<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 放射線防護に用いている線量計測の単位には、物理系の基本単位と外部被ばく線量を身体諸臓器について、コンピュータを用いる計算機手法で求めた実測不可能な「防護量」、および、この「防護量」を測定器で安全側に測定するための「実用量」がある(図1参照、図中の文献は参考文献に記載)。なお、「放射性同位元素による放射線障害の防止に関する法律」等に記載される線量は「防護量」である。「実用量」は、サーベイメータで「防護量」を安全側に測定・評価できるようにサーベイメータの特性を変え(エネルギー特性を告示別表第5等に合わせる)、「防護量」を安全側に評価できるようにした実用的な測定器による計測量である。なお、「防護量」も「実用量」も単位はSv(シーベルト)である。
<更新年月>
2006年10月   

<本文>
1.放射線に関する諸単位
 放射線防護に関係する放射線計測の諸単位(図1、中央に記載)を以下に要約する。
 フルエンス(Φ(m−2)):作業環境のある1点で線量を測定するとき、この点を通過する放射線は直接線と散乱線であり、多方向から飛んでくる。このような放射線場は、単位断面積を有する球を通過する放射線の数として、無方向性の球強度、フルエンス(m−2)で定義されている。
 空気カーマ(Kair(Gy)=ΔE(J)/Δm(kg)、1Gy=J/kg):X線γ線が、空気を構成する原子(窒素,酸素)との相互作用で、原子の軌道電子に与えたエネルギーを空気の質量で除した値である。空気カーマを計算で求める場合は、質量エネルギー転移係数質量エネルギー吸収係数を放射損失(1g)で除した値)を用いて求める。エネルギーが低い場合(3MeV以下)は、空気カーマも空気吸収線量も等価とみなして良い。
 照射線量(X(C/kg)=ΔQ(C)/Δm(kg)):エックス線やガンマ線の放射線場に置かれた空気等価壁電離箱(自由空気電離箱を含む)中の空気が電離され、発生した全電荷を電離箱の空気の質量で除し、照射線量(C/kg)が求められる。照射線量を式で表すときは、質量エネルギー吸収係数を用いる。この場合、X線やγ線のエネルギーが3MeV以上になると。相互作用で発生した電子のエネルギーが高くなり、電子平衡が成立しにくくなり、電子の制動放射による放射損失も大きくなり測定系外へ逃げ、測定できなくなる。このため、照射線量の定義は3MeVまでとされている(ICRU Report 47、Appendix A Table A.1、脚注)。
 空気吸収線量(D(Gy)=ΔE(J)/Δm(kg)、1Gy=J/kg):空気と等価な原子番号を有する物質で製作された空気等価壁電離箱で照射線量を測定し、求めた照射線量(C/kg)に換算係数((W/e)=33.7(J/C))を掛ければ空気吸収線量(J/kg)が求められる。なお、空気吸収線量を式で表すときは、質量エネルギー吸収係数を用いる。
 以上の線量で、わが国の国家標準として供給される線量は、3MeV以下の照射線量(C/kg)と空気カーマ(Gy)が主である。
2.防護量
2.1 放射線加重係数と等価線量
「防護量」は、計算機の中で作られた人体形状数学ファントム(3.2項の臓器・組織等を含む)を計算機によるシミュレーション照射で、空気カーマ(Gy)あたりの各臓器・組織の平均吸収線量を求める。これに放射線の種類およびエネルギーに対応する放射線加重係数を乗じて求めた線量を各臓器・組織の等価線量(Sv)と呼ぶ。
2.2 組織加重係数と実効線量
 広島・長崎の原爆被ばく者集団の疫学調査が行われ、人体の臓器・組織(1.生殖腺、2.赤色骨髄、3.結腸、4.肺、5.胃、6.膀胱、7.乳房、8.肝臓、9.食道、10.甲状腺、11.皮膚、12.骨表面、13.残りの組織)の放射線による癌発生割合が明らかになった。これを基に各臓器・組織に対する「組織加重係数」が決められた。
 計算機の中で、放射線エネルギーを変えて人体形状数学ファントムを空気カーマ(Gy単位)で前方、後方、左側方、右側方および回転により照射し、各臓器について等価線量(Sv)を求め、これに組織加重係数を乗じて、照射方向別に合算した線量を各照射方向別の実効線量(Sv)と呼ぶ。
 図2に示すように人体前方からの照射による実効線量E(AP)が一番高い。通常作業の場合も前方方向からの被ばくが多い。そこで測定器(サーベイメータ)も、この人体前方方向からの照射による実効線量を3.で述べる「実用量」の1cm線量当量{H*(10)}で測定し、「防護量」の実効線量(Sv)を安全側に測定・評価する(図2参照)。
3.実用量
 「防護量」は、人体形状数学ファントムを用いたコンピュータによるシミュレーション照射で人体線量を計算し、等価線量、実効線量を求めたものである。計算の結果、図2に示すように人体のE(AP):実効線量(前後照射)の換算係数(Sv/Gy)が一番大きい。
 そこで、「実用量」の線量換算係数(Sv/Gy)は、「防護量」の実効線量(前後照射)換算係数を全てのエネルギーで上回るものでなければならない。即ち、実用量は防護量を安全に測定するためのものでなければならない。このような条件を満たすため、国際放射線単位測定委員会(ICRU)は、測定器で測定する線量の基準となる線量計算ファントムを以下のように定めた。
 サーベイメータで測定すべき基準線量の決定のため、直径30cmのICRU球ファントム(プラスチックファントム、元素組成:O:76.2%、C:11.1%、H:10.1%、N:2.6% 密度1)を決めた。
 個人線量は、大きな人体に線量計を装着して測定するので、測定すべき基準線量の決定は、30×30×15cmのICRUスラブファントム(プラスチックファントム)(*注1)を規格化した。ただし、球ファントムもスラブファントムも、線量計算のための架空な数学ファントムとして計算機の中で作られ、シミュレーション照射で球やスラブの表面から深さ1cmで発生する線量を求め、これに線質係数(線エネルギー付与から決められた係数)(*注2)を乗じて求めた線量を1cm線量当量(Sv)と呼び、同様に、0.07mm深さで求めた線量を70μm線量当量と呼ぶ。
 図2のように、1cm線量当量換算係数(Sv/Gy)が一番大きく、実効線量(Sv)を安全側に評価できることを示している。なお、この1cm線量当量は、H*(10)と表記される。サーベイメータの目盛には、この1cm線量当量が目盛られている。(H*(10)は周辺線量当量と呼ばれる。)
 上記と同様な方法で求められた70μm線量当量(H’(0.07)は方向性線量当量と呼ばれる)は、低エネルギーX線やβ線の線量測定に用いられている。
*注1:スラブファントムは、新しく個人線量計を開発するときや初期校正時などにスラブファントム中央に装着して照射する必要があり、実ファントムが作られている。
*注2:「防護量」の放射線荷重係数は人体の臓器・組織に適用する係数である。「実用量」には臓器・組織がないので線質係数が用いられる。
<図/表>
図1 計測の物理量と実用量および防護量の関係
図1  計測の物理量と実用量および防護量の関係
図2 光子エネルギーの関数として表した種々の照射ジオメトリによる実効線量と周辺線量当量
図2  光子エネルギーの関数として表した種々の照射ジオメトリによる実効線量と周辺線量当量

<関連タイトル>
ICRPによる放射線防護の最適化の考え (09-04-01-07)

<参考文献>
(1)ICRU Publication 74:Conversion Coefficients for use in Radiological Protection Against External Radiation.
(2)(社)日本アイソトープ協会:外部放射線に対する放射線防護に用いるための換算係数(ICRU Publication 74 翻訳版)、丸善(1998年)
(3)南賢太郎:外部被曝に関する実用量の考察と解説、(社)日本アイソトープ協会 RADIOISOTOPES、Vol.49、No.8、27-39(2000)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ