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団地がリノベ、DIYで進化中!
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hato
2013年10月21日 (月)

「アートのある団地」が思い描く日本の未来— いま、郊外団地に暮らす幸せ

宿泊者自身が蓄電した電気で夜の団地に太陽を上げる「サンセルフホテル」(写真提供:取手アートプロジェクト事務局)
写真提供:取手アートプロジェクト事務局

取手駅からバスで5分。築44年、約2000世帯が住む「取手井野団地」(UR都市機構)。高齢化の進む郊外団地で、地域を元気にする住民参加型のアート活動が生まれています。

アーティストと出会うコミュニティカフェが地域の拠点に

取手アートプロジェクト(以下TAP)は1999年、市民と取手市、東京藝大の三者が共同で行うアートプロジェクトとして発足しました。当初、取手市内の遊休施設(空き物件)を主な会場として開催されていましたが、2008年に会場となった井野団地はそれまでの会場とは違い、人の住んでいる「まだ生きている場所」。ハードルも高く、最初は制限も厳しかったと言います。

ですが若いアーティストたちが2カ月以上滞在する中で、自然と住民が食事を差し入れてくれたり手伝ってくれたりとサポートが生まれ始めました。2010年からは継続的に「アートのある団地」として、今後の郊外団地の新しいあり方を模索しています。

「アートのある団地」が思い描く日本の未来? いま、郊外団地に暮らす幸せ

【画像1】緑豊かな井野団地

「いこいーの+TAPPINO」は団地内の旧ショッピングセンター(うち1棟は「井野アーティストヴィレッジ」として芸術家たちのスタジオになっている)の空き店舗をリノベーションしたコミュニティカフェ。TAPと住民ボランティアによって運営され、若いアーティストが定期的に通ってくる仕組みを取り入れています。
井野団地内の高齢者率は約36%と、市内平均より数ポイント高いそう。近隣の小学校は統廃合され、住民からは「まるで限界集落のようなことが起きている」という声も。

ですが、ここ「いこいーの+TAPPINO」では、アートを通じてリタイア後の高齢者世代と子育て世代、若いアーティスト、そして子どもたちと多世代の交流・人のつながりが生まれています。さらに周辺地域から通ってくる人たちもいて、団地の枠を超えた地域の拠点となっているのです。
TAP事務局長・羽原康恵さんは、「井野団地の現状は、ほかの郊外都市が経験しつつあること」とした上で、こう話します。

「アートのある団地」が思い描く日本の未来? いま、郊外団地に暮らす幸せ

【画像2】取手アートプロジェクト実施本部 事務局長・羽原康恵さん

「いこいーの+TAPPINOが目指すのは、芸術家の力を借りながら、自分たちの住んでいる場所で自分たちの創造性をつかって生きること。若い人たちは“そこでどんな経験ができるか?”という基準で住む場所を選ぶ傾向が高まっていると思います。郊外の団地が、家賃が安くて面白くてコミュニティがあって…という若い人たちにとって魅力的な場所になればいいですね」

得意なことを預ける銀行、団地ホテル…創造性を引き出す仕組み

ここ「いこいーの+TAPPINO」で生まれているユニークな試みのひとつが、「とくいの銀行」。自分の得意なことを預ける銀行で、「いこいーの+TAPPINO」内に“ATM”があり、ほかの人の得意なことを引き出して使うことが可能。もちろん、もしも誰かに引き出されれば、そのサービスを提供します。お金のやり取りはありません。

英会話、パソコン、歌をうたう、手芸を教える、料理をつくってあげる、ただ話を聞く、一緒に考える…。まさに羽原さんの言う住民たち自身の「創造性」を引き出す仕組みとなっています。

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【画像3】とくいの銀行。自分の得意なことを預けると通帳が発行される

別のプロジェクト「SUN SELF HOTEL(サンセルフホテル)」は、TAP、芸術家の北澤潤さん、そして井野団地住民らが企画・運営する宿泊型アートイベント。団地内の空室を客室として2013年4月に誕生しました。常時オープンではなく特定の日にちに、申し込んだ人のなかからホテルマンによって選ばれた限定1組のゲストを迎えて開催されます。

このホテルの目玉は、「自分で発電した電気で客室の電力をまかなうこと」と「その電気で、夜の団地に太陽を上げること」。日中、宿泊者はソーラーパネルを搭載したワゴンを押しながら、住民とともに団地内を歩き、蓄電します。日没後、団地内の広場に大きな太陽型のバルーンを上げ、その太陽を、昼間蓄電した電気を使って光らせるのです。
客室では自らつくった電力を使って過ごし、マッサージやプラネタリウムなど、ホテルマンが考えたさまざまな“ルームサービス”を楽しみます。電気が尽きるとともに、就寝。太陽とともにある暮らしを体感する、生活の実験なのです。

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【画像4】滞在中に使う電気を宿泊者自身が蓄電するためのソーラーワゴン

印象的だったのは、数十年にわたり団地に住むおじいちゃんから、主婦、子どもが生まれるとともに引越してきた20代のパパ、子どもたちまで、ひとりひとりが「自分の得意なこと」を活かしながら“ホテルマン”として準備に取り組んでいること。そして、皆さんの笑顔がピッカピカに輝いていること。

今回の仕掛人であるアーティストの北澤潤さんはこう言います。「地域を変えるのではなく、人を変える。アートの力で人は変わる。そして、人が変われば地域が変わる」

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【画像5】ホテルマンのJさんは、井野団地の竣工当初からの住民

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【画像6】20年以上ここで暮らす、コックチームのHさん、Tさん。当時は大人気の団地で、Tさんは4回目の抽選でやっと入居できた

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【画像7】最近引越してきた20代のYさんはコンシェルジュ。2歳の娘さんも、彼女がお兄ちゃんと慕う小学校3年生のKくんも立派な“ホテルマン“だ

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【画像8】「団地に空室が無ければホテルは生まれなかった。ピンチはチャンスです」と語る、アーティスト・北澤潤さん

住民たちから「参加してよかった」「本当に楽しい!」という声が続々聞かれた「サンセルフホテル」。次回は9月に開催されたホテルの1日をご紹介します!お楽しみに。

●取手アートプロジェクト
HP:http://www.toride-ap.gr.jp/

●SUN SELF HOTEL
HP:http://www.sunselfhotel.com/

https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/a8e27edbb109e1b071a7d334b4ec9262.jpg
団地がリノベ、DIYで進化中! リノベーションやカスタマイズだけでなく、企業や学生、アートともコラボ!団地を新しい形で再生させる取り組みが活発です。
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