砂漠のワニ──11月16日に部分開業した中国の高速鉄道「蘭新高鉄」(最高時速200km超)は、独特な列車のシルエットからそう呼ばれている。
総延長は中国西部の甘粛省の省都・蘭州と新疆ウイグル自治区の首府・ウルムチを結ぶ1776km(今回開業したのは自治区内の530km)。
全線開通は2017年の予定で、すでに高速鉄道で結ばれている北京―蘭州間と乗り継げば、41時間を要する北京―ウルムチ間が16時間に短縮される。
ウルムチはシルクロードの要所として栄えた歴史都市。中国政府は「シルクロード特急」のアピールに余念がないが、背後には「生々しい目的」が垣間見える。
強風が吹き荒れる砂漠地帯を走行するため、沿線には長い防風壁が設置され、路線警備の人員も多い。建設・運営を担う政府系鉄道会社「中国鉄道総公司」は今年上半期で50億元(約900億円)以上の赤字を計上した。
赤字が大きく増えることを百も承知で建設した背景には、「独立運動が頻発するウイグル族を従わせる」狙いがある。ウルムチに拠点を置く独立運動団体幹部は危機感を隠さない。
「北京政府は自治区に総額6000億円以上を投資しているが、典型的な漢化(中国化)政策の一環だ。潤うのは共産党の息がかかった企業と役人だけで、ウイグル族の生活は豊かにならない。
資源を沿岸部に運ぶだけでなく、大規模な独立運動が起きればすぐさま人民解放軍を高速鉄道で送り込んで鎮圧するという脅しも込められている」
車両を製造した中国企業の責任者は、「ワニは獲物を襲う時に驚くべきスピードを出す」とコンセプトを説明している。
ロシアのシベリア鉄道しかり、米国の大陸横断鉄道しかり、長距離鉄道は軍事的な理由、あるいは少数民族からの搾取のために計画・建設された歴史がある。
「砂漠のワニ」は共産党政府の鋭い“牙”を隠している。
※週刊ポスト2014年12月5日号