東京都世田谷区、小田急線経堂駅から徒歩3分。住宅街の入口にともる灯りの下には、多くの人に囲まれた立ち飲みカウンター。しかしあるときはそのカウンターがこつぜんと消え、寄席の高座が出現したり、椅子が並んで三味線教室が開かれたりする。そんな不思議な場所が経堂にあるコミュニティスペース『さばのゆ』だ。
取材当日は、福岡県久留米市の観光協会の方が行う『久留米ナイト』が開催されていた。観光ポスターが壁一面に貼られ、銭湯を意識してか『ケロリン』の黄色い洗面器の中にお金を入れるキャッシュオン方式。カウンターには全国のB級グルメを応援する会の皆さんや、ご近所さんたちが久留米の旨いものと、さばのゆに置かれているさば缶、地酒に舌鼓を打って盛り上がっていた。
店主を務めるのは、コメディライターでもある須田泰成さん。世田谷・経堂エリアの個人店を応援する経堂系ドットコムを主宰する、コミュニティプロデューサーでもある。そんな彼が、どんな思いでこの場所をつくったのか、お話を伺った。
『さばのゆ』。かつて、多くの町のコミュニティハブとして機能していた銭湯をイメージしたこの個性的な店名にも、そんな須田さんの想いが表れている。『さばのゆ』を始めてからの、ある変化についても語ってくれた。
お話の随所に感じられるのは、さまざまなスキルや文化といった人の個性を面白がっている点。そんなところが、このコミュニティスペースの居心地の良さとして表れていた。さばのゆに集まる人々は、その個性が自分でも思っていなかった新たな展開につながることを期待しているのかもしれない。イベントに初めて参加した方も、あっという間に打ち解けたのは、そんな須田さんの人柄、カウンター、美味しいごはんと雰囲気のおかげだろう。
最後に、コミュニティスペースをつくりたいと考えている方にアドバイスをお願いした。
たった一度、さばのゆを訪れただけで、普段知り合うことのないだろう方々とつながり、今まで知らなかった土地の名物にも触れることができた。いつもそこに在り続け、いつも新しい小さな価値が生まれている。こんな場所が、街のどこかにあってほしい……。そう感じられるコミュニティスペースだった。