事件は2月19日、佐賀地検で起こった。取り調べを担当したのは、東京地検、福岡地検を経て、昨年から佐賀地検に赴任した中堅検事。一方の容疑者は刃物で女性を脅し、強盗やわいせつ行為に問われている20代の男性である。以下、容疑者の担当弁護士への取材をもとに問題シーンを再現する──。
検察官の執務室で机越しに向かい合う検事と容疑者。室内には2人のほかは、事務官が同席していただけの“密室”である。
容疑者の供述を思うように得られないせいなのか、検事は突然、机上にあったカッターナイフを掴み、刃先を被告に突き出すような動作をとった。さらにカッターで数回机を叩き、その後、勢いよく放った。
これらの行為が、公判前整理手続きで検察から開示された取り調べ状況の録画記録に映っていたというのだ。担当弁護士は公判前なので詳細は話せないと断わりを入れながらも、こう憤る。
「(刃物を突き出されることによって)容疑者が萎縮して、意に反する供述をさせられたり、意に沿わない調書に署名捺印させられたりする危険があります。(取り調べの手法として)被告との駆け引きがあるのはわかるが、今回の件は、取り調べで許される限度を完全に逸脱しています」
担当弁護士は、5月30日、特別公務員暴行陵虐容疑(※注)で検事の告発状を最高検に送付した。佐賀地検も検事がカッターナイフを容疑者に示したことを認め、現在、福岡高検が調査を進めている。地元紙記者が語った。
「執務室にはカッターが常備されているわけではない。検事の私物です。検事は事情を聞かれ、カッターを(出し入れして)“かちゃかちゃ”鳴らすのが趣味だと苦しい言い訳をしているが、福岡高検もさすがに信用していない」
一連の検察不祥事をきっかけに、現在は一部の裁判員裁判に限って取り調べの可視化が導入されている。今回も取り調べ状況が録画されていなかったら、事件の発覚はなかった。検察出身の弁護士である郷原信郎氏は、厳しく言う。
「あまりに次元が低すぎる。可視化のためのカメラが設置された部屋での出来事でしょう。容疑者にカッターを見せつけることを“悪いこと”と思っていなかったということです。弁護士に懲戒請求を申し立てた大阪地検の事件もそうですが、検察はこれだけ世間から批判されていながら、自分たちの取り調べに問題があるとはまったく考えていない」
小誌は佐賀地検に取材を申し込んだが「回答できない」との返事だった。
【※注】特別公務員や刑務所の看守などが、その職務にあたり、被疑者・被告人などに暴行を加える罪。
※週刊ポスト2013年6月21日号