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連載今週の住活トピック
やまくみさん正方形
山本 久美子
2012年10月31日 (水)

「金融機関の審査に甘さ」を指摘された「フラット35」の審査はどうなる?

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Photo: Hemera / thinkstock
【今週の住活トピック】
会計検査院が「フラット35」の民間金融機関の審査に甘さを指摘/会計検査院

http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/24/h241019_4.html

会計検査院は、「フラット35」を手掛ける独立行政法人住宅金融支援機構(以下、機構)に対して、機構と提携する民間の金融機関の一部で甘い審査が行われているとして、審査の強化を求めた。審査が甘いとはどういうことか、審査が甘いことによるデメリットは何か、今後の審査はどうなるのかについて考えてみよう。

証券化という手法を用いた住宅ローンが「フラット35」

「フラット35」とは、機構が民間の金融機関と提携している全期間金利固定型の住宅ローン。これは「証券化」という手法を用いて提供されており、次のような仕組みになっている。

提携している金融機関は、契約に定められた基準に適合する人にフラット35を融資する。その際に機構は、融資した額と同額の債権を金融機関から買い取り、それを担保として資産担保証券を発行(証券化)して投資家に売却する。その発行代金などを債権の買い取り代金として金融機関に支払う。こうした仕組みのフラット35を「買取型」と呼び、一般的にフラット35といえば、この買取型を指している。
買取型の場合は、債権を買い取るために市場から資金調達した費用や諸費用などをもとに、機構が金融機関に対して金利を設定(提示金利)する。それを受けて各金融機関で、債権の管理や回収業務費用などを提示金利に上乗せして、実際に貸し出す融資金利を設定する。金融機関によって金利や手数料が異なるのは、こうした仕組みになっているからだ。

また、通常の金融機関独自の住宅ローンであれば、融資した金融機関が信用リスクなどの損失が発生するリスクを負うが、証券化を利用した買取型のフラット35の場合は、リスクを機構と投資家が負うことになり、融資した金融機関は原則としてリスクを負わない仕組みになっている。
損失が発生するリスクとは、借りた人の返済が困難となったために担保物件を売却しても回収できないリスク(信用リスク)や借りた人が当初期間より早く完済することで期待通りの運用益が得られないリスク(期限前償還リスク)などをいい、前者は機構が、後者は投資家が負担することになる。

※住宅金融支援機構の【フラット35】サイトより転載
注:図中のMBS(Mortgage Backed Security)とは資産担保証券のこと

会計検査院「証券化支援事業における住宅ローン債権に係る審査について」より転載

審査が甘いとはどういうことか?

会計検査院が機構理事長に対し、意見表示した「証券化支援事業における住宅ローン債権に係る審査について」によると、一定期間金利を引き下げるフラット35Sなどの効果もあって、フラット35の買い取り件数が急増しているなか、虚偽の申告をして融資金を搾取したり、早期に返済不能となったりする不適正な事例が多く発生している。そのため、機構の本・支店およびフラット35の取扱量が多く、不適正な事例が発生している39の金融機関を調査したところ、それぞれに対応の甘さが見受けられたという。

まず、機構では不適正な事例が生じていることから、各金融機関に具体的な審査方法の実行を要請しているが、金融機関内でその審査方法が周知されていなかったり、実行されていなかったりしていた。例えば、無職や別人名義でローンを申し込んだにもかかわらず、勤務先への在籍確認や収入証明書の十分なチェックを行わずに融資をしたなど。ほかにも、一部の金融機関では、自行の住宅ローンにおける審査方法で行っている確認行為を、フラット35の審査では行っていない例もあったという。

さらに、機構は金融機関からの債権を買い取る際の審査を行っているが、各金融機関がどういった融資審査を行っているかを十分に把握していなかったり、信用リスクなどを金融機関に負担させる再売買権を適切に行使してなかったりといった点も、会計検査院により指摘されている。

審査が甘いとどんなデメリットがある?

審査が甘く、返済能力以上の融資を受けることができたとしても、返済が滞れば最終的には購入した住宅を手放さざるを得なくなる。その売却額で返済できなければ、借金を抱え続けるという事態にも。このように、審査の甘さは、融資を受けた人の暮らしを崩壊させる危険性につながる。
しかしそれだけでなく、適切にフラット35を借りようとしている人にもデメリットがある。不適切な融資で機構の損失が拡大すれば、機構の経営状態に悪影響を及ぼし、提示金利が上昇する可能性がある。ひいては融資時の金利が上昇し、フラット35を借りる全員の金利負担が増大するということにもなりかねない。
また、機構の証券化事業には多額の税金も投入されているため、納税者としては適切な運用を望みたいところだ。

今後のフラット35の審査はどうなる?

会計検査院は、金融機関が直接損失をこうむらない仕組みになっているため、モラルハザードが生じて十分な融資審査が行われない危険性を指摘し、審査を強化することに加え、「金融機関ごとの融資審査の状況、不適正案件や早期延滞案件の発生状況等に応じて提示金利に差を設ける仕組みを導入することなどが必要」と提案している。

フラット35の審査については、内閣府の行政刷新会議に設置された「独立行政法人住宅金融支援機構の在り方に関する調査会」が、6月にまとめた報告書でも、「審査基準の見直し」を求めている。具体的には、「住宅ローン債権のデフォルト率に応じて、機構からの手数料を差別化することなどで、より適切な審査が民間金融機関において促される仕組み」を提案している。会計検査院の提案と同様の内容であり、今後は金融機関によって提示金利が変わる可能性が考えられる。融資時の金利への影響も生じてくるだろう。

一方、「審査が厳しくなる」からといって、ローンが借りづらくなるのでは?と心配する必要はない。フラット35の融資条件は公表されており、虚偽の申告などをしなければ、問題なく借りることができるはずだ。
全期間金利が固定されるうえ、現在はかなり低金利であるフラット35は、魅力的な住宅ローンだ。返済できる範囲内で、マイホームを手に入れるために積極的に利用してほしい。

フラット35について
HP:http://www.flat35.com/index.html
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/97a3e7d658abcc014cf75ce60ff9c1b1.jpg
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