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インタビュー

YUKI 『POWERS OF TEN』

 

ソロ・デビューから10年。笑いあり涙あり──もはやバンド時代が遠くに霞むほどパワフルに歩を進めてきた彼女が、いまその足跡を振り返る!

 

 

2月に10周年のアニヴァーサリー・イヤーに突入するYUKIが、その記念すべき一年の始まりに2枚組コンプリート・シングル・コレクション『POWERS OF TEN』をリリースする。今作に収録されたのは、この10年に発表した全シングルのタイトル・チューン(23曲)、未発表音源(3曲)、そして、このアルバムのために書き下ろした新曲“世界はただ、輝いて”の全27曲。この楽曲たちは、〈ソロ・YUKIの10年間〉をありのままに映し出している。

 

ソロとしての決意表明

2002年3月にリリースしたファースト・ソロ・アルバム『PRISMIC』は、「バンド時代にできなかったこと、自分の個を投影した音楽や私に染みついている音楽を、自分が好きなスタイルで、好きなミュージシャンと一緒に形にしたい」というYUKIの思いもあって、日暮愛葉、ズボンズ、アンディ・スターマー、スピッツらが参加し、収録曲12曲中7曲の作曲(共作も含む)をYUKIが手掛けた。

「当時の私は、こういうことをやりたい、ああいうことをやりたいと、想像するところに近づきたいという思いだけで必死でやっていましたね。ただ、当時はいろいろなことに対するスキルもなかったし、自分で決めなくてはいけないことが多かったので、かなりしんどかったことを覚えています。レコーディングのノウハウもバンドのやり方とは違うので、私はひとりでも大丈夫と思っていたけれど、現場では戸惑うことばかりでした」。

『POWERS OF TEN』に収録された未発表曲“MY HAND”は、YUKIがソロになって初めて制作した曲。また、29歳当時のYUKIの歌声を聴くことができる。

「この頃の歌詞には、バンドをやっていたころの感じがまだ自分のなかに残っているから、ひとりになったときの気持ちがよく出ていますね。1枚目のアルバムは試行錯誤がよく表れているアルバムだし、二度とああいう作品は作れないなと思うけれど、自分がこれからどういうことをやっていくのかという決意表明をしていた作品だと思います。セカンド・アルバム『commune』を制作した頃には、いろいろなミュージシャンと一緒にやることで学習できたこともあって、レコーディングの作業が楽しくてしょうがなかったです。『commune』には、その後の私の軸になる曲が数多く入っているんですよね」。

 

ターニング・ポイント

サード・アルバム『joy』以前は、「自分が大きな会場でライヴをやることをイメージしていなかった」と、YUKI。

「バンド時代にアリーナやスタジアムでライヴをやっていた人が、どうしてそう思っていたのかはわからないんですけど、ファースト・アルバムやセカンド・アルバムのころは、漠然と小さな会場でライヴをやろうと思っていたんです。そうイメージすると、曲作りも自分のイメージに沿って作っていってしまうんですよね。でも、『joy』を作っているときは、武道館でライヴをやろうというイメージが先に頭のなかにあったから武道館でライヴができた。良くも悪くもイメージというものは、先の物事にちゃんと繋がっていくんだと思いました。私から発せられる私の言葉というのはとても重要で、それが世界に響いていくと同時に、自分をも巻き込んでしまうものなんだと気付いてからは、負を背負うような言葉を日常生活においても意識して使わなくなりました」。

お休み後の復活第1弾シングルとなった“Home Sweet Home”から、サウンド・ディレクターが(現在もYUKIと一緒にやっている)玉井健二になり、〈新生・YUKI〉がスタートする。

「初めての人と音楽を作るというのは、まず最初に戦いがあると思うんですけど、自分では気づかないことを提案してもらえるのは、ありがたいことだなと思っていました。玉井くんと出会えたことで“JOY”のような打ち込みの新しい音に出会えたし、この曲は私にとってのターニング・ポイントになりました」。

 

自分が信じている音と言葉

歌詞においても、さまざまな手法を取り入れているYUKI。2005年9月に発表した“歓びの種”から、“メランコリニスタ”“ふがいないや”“星屑サンセット”、そして2006年12月の“ワンダーライン”までの期間を、彼女は〈フィクション期〉と呼んでいる。

「この時期は作詞家としての私が働いていたので、自分の主張や自分の物語を入れ込んだ歌詞ではないものを作りたかったし、私は歌と聴いてくれる人との橋渡し的な役割になりたかったんです。歌うときも〈フラット〉というところにとてもこだわっていましたね。ただ、“ワンダーライン”は、歌詞に深い意味はなくともこの曲が持つ熱がみんなに伝わった曲でした。フィクション感って、人を悲しい気持ちにさせない強さを持っているんだということがわかったし、この曲が新しいステージへの始まりになってくれました」。

玉井健二、百田留衣、YUKIの3人がチームになって制作した“ランデヴー”をきっかけに、YUKIは「新しいことをやろうとする時期」に入る。

「私の中でもっと自由に歌いたいという欲求が膨らんでいたし、これから私は自分がいま信じている音と言葉を歌っていくんだという宣言をしたかった。私にはまだまだ歌いたい歌があって、たくさんの可能性があって、それを広げていきたいという思いが強かったし、気持ちをちゃんと言葉や行動にして、みんなに伝えたい!という思いが、アルバム『うれしくって抱きあうよ』の完成へと向かわせてくれたと思っています」。

 

〈そのとき〉がちゃんとある音楽

通算6枚目のアルバム『megaphonic』は、制作期間中に震災が起き、レコーディングを一時中断したが、YUKIは「私には歌いたい歌がある」と強い意思を持ってレコーディングを再開させた。

「現時点の自分は何が好きなのか、いま自分が聴きたい音楽は何なのかを大切にしていたので、チョイスの基準はまず自分でした。“集まろう for tomorrow”のようなタイトルは、いままでのYUKIの美意識のなかでは絶対にあり得ないものだったけれど、それがいまの私が言いたいことならば歌おう、と。これまで自分にNGを出していたものが、どんどんなくなっていきました」。

自分ができることをやる。できないかもしれないけれど、そこに立ち向かって挑戦する。そして、それを時間がかかっても成し遂げる。そんな思いを注いだ『megaphonic』には、力強く、高らかに音楽を鳴らしているYUKIがいる。

「この10年間は本当にいろいろな出来事があったので、たいへんでしたし、決して短くはなかったです。でも、すごく長かったとも思わない。そのときにしかできなかったこと、そのときにしか歌えなかったことが、ちゃんと私の音楽のなかにはあると思いました。その時その時を踏ん張って、ちゃんと頑張って、自分でチョイスしてきたことがいまの私を形作ってくれていたんだと思うと、30代の私も悪くなかったんだなと思います」。

5月6日には、ソロとしては初の東京ドーム公演〈YUKI LIVE“SOUNDS OF TEN”〉が開催される。バンドとソロの両方で東京ドーム公演を行う女性ヴォーカリストは、YUKIが初めてだという。音楽の力を信じて歌い続けてきたYUKIの10年間。その年月から生まれた曲たちは、東京ドームのライヴを華やかに彩ってくれるに違いない。

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年02月01日 18:00

更新: 2012年02月01日 18:00

ソース: bounce extra issue 2012 WINTER(2012年2月1日発行)

インタヴュー・文/松浦靖恵

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