2015-07-02

ボーカロイド衰退論

さて題名のとおり,ボカロ界の考察自分なりに書きとめようと思う.

筆者はボカロファン(特に初音ミクのファン)であり客観性は必ずしも担保されないことをはじめに断っておく.

海外シーンやセガゲームタイトルMMDなどの派生分野は全然考慮しないでメインの曲分野だけ注目したので,いろいろ間違っているかもしれない.

まず矢野経済研究所オタク市場規模調査に目を通してみる.

https://www.yano.co.jp/press/pdf/1334.pdf

特にボカロを含むオタク市場カテゴリ別にまとめた表に注目する.(表3)

ボーカロイドは一人当たりの消費額で一番下に位置しており,オタク趣味の中でもっとお金がかからないといえる.

お金がかからない理由として,ボカロ自体ニコニコyoutube無償でアップされた曲たちを中心とし,

版権などの商業化の絡まない雑多なクラスタだったことがあげられる.

動画サイトの隆盛とともにボーカロイドも盛り上がり,ユーザー動画サイト適当ブラウジングするだけで

遺法ではないメインコンテンツに簡単にアクセスすることができた.

これらからボカロに関するひとつの傾向が推測できる.

ライト層が大部分を占める

これは平均消費金額やアクセスのしやすからみて,ライト層との親和性もっとも高いと推測されるからである

さてボカロメインコンテンツである曲の盛り上がりを示す指標として,ボーカロイドランキングがある.

「週間ボーカロイドランキングまとめ」の上位10曲の合計再生数の推移をみてほしい.

http://vocaran.jpn.org/stat/points?img=view

週間ボーカロイドランキングとは,その週にもっと再生されマイリストに入れられた,すなわち盛り上がった曲をソートして動画にしたものだ.

その中でも「上位10曲の合計再生数」は,もっとも盛り上がった曲の盛り上がり度を示す指標としてふさわしい.

上位の曲はライト層でも一回は再生した可能性が高く,ボカロのメイン層であるライト層がその週にどれだけ盛り上がったかを示す指標になる.

普段はボカロに興味はなくてもこの曲だけはふとしたきっかけで聞いた人もいるだろうし,そのような層は容易にライト層に転化する.

他の指標の「マイリスト数」は動画を気に入ったファンの数でありある程度ヘビーな指標となる.

さてグラフをみると,#310あたりに最後のピークを記録したあと,徐々に減少し回復していないことがわかる.

これは最近のメインのボカロシーンが衰退しており,中心となるライト層を捉えられていないことを示す.

では最後のピークである#310に何か手がかりはないだろうか.

「週間ボーカロイドランキング#310」で1位に輝いた曲は,【IAサマータイムレコードオリジナルMV】だった.

カゲロウプロジェクトボーカロイド界で有名すぎるので説明は省くが,この曲はカゲプロ最後の曲であり,

作曲者のじん氏は投稿者コメントで「また、何処かで。」と締めくくっている.

この曲を投稿する以前からカゲロウプロジェクト漫画化などのメディアミックスが進行しており,曲投稿後もアニメなどで盛り上がった.

ボカロシーンの表面的な盛り上がりは,カゲプロ最後の曲の投稿とともに盛り下がって行った.

ここで次のことが推測できる.

ボカロライト層のある部分はカゲロウプロジェクトのファンに変わった

ライト層はヘビー層に比べてコンテンツへの拘りが小さく,たやす自分にあったコンテンツへ乗り換える.

ボカロのファンからボカロもっとも有名であったカゲロウプロジェクトのファンになることに障害は少ない.

カゲロウプロジェクトボカロ曲投稿という活動から手を引くと同時に,カゲプロのファンもボカロから消えたのである

筆者はカゲロウプロジェクト糾弾するつもりはないし,むしろカゲプロがなければボカロの(一時的かもしれないが)盛り上がりはなかったと思う.

商業だろうとアマチュアだろうと作曲者投稿自由であり,好きなときにやめてよく,ただの受け手文句を言う資格はない.

それよりもボカロの衰退はコミュニティ弾力性がなかったことが大きな原因に思える.

ひとつコンテンツが終わったときに,それ以上の新たなコンテンツを生み出して盛り上げるエネルギーが足りていなかった.

(この掘り下げはここでは割愛させてもらいます

またボーカロイドランキング動画自体再生数もおもしろい.

「週刊ボーカロイドランキング」は#259で「週刊UTAUランキング」と合併し「週刊VOCALOIDUTAUランキング」になったのだが,

その前後ランキング動画自体再生数が大きく減少しているのである

合併前は5万再生以上,合併後はそれ以下)

これは「週刊ボーカロイドランキング」がライト層向け動画であったのに対し,UTAUコンテンツがヘビー層向けで,合併によりミスマッチを起こしたせいではないかと考える.

ランキング動画は今流行りのコンテンツを優先的に表示し,探す手間を省いてくれるので,ライト層には都合がいい.

しかUTAUというヘビー層向けコンテンツも表示されるようになり,ライト層が興味を持続できなくなったのだろう.

ちなみにsippotan氏がいなければそもそもランキング動画自体存在しないので,彼への感謝の念はすべての分析を上回る.

さてボカロシーンに活気がなくなると共に,昔のコンテンツが再び相対的に盛り上がるようになってきた.

たとえば2007年10月投稿された「初音ミクオリジナル『えれくとりっく・えんじぇぅ』Full ver.」の小説化が最近発表された.

http://www.php.co.jp/electricangel/

この曲は初期の初音ミクイメージ形成に大きな役割を果たし,派生作品も多く,長らく定番の曲として親しまれてきた.

なぜ今頃小説化するのかというと,ライト層がじゅうぶん大きくなった(と出版側が考えた)からだと思う.

つの曲のイメージに拘泥するヘビー層より,多様な解釈で多様な媒体を受け入れるライト層に訴求する効果のほうが重視されるようになったのだろう.

ボカロの柱であり財産でもある曲たちは,ネット上に半永久的に残り続け,その容易なアクセス提供する.

過去曲によってしばらくの間はボーカロイド界が消滅することはない.

その財産を少しずつ消費しつつ,またボカロが盛り上がる日が来るのかなあと妄想する.

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