2012年10月末、石川県のホテルで清掃員がエレベーターに挟まれて死亡した。数年前にやはり死亡事故が起きた後、基準が厳しくされたはずなのになぜ、悲劇は繰り返されるのか。政策工房社長の原英史氏が、事故の背景にある日本独自の規制のあり方に解説する。
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2006年にシンドラー社製のエレベーターで、扉が開いたまま突然上昇したかご部分と建物の天井に挟まれ、高校生が死亡する事故が起きた。この事故は大問題となり国土交通省が急遽、緊急点検・注意喚起などを実施した。
さらにその後、建築基準法施行令で定めるエレベーターの安全基準を見直し、2009年には、「戸開走行保護装置」(戸が開いたままエレベーターが動くことは起きないようになっているが、万一なんらかの故障で動いた場合に、これを自動的に制止させる装置)の設置を義務付ける新たな基準が定められた。
ところがその後、昨年10月になって不幸にして再びシンドラー社製のエレベーターで同様の死亡事故が起きた。規制強化したはずなのに、なぜ同じような事故が繰り返されたのか……。
実は、新たな安全基準は基本的に「新築の建物」だけに適用されている。既設の建物は大規模修繕や増改築がなされる際を除き、旧基準を満たせばよいことになっており、「戸開走行保護装置」が設置されないままになっているものも多い。
言うまでもないことだが、世の中の建物はそうしょっちゅう建て直されるわけではない。大半の建物は2009年以前に建築された古い建物だから、新基準は適用されないままなのだ。
※SAPIO2013年3月号