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インタビュー

HJ LIM

©EMI CLASSICS

EMIクラシックスから彗星のごとくCDデビュー!
韓国出身の新人ピアニスト

昨年、EMIクラシックスから彗星のごとくCDデビューを飾った大型新人ピアニスト、HJリム。韓国出身 で、現在スイスに暮らす26歳は、クラシック界のセオリーからすると、これまでの生い立ちすべてが「異例」と言える。3歳でピアノを始めた彼女は、ラヴェ ルやドビュッシーといった印象派音楽への憧れから、12歳の若さでフランスへ単身留学。パリ音楽院で名教師アンリ・バルダに学んだが、「同じ対象を描いた 名画の優劣がつけられないように、音楽は競争するものではない」という信念から、コンクールを受験してキャリアを築く道を頑なに拒否した。では、どのよう にして、デビューに至ったのか。そこには、インターネットが発達した現代ならではのシンデレラ・ストーリーがあった。

「留学を応援してくれた韓国の母や家族たちに私の演奏姿を見せたくて、動画サイトのYouTubeに演奏の映像を投稿したのです。視聴回数はあっと言う間に50万件近くに達し、EMIクラシックスのスタッフの目にもとまることになりました」

そしてデビュー盤が、いきなりベートーヴェンのソナタ全集! クリスタルのように薄く研ぎ澄まされたヤマハの「コンサート・グランド・ピアノCFX」を用いて、情熱と透明度がみごとにバランスした秀演を披露した。ま た、若書きの練習曲である第19番と第20番を削除し、収録されたソナタ全30曲をテーマごとに8つに分けるなど、独創的な取り組みも大きな注目を集める ことになった。

「ベートーヴェンの人生と精神的な変遷を探求することは、様々な顔を持つ人間の心理をより深く知ることに 繋がると思ってデビュー盤に選びました。8つにグループ分けをするアイディアは、彼のソナタを学ぶ中で自然に湧き出てきたものです。楽譜を注意深く読み込 んでいくと、作品同士が深く関連し合っていることがよくわかってきました」

彼女は過去にベートーヴェン・チクルスを2回経験(最初は録音の1年前)しているが、待望の3回目が日本で開催される! 会場は浜離宮朝日ホールで、6月3~21日の全8公演。

『ベートーヴェン・レボリューション』と銘打ち、CDと同じ8つのテーマに分けたプログラムで臨む。

「ベートーヴェンのソナタは一つ一つが唯一無二の存在ですが、作品や演奏の感じ方は、聴き手それぞれに異 なると思います。ですから、私は、このチクルスを皆さんの思い思いに自由に楽しんでいただきたいのです。演奏に際しては、過去2回のチクルスとあえて違う 解釈で弾くつもりはありません。ただ、演奏する時は、いつも〈よりよい〉演奏を目指して努力していますから、結果的に、過去の演奏と比べて大きく変わった 内容になる可能性もありますね(笑)」

  今回のチクルスでは、YouTubeをきっかけにデビューした彼女らしく、インターネットも効果的に活用するという。

「公演の一部をネット上で生中継する予定です。会場にいらっしゃれない方々にも広く楽しんでいただきたいので」

次回作は、ラヴェル(《高雅で感傷的なワルツ》、ソナチネ、《ラ・ヴァルス》他)&スクリャービン(ソナタ第4&5番、ワルツOp.38、二つの詩曲 他)の作品集が決まっており、こちらも内容が楽しみだ。

「ラヴェルは童話や神話、スクリャービンは神秘主義と、いずれも〈目に見えない何か〉に惹かれて音楽を書いた人。2人の共通点を描き出すことで、作風の違いもより明確になると思ったのです」

最後に『ベートーヴェン・レボリューション』に向けて、日本のファンにメッセージを求めると、次のように力強く結んでくれた。

「音楽を通じて直接コミュニケーションを育めるコンサートこそが、皆さんへの一番のメッセージだと思っています。会場でお目にかかれるのを心から楽しみにしています!」

LIVE  INFORMATION
『ベートーヴェン・レボリューション』
HJリム ピアノ・ソナタ・チクルス 各回 19:00開演
 6/ 3(月)ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」・第11番・第26番「告別」
 6/ 5(水) ソナタ第4番、第9番、第10番、第13番「幻想曲風」、第14番「月光」
 6/ 7(金) ソナタ第1番、第2番、第3番
 6/10(月)ソナタ第15番「田園」・第21番「ワルトシュタイン」・第22番・第25番「かっこう」
 6/12(水) ソナタ第5番・第6番・第7番            
 6/18(火)ソナタ第16番・第17番「テンペスト」・第18番・第28番            
 6/20(木)ソナタ第24番・第27番・第30番・第31番
 6/21(金)ソナタ第8番「悲愴」・第12番「葬送」・第23番「熱情」・第32番
※使用ピアノ:ヤマハCFX
会場:浜離宮朝日ホール    
http://www.artlinx.jp/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2013年05月02日 17:07

ソース: intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)

interview&text:渡辺謙太郎(音楽ジャーナリスト)