるだろう。
同様に、耐震リフォーム工事の標準的な費用の10%(上限25万円)を所得税から控除できたり、翌年の固定資産税の半分を減額できたりする減税制度もある。自治体や減税制度によってそれぞれ条件が異なるので、対象になるかどうかを住んでいる自治体や税務署に事前に相談しよう。
たとえ自宅が補助金や減税の対象にならない場合でも、耐震性についてはおろそかにできない問題だ。これまでの地震で問題がなかったからという理由だけで、耐震性があると思ってしまうのは危険だろう。自治体に相談して、多くの情報を集めたうえで判断してほしいものだ。
調査結果のリフォーム工事の内容を見ると、劣化などで不具合が生じた箇所を補修したり、窓ガラスやサッシ、冷暖房設備や給湯設備を交換して光熱費を削減したり、段差解消や手すり設置で安全性を確保したりと、メリットが目に見えるリフォームをする傾向がうかがえる。
リフォーム工事では、工事のために荷物の移動をしたり、近隣に挨拶したりと面倒なことも多い。不具合が生じる都度リフォームをするほうが手間も費用もかかるので、何かのきっかけでリフォームをしようと思ったら、住宅の状態を確認して、必要なリフォームをまとめて実施するのが効率的だ。
リフォームをしたほうがよい箇所を判断するには、住宅の検査・診断を受けるというのも賢い方法だ。もちろん費用はかかるが、どういった工事をするかによって、その工事を得意とするリフォーム事業者が異なる場合もある。また、検査・診断の結果説明を受ける際に、リフォームの金額の目安を聞くこともできる。限られた予算内でどこをリフォームするのが効果的かなども相談して、判断材料にするという活用方法もある。
長く住む自宅なら、災害が起きても安全で、快適にすごせるようにメンテナンスをするべきだ。具体的にどの程度の費用がかかるのか、自治体の補助金などが受けられないかなど、多くの情報を集めたうえで、効果的なリフォームを進めるのがよいだろう。