大阪府堺市で開催されている「DIY R SCHOOL」は、半年間・全21回にわたる長期型ワークショップ、DIYとリノベーションを学ぶという新しいタイプのプロジェクトだ。果たして、DIYでリノベーションは可能なのだろうか?
大阪府堺市・泉北ニュータウンに位置する大阪府住宅供給公社の茶山台団地は、1967年から入居が始まった5階建ての賃貸住宅。エレベーターのない住棟では設備の老朽化が進み始め、幅広い世代にとって魅力的な住まいをどうやって供給していくかという課題を抱えていた。
一方、泉北ニュータウン全体でも住民の高齢化が進み、堺市では若年世帯の転出や地域活力の衰退を問題視していた。そこで大阪府住宅公社と堺市で協力し、若年世帯に魅力的なリノベーション住戸を供給する取組みを始動した。その取組みの一環でDIYショップ「DIY FACTORY OSAKA」を展開する株式会社大都とデザインスタジオ9(ナイン)が運営を担う形でスタートしたのが今回のスクールだ。
茶山台団地の5つの部屋を舞台にして10月から始まったワークショップでは、まず「解体」から作業が始まった。その後は「壁の塗装」、「床貼り」、「建具取り付け」「仕上げ塗装」「チェック&クリーニング」と進み、2015年3月の完成を予定している。
リノベーションされた部屋は入居者が公募され、6月からは一般の入居が始まる見込みだ。スクールは定員30名で1回1000円の参加費が必要だが、すでに希望者多数でキャンセル待ち状態だという。いったい何が魅力なのだろう? 早速SUUMOジャーナルの池本編集長と一緒に現地を訪ねてみた。
スクールには、毎回さまざまな目的をもった男女が参加している。
訪れたときは「床のしくみ」と題して、木の床材を電動ノコギリでカットし、インパクトドライバーで打ち付けていく作業が行われていた。参加者の約半数は女性、建築を学ぶ20代の学生から60代のシニアまで年齢層もさまざま。DIY初心者から中級、エキスパートといったグループに分かれ、5つの部屋でそれぞれ作業を行っているところだったので、どんな目的や感想をもっているのか参加者にインタビューしてみた。
まず、DIY初心者も多いビギナーグループでは、こんな声が聞かれた。
●女性(40代)「DIYを始めたいと思い、初心者ですが参加しています。今日で3回目、普通では経験できないことばかりで勉強になります。全部参加したいけれど、キャンセル待ちになっているのが残念」
●男性(30代)「ワークショップに参加することが趣味、釣りに行くのと同じような感覚で参加しています(笑)」
次は、リノベーションを検討しているという人も多い中級グループと、本格的に学びたいとうエキスパートグループに聞いてみた。
●男性(30代)「古い一戸建を所有していて、メンテナンスや補修の知識を得たくて参加。やってみるとDIYの道具が、思ったよりも便利で簡単に扱えるということを実感。学生時代は技術や美術が1だった私でも、電動丸ノコが使えるようになりましたよ」
●女性(30代)「祖母が住む築30年のマンションに暮らすことになり、水まわりを絶対に替えたいと思ったのがきっかけ。DIYの雑誌などを調べても水まわりは詳しく載っていないから、どうしようかと思っていたときにこのスクールを知り、まさに私のためのワークショップ!と思ったんです(笑)。でも、体験すると水まわりはDIYでは難しいと分かりました。自分でできること、できないことが分かったことも収穫ですね」
●男性(40代)「古い賃貸アパートを所有しているのですが賃借人がいないのです(笑)。畳をフローリングに替えて入居者がいるアパートにしたいと思い、今回の床の作業に参加しました」
●男性(40代)「中古マンションを購入したのですが、趣味を楽しめる防音室をつくってみたいんです。既製の防音室は高くて300~400万円、自分でDIYすればもっとローコストでできるはずだと思い参加しています」
●女性(30代)「中古マンションを購入予定。床や壁を取り払ってリノベーションするつもりで、このスクールに参加。しっかりと技術と知識を身につけたいです」
中古住宅を購入してのDIYはもちろんだが、親や親族の家といった古い住宅資産をなんとか活用したい、と考える人も多いのだ。実は、筆者も実母と義母の住む古家がそれぞれの故郷にある。あの家を蘇らせる方法のひとつがDIYなのか…と想像すると、急にDIYリノベーションが身近に思えてきた。
スクール参加者は築年数の経った住まいを所有しているケースも多く、「できるなら自分の手でリフォームやリノベーションを」という意欲を持った人がほとんど。プロに頼まずに、なぜDIYを目指すのかという質問には「プロに頼むと高くなる気がする、何にいくらかかるのかを知りたい」といった声も多く聞かれた。プロに依頼することに対して、なんとなく疑問を抱いている人もいるようだ。
その背景について株式会社大都代表取締役の山田岳人さんはこう語る。
「新築はコストが明確に見積もりしやすいですが、リフォームやリノベーションは実際に古い壁や床を壊してみないと分からないことも多い。結果その余裕を持たせた見積もり金額にならざるをえないケースもあります。しかしDIYであれば状況にあわせて対応ができ、材料費のみで済ませられるという点を魅力と感じるのでしょう」
ワークショップを体験することで何が得られたのか、参加者の声を整理してみると、
(1)DIYの技術や知識が習得できる
(2)DIYでできること、プロに頼むべきことがはっきり区別できるようになる。
例)給排水管や電気設備などはDIYでは難しいが、それ以外なら腕を磨けば自分でもできることが多い
(3)ワークショップを通じてDIY仲間、コミュニティができる
「知り合いになった仲間と、お互いのリノベーションを助け合う予定です」と話してくれる女性もいた。スクールでは、地域住民の理解を得る意味も込めて団地住民向けのDIYワークショップを開催している。
DIYという作業を通じて、地域の既存コミュニティが活性化されることは茶山台団地や堺市にとってもうれしいことだろう。
“DIYリノベーション”は2015年のキーワードになるかもしれない、という予感を感じさせてくれる取材だった。