第31回を数える「住まいのリフォームコンクール」の表彰式が先日行われた。その中で国土交通大臣賞に選ばれたのが「越前の家」。最優秀賞との評価を得たリフォームプランのポイントをご紹介しよう。
「住まいのリフォームコンクール」は公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターが主催し、今回で31年目を迎える伝統のある賞だ。その中で、国土交通大臣賞を受賞したリフォーム事例が「越前の家」。現在の福井県越前市に建つ築60年の住宅を全面リフォームしたプランで、梶浦博昭環境建築設計事務所の設計によるものだ。
このプランの特徴は、地元の自然素材や漆、和紙といった伝統工芸素材を積極的に活用しながらも、現代の暮らしに合わせた快適な居住空間を実現している点がひとつ。さらに、施主にとって大切な思い出の残る部分は残しつつも減築によって伝統建築の様式美を回復させることに成功している点、そして耐震面や断熱性能も着実に向上させているという、バランスにも優れているということも評価のポイントだ。詳細をご紹介しよう。
どのようにして、このプランが誕生したのか、設計者の梶浦さんに話をうかがった。
「私は事務所を愛知県一宮市に構えていますが、出身は越前地方・鯖江(さばえ)市です。今回のお施主さんとの出会いはまったくの偶然なのですが、意向をうかがい現地を見るうちに越前の地元素材を活かしたリフォームを提案したいと思うようになりました」と梶浦さん。
3世代の大家族でもあるお施主さんの意向は、年齢を重ねる父母や結婚して独立した娘と孫たちも集いたくなるような、現代風の快適な住まいにリフォームしたいということ。
リフォームをプランニングする際、バリアフリー化や断熱性能のアップ、耐震強化といった基本的な居住性能の改善は当然求められるもの。さらに何かアイデアをプラスすることが満足度を高めることにつながるはずなのだが、その1つの方向が「地産地消」だったようだ。
実は越前地方は古からものづくりが盛んな地域で、鯖江の眼鏡、越前和紙、越前箪笥(たんす)越前漆器、越前打刃物など伝統の文化と技が息づいている場所でもある。越前で生まれ育った梶浦氏にとっては、故郷の優れた素材を活用することはとても自然な選択だったのだろう。
また、古くからの民家は、その土地の季候や風土に合わせた優れた特徴をもっているのも多い。
「地域の伝統建築には、自然と共存していくための暮らしの知恵や、長年培われてきた文化が息づいています。例えば岐阜県の白川、長野県の松本、奈良県の明日香、山形県の鶴岡など。越前地方では雪に耐える力強さと、美しい白壁という独自の様式を持っています。今回の住宅も伝統的な手法を踏襲した建築でしたが、60年に渡る歴史のなかで増築・改築を繰り返し特徴が薄れてしまっていました。建物自身の魅力を取り戻し、多世代の家族が集う快適な団らん場所をつくるための解決手法が減築でした」
減築に対しては抵抗がなかったのだろうか?
「減築は設計者にとっても勇気が必要ですし、住まいに愛着や思い出を持った施主にとってはさらに勇気のいることです。せっかく設けたスペースを減らすということですからね。しかし、引き算によって得られるメリットのほうが大きいということを、しっかりと納得いただけたことが成功のポイントでした」と梶浦さん。
このプランでは、南に面したサンルームとテラスをなくし、洗面所と浴室を減築・移設することで、団らんの場となるリビングに光と風を取り込むことを実現している。
人口が減少し空き家が増える時代でもある。新たに何かを足すのではなく、「減築」という引き算によって得られる価値にも目を向けることも、スマートなリフォームのコツなのだろう。また、地方で暮らすことの価値を見直す機運が高まっている今、地産地消の家づくりも「地方創生」を実現する1つの手法として、大切な発想になっていきそうだ。