日本で「脱原発」は無理? それとも可能?

エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方-一橋大学からの提言 (一橋大学・公共政策提言シリーズ)
『エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方-一橋大学からの提言 (一橋大学・公共政策提言シリーズ)』
橘川武郎,安藤晴彦
第一法規株式会社
2,376円(税込)
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 先日、NHKが行ったある世論調査が話題になりました。それは、鹿児島県にある川内原子力発電所の再稼働に関するアンケート。それによると地元・薩摩川内市では20代から30代で「賛成」「どちらかといえば賛成」が75%に上ったというのです。この世論調査の結果自体に疑いの目を向ける人も少なくなかったようですが、調査に偏りがなければ地元の若い世代は再稼動に比較的、前向きと言えるかもしれません。

 なお、若い世代で再稼働に賛成の割合が多くなる傾向はほかの地域でも同じだったようで、同年代の「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた割合は、いちき串木野市や出水市などの周辺地域で54%、福岡市では44%、全国でも40%と、いずれもほかの世代と比べて割合が高くなったといいます。

 世論調査の取り方、質問の聞き方により、結果にある程度の「ブレ」は出るとしても、若い世代に再稼動を望む声が多い傾向にあるのは事実かもしれません。ただ、若者の多くが再稼動を容認する傾向があるからといって、そのまま原子力政策の推進を容認しているというわけではないでしょう。また、端から「資源に乏しい日本で脱原発なんて無理」と諦めているわけでもないと思います。そうではなく、将来的な脱原発、そしてたった今、現実的な解決を望んだ結果、再稼動やむなしと考える人が一定数いるということではないでしょうか。

 エネルギー政策に詳しい一橋大学教授の橘川武郎さんは、書籍『エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方』で、脱原発のあるべき姿について、こう述べています。

「原理的な二項対立から脱却し、危険性と必要性の両面を冷静に直視して、現実的な解を導くことである。日本におけるこれまでの原発論議では、二項対立の構図の中で、反対派と推進派が互いにネガティブ・キャンペーンを繰り返してきた感が強い。もはや、そのような時代は終わった。相手を批判するときには、必ず、リアル(現実的)でポジティブ(積極的・建設的)な対案を示すべきである」

 可能な限り安全性を確認した原発から順次動かしていき、エネルギーを安定供給させた上で、腰を据えて脱原発を含めた今後の日本のエネルギー政策を考えるべき――まさに、リアルでポジティブに原発をたたんでほしい、そう願っている若者が多いのではないでしょうか。

 ただ、どうすればリアルでポジティブに原発をたたむことが出来るのでしょうか? 

 橘川さんは、今後の原子力依存度は下記①~③の要素の進展具合により決まるといいます。

① 太陽光、風力など再生可能エネルギーの技術革新がどこまで進むか
② 省エネルギーによる節電が行われ電力使用料がどの程度減少するか
③ さらに火力発電燃料の低コスト化が進み、石炭火力発電のゼロ・エミッション化(CO2排出ゼロ)をどれほど進展するか

 どれも不確実性に満ちたものばかりですが、脱原発を実現するには、いずれも無視できない要素ばかりです。

"反対派と推進派が互いにネガティブ・キャンペーンを繰り返してきた時代は終わった"

 橘川さんがそう指摘するように、新しいエネルギー政策を切り開くのは、リアルでポジティブな考え方。脱原発、そして未来の日本のために出来ることを、そろそろひとりひとりが考え、行動に移していかなければならないのではないでしょうか。

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