セ・リーグの球団としてはじめて交流戦を制したジャイアンツ。24試合で連敗は一度もなく、貯金は10を数えた。杉内俊哉のノーヒットノーラン達成、山口鉄也の連続試合無失点記録などの明るい話題も多く、チームは波に乗っている。

 その中で、不安材料を挙げるとするなら澤村拓一のピッチングだろう。交流戦は5試合に先発して1勝4敗、防御率4.80。5月20日のライオンズ戦に勝ってから1カ月近くも勝利から見放されている。飛躍が期待された今季、昨年の新人王がもがき苦しんでいる。

「肘や肩に異常があるわけではない。ただ、2年目のシーズンへの取り組み方を間違えた感じがしますね」

 そう指摘するのは、評論家の槙原寛己氏だ。今の澤村の状態というのは、いわゆる2年目のジンクスということなのか。

「それとは少し違うんです。彼は1年目から飛ばないと言われている統一球でやってきた。飛ばないボールなら、より強いストレートで押していけば抑えられる。体も大きくして、パワー型の投手として力でねじ伏せてやろう。そんな考えでオフ、キャンプと過ごしたのではないでしょうか」

 つまり、パワーで押す投球が壁にぶち当たっているというのだ。

「去年なら真ん中高めのストレートでも、結構空振りが取れた。しかし今年は、さすがに打者も対応していて、ファウルで逃げられるようになってきたし、ストレートを続ければ弾き返される。パワーだけで押していこうとして、やられているというのが現状です」

 また、澤村はピッチングに関して、自分の考えにこだわり過ぎているのでは、というのは同じく評論家の中村稔氏だ。

「どんな相手にも、球威のある球を投げて圧倒する。それがピッチングだと考えているような節がある。パワーがあれば、少々コースが甘くても大丈夫だというような考えが強いんじゃないかな。そういうピッチングが通用するのはアマチュアまで。プロではいいコースにきちんと投げ分ける技術を身につけないと」

 力感溢れる投球といえば聞こえはいいが、一方で力みすぎという面も持っている。中村氏は言う。

「おそらく澤村はあまりマメができないタイプだろう。それは最初から力を入れて深く握っているから。そのことでもわかるように、フォーム全体に力みがある」

 中村氏はロッテのコーチ時代、まだ若かった黒木知宏や小宮山悟を指導した際、投球フォームを釣りのキャスティングになぞらえたという。

「キャスティングで針を投げる時、最初から力を入れていたのではかえって飛ばなくなる。おもりや竿のしなりを意識して最後の瞬間にピッと力を入れるような投げ方をすれば、球威のある球が投げられる。澤村にもその感覚を意識してほしいね」

 ストライクを取るのも、決め球もストレート。球威があるうちはいいが、少しでも落ちると連打を浴びる。槙原氏は次のように語る。

「外角低めにきちんと変化球を投げられるようにならないと。持ち球を増やすというより、今あるスライダーやカーブで楽にストライクが取れるようになれば、劇的に変化すると思いますよ」

 そして、こんな興味深い話をしてくれた。

「いま、マリーンズの投手コーチをしている西本聖さんはシュートが武器と言われていましたが、キャンプではシュートの練習はほとんどせず、外角低めにカーブを投げる練習ばかりしていました。西本さんのカーブはあまり曲がらないが、練習を重ねることで、簡単にストライクが取れるようになっていました。そうやってカーブやストレートでカウントを整え、得意のシュートで打ち取るというピッチングだった。そういう考えを身につけてほしいですね」

 槙原氏も150キロを超える快速投手としてデビューしたが、その翌年、ストレートを意識しすぎて苦労した経験がある。