一般にシングルが暮らすイメージのある「シェアハウス」。しかし、ここ最近になって「子育てシェアハウス」や「多世代交流シェアハウス」が続々と登場している。そこで気になるのは、住まいの様子やその暮らしぶり。オープン直後の現場に行き、物件が生まれた経緯や入居希望者の様子を取材してきた。
今回、多世代型シェアハウス「絆想舎(ばんそうしゃ)」が誕生したのは、川崎駅からバスで12分の住宅街の一角。見た目には普通の建物だが、中へ入ると木の香りがふわり。それもそのはず、リビングはなんと43畳の床一面のヒノキやスギの無垢材。柱には7寸角の木材が使用され、吹抜けからは光がたっぷりと降り注いでおり、シェアハウスのイメージを覆す贅沢なつくりに圧倒される。
筆者だけでなく、建築や住宅関係者が見学にくると、一様にこのしつらえに驚くようで、「みなさんに建築費を尋ねられます(笑)。僕も本気で自分で住もうかと考えていたほどです」と話すのは、このシェアハウスの企画運営を行うストーンズの細山勝紀社長。同社では3年前ほどからシェアハウスを手がけていて、現在11棟のシェアハウスの運営にあたっているが、多世代型シェアハウスは初の試みだとか。
「今回は土地を所有するオーナーさんの意向で、子育てをコンセプトにしたシェアハウスを企画しました。ただ、単純に子育て世代だけが暮らすシェアハウスにはしたくなくて、シングルマザーやファザー、カップル、シニア世代が入居してもらって、1つの建物のなかで大家族のように助けあって暮らせたらと思っています」(細山社長)
そのため、リビングは43畳とゆったりとしているほか、共用スペースとして菜園などもあり、住人が自然に共同作業できるように配慮されている。一方で、個室は9畳以上のスペースがあり、ロフトのある部屋であれば3〜4人家族で生活できる広さ。これならカップルやファミリー、シニアでもゆったり暮らせそうだ。
気になる賃料は7万円〜、共益費は1万円(共益費は、中学生以上の入居者が1名増えるごとに1万円加算。中学生未満は5000円)。年齢制限はないが、介護のノウハウや設備がないため、要介護認定を受けた場合は転居してもらう規定にする方向だ。
では、こちらの子育てシェアハウスで暮らしたいと考えている人は、どのような人なのだろうか。
「シングルのときにシェアハウスで暮らした経験がある人が多いですね。現在の日本だと、カップルやファミリーで入居できるシェアハウスはほとんどないので、諦めていた人が問い合わせてくるケースは多いです。現在、入居が決定している人は、海外から帰国後に生活する拠点を探していたのですが、建築途中の建物を見て即決していました。シェアハウスは子育てにいいという考えがあるようです」(細山社長)
加えて、シングルマザーやファザーなど、シングルペアレントなどもシェアハウスの関心は高いよう。ひとり親家庭になると、ワンルームや1LDKでは手狭、かといってファミリー向けの物件では家賃が割高になってしまうからだ。また、仕事に追われるシングルペアレントでは、「大人の目が届く場所に子どもの居場所がある」のは、大きな安心感につながるようだ。
「最近では、シニア世代がシェアハウスで暮らしてみたい、と考えている人も多いですね。アクティブシニアといわれていますが、若い人たちと関わりあって生活することで得ることがある、と考えているようです」と細山さん。ちなみに、こうしたシェアハウスに向く人を聞いてみたところ、精神的に自立しているのを前提としながら、「シェアすることで暮らしが豊かになることを理解している人」と教えてくれた。
建物が完成した3月から入居がはじまったが、現在、生活しているのは夫婦と子どもたちの5人家族。この家族は「どうしても家族全員でシェアハウスで生活したい!」と切望していたとか。入居後は、やはり建物についてかなり満足しているようで、特に広々としたリビングがお気に入りの様子。ちなみに、先に暮らしている家族と、これから加わる家族とがスムーズに生活を送るための工夫はしているのだろうか。
「今までの弊社の物件では、新しい住人が加わるときにウェルカムパーティーを行って、お互いにあいさつをするようにしています。今回の多世代シェアハウスは、まったくの新しい試みなので、入居希望者を募ってワークショップやランチ会などで、顔が見える場をつくり、“入居前のイメージ”と暮らしたあとのギャップが生じないようにしていますね」(細山社長)
人と人とがつながるシェアハウスは、日々、さまざまなエピソードが生み出されていくだろう。年齢も価値観も異なる多世代型シェアハウスなら、なおのこと。これからどのようなドラマが誕生するのか、今後にも注目していきたい。