2005年3月22日、4つの市町村が合併してできた熊本県菊池市。のどかな酪農風景が広がるこの地でいま、ちょっとした騒動が起きている。旧泗水町の住民グループが、菊池市からの「分離・独立」を訴える要望書を市長と市議会に提出したのだ。独立に賛成する署名は有権者の半数を超えているという。なぜこんなことになってしまったのか? また、そもそも一度合併した自治体が再び分離・独立することなど可能なのだろうか?
分離の要望書を提出した「泗水をよくする会」はその理由について「価値観などで受け入れがたい相違点がある」としている。「価値観の相違」で別れたいなんて夫婦の離婚話みたいだが、過半数が分離を望むというのだから、それはもう埋めがたいほどの「相違」なのだろう。
平成11年から平成22年にかけ、政府主導で行われた「平成の大合併」。10年がかりの大幅な統合で当時3232あった市町村は1727に集約された。ただ、これだけの合併ラッシュとなれば、菊池市のように何かしらのトラブルを抱えているケースも少なくないようだ。
■合併トラブルその1/「埼玉県さいたま市」(※2001年、浦和市、大宮市、与野市が合併)
2007年12月11日のさいたま市議会で吉田一郎市議が「旧大宮市の分離・独立」に関する質問を行った。同市議は質問の冒頭で「現在のさいたま市政に怒りを感じている」という旧大宮市民からの手紙を紹介。
■合併トラブルその2/「青森県青森市」(※2005年、青森市、浪岡町が合併)
合併反対派が多数を占めていた民意を無視し、強引に合併を進めたとして浪岡町(当時)の住民が猛反発。浪岡町長がリコールされるなど大騒動に発展した。現在も分離・独立を目指した運動が続けられている。
■合併トラブル3/「群馬県安中市」(※2006年、安中市、松井田町が合併)
合併の告示が行われた後の松井田町(当時)町長選挙で合併反対派の候補が当選。住民アンケートでも合併反対派が多数を占め、松井田町は群馬県と総務省に合併撤回を要請。合併後も「碓氷郡松井田町の復活を考える会」が立ちあがり、分離・独立に向けた住民運動が起こった。
これら旧自治体の住民が分離・独立を求める理由はさまざま。市役所が遠くなった、行政サービスが変わって細かなニーズに対応してもらえなくなった、愛着のある地名がなくなった、市域が広大になりすぎて天気予報がアテにならない、そもそも合併に反対だった、などなど多種多様な不満が渦巻いている模様。
もちろん、合併によって財政基盤の強化や行政運営の効率化が図られ、住民サービスが向上した自治体もある。しかし一方で、強引な合併により不遇をかこってしまった住民も少なからず存在しているようだ。
で、結局のところ一度合併した自治体が「別れる」ことはできるのか? 地方自治法の規定によると、市議会と県議会の議決を経て総務大臣から承認されれば分離・独立は可能。じっさい、戦後に限っても全国70市町村で分離が行われている。
平成の大合併以降に分離・独立を果たした自治体はまだないが、結婚と離婚が表裏一体であるように、アナタの住む市町村が「独立」する日がやってくるかも。