「大阪は賃貸物件の契約時にかかる初期費用が高額」という話を耳にしたことがある人も多いと思いますが、実際のところはどうなのか。2010年から2015年のSUUMO掲載データで、その違いを見てみましょう。
図1は敷金の直近5年間の東京・大阪の平均月数の推移です。2015年を見てみると、東京は家賃の1.14カ月なのに対し、大阪は0.89カ月。0.25カ月分大阪のほうが低くなっています。一方、図2の礼金の平均月数の推移を見てみると、2015年は東京が1.05カ月なのに対し、大阪は1.92カ月と大阪は東京に比べ0.87カ月の開きがあります。
2010年と2015年の敷金と礼金を合計すると、
【東京】2.76カ月(2010年)→ 2.19カ月(2015年)
【大阪】4.03カ月(2010年)→ 2.81カ月(2015年)
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[差] 1.27カ月(2010年)→ 0.62カ月(2015年)
となり、東京、大阪共に敷金・礼金の合計額が減少傾向にあるのに加え、2010年当時は1.27カ月分も東京よりも高かった大阪の初期費用が、2015年には0.62カ月までその差が縮まってきていることが分かります。
前述の敷金・礼金の平均月数はそれぞれ敷金・礼金がある物件を対象としたもの。では、そもそも敷金や礼金がない物件はどの位あるのでしょうか?
図3は直近5年間の敷金・礼金なし物件の割合の推移です。東京も大阪も「敷金なし」及び「敷金・礼金ともになし」が増加。東京ではそれに加え、「礼金なし」の割合も増加しているということで、そもそも、最近では敷金・礼金のない物件が増加傾向にあるようです。また、2015年の「敷金なし」の割合が、東京が17.6%に対し、大阪は65.6%と、48ポイントもの差があることに、地域性の違いが感じられます。
地域性という観点で特筆すべきは「保証金」の有無。首都圏に住んでいると耳慣れない言葉ですが、大阪では賃貸借契約の際、「敷金」「礼金」に代わる習慣として、「保証金」「敷引き」というものがあります。
「保証金」は「敷金」とほぼ同義ですが、大阪の場合、賃貸借契約を結ぶ際に、退室時に「保証金」から一定額を「敷引き」として差し引いたものが戻ってくるという取り決め(敷引き特約)をするのが一般的でした。
つまり、東京では、契約時に「敷金+礼金」を支払い、退室時に「敷金-修繕費用など」が返還されるのに対し、大阪の場合は、契約時に「保証金」を支払い、退室時に「保証金-敷引き-修繕費用など」が返還されるということです。
この「保証金」に関して、図4の大阪の保証金ありの物件割合のデータを見てみると2010年から2015年で8.6ポイントも減少しています。また、図3のデータをみると、東京では「礼金なし」物件が増加しているのに対し、大阪では2010年から2013年まで「礼金なし」物件は減少。つまり、「礼金あり」物件が増えており、「保証金・敷引き」から「敷金・礼金」へと、商習慣の変化が見受けられます。
―――2010年から2015年のデータでみると、「保証金あり」の割合が激減しているのですが、どのようなことが背景として考えられますか。
一番大きな要因としては、「消費者契約法」が2001年に施行され、以降「敷引き特約」が消費者契約法10条に違反するものではないかなどが裁判で争われたことが考えられます。結果、「敷引き」について、より金銭的な負担を明確にする必要性が高まり、「保証金・敷引き」というシステムではなく、借りる側が理解しやすく、一般的に浸透している「敷金・礼金」というものを採用するケースが増えてきたということではないでしょうか。
―――「保証金・敷引き」から「敷金・礼金」に変わってきたことで、大阪でも賃貸借契約時に必要な初期費用の額は抑えられてきているということでしょうか。
そもそも、80年代バブル景気のころは、保証金が家賃10カ月分ということも珍しくありませんでしたが、景気の変化と共に、次第にディスカウントされていきました。その上、今や住居系の賃貸物件ではほとんど保証金をとることがなくなってきたため、初期費用の相場は首都圏と大差はなくなってきているのではないでしょうか。初期費用が抑えられたことで、特に若い単身者の方などが引越しを楽しめる状況になってきていると思います。
最近は不動産仲介業の全国フランチャイズ展開が増えたことで、徐々に地域文化がならされ、賃貸契約に関する商習慣が平準化されてきていることも変化の要因として考えられそうです。
賃貸借契約の際、東京と大阪では初期費用に大きな差があるという通説は、もはや過去のものになりつつあります。大阪はもちろん、東京でも初期費用が減少傾向にあるということで、全国的に気軽に住み替えができる環境に変化してきているのかもしれません。