何も調べずに書いたエアロスミスの生涯(第2回)

何も調べずに書いたエアロスミスの生涯(第2回)

菊池良

菊池良

4. 壊れた懐中時計

 

スティーブンはスクスクと成長し、10歳になりました。

 

ある日のことです。

 

お父さんのビクターが大事にしている懐中時計を、スティーブンが間違って壊してしまいました。

スティーブンは見つかったら怒られると思い、キッチンの下に隠しました。

 

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しかし、それはすぐにバレてしまいました。ビクターが問い詰めます。

 

「スティーブン、これはお前が壊したのか?」

「違うよ。そんなの知らないよ」

 

その言葉にビクターは激昂し、スティーブンをビンタしました。

 

「うわぁっ!」

 

奥歯が吹っ飛びます。ビクターは「ちゃんと反省できたら来い」と書斎にこもってしまいました。

 

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どうしていいかわからなくなったスティーブンは、お母さんのリンダに相談しました。

 

「ジョージ・ワシントンって知ってる?」

「うん、初代大統領のことだろ」

 

リンダは語ります。

 

「ワシントンは桜の木を折ってしまったの。普通ならどうなると思う?」

「うーん・・・逮捕かなぁ」

「そう。普通なら逮捕よ。でも、ワシントンは違ったの。正直に話すことで“許してもらった”のよ」

「ゆ、“許してもらう”だってーーー!?」

 

スティーブンの身体に電撃が走りました。

今までは何かあったらミスを隠蔽し、発覚しないようにしてきましたが、まさか別の方法があったなんて。

 

「だから、あなたも許してもらえばいいのよ」

 

スティーブンは不安な気持ちで、ビクターの書斎に入りました。

ビクターは椅子に座りながら、ラジオから流れるジャズを聞いています。

 

「お父さん、ごめんなさい」

 

スティーブンは頭を下げました。

 

「あの時計を壊したのは、お前なんだな?」

「はい、僕が壊しました。不注意でした。ごめんなさい」

 

怒鳴られるんじゃないだろうかと、不安な気持ちが強くなっていきます。

スティーブンが顔を上げると、ビクターの表情は・・・笑顔でした。

 

「正直に言ったお前の勇気に敬意を表して、今回は水に流そう」

 

スティーブンはホッとしました。

ビクターは机の引き出しから、指輪ケースを取り出しました。箱を開けると、中には歯が入っています。さっきスティーブンから吹っ飛んだ歯です。

 

「スティーブン。歯っていうのは子どもから大人になるときに、すべて生え変わるんだ。子どもは間違ってもいいんだ。お前も生え変わればいい。この歯のようにな」

 

そう言うとビクターはスティーブンに指輪ケースを握りしめさせました。

どこか大事なところに閉まっておこう。スティーブンはそう思いました。

 

そのときです。ラジオから流れていたジャズが終わり、曲調の違う軽快な音楽が流れ始めました。

 

テケテケテケテケテケテケ!

 

その瞬間、ビクターの表情が変わりました。

 

「けしからん!」

 

急に怒り出し、ラジオを切ってしまったのです。

 

「まったく。エレキギターなんて、けしからん!」

 

ラジオの電源を切っても、なおもぶつぶつと言っています。

 

(今の音楽はいったい?)

 

わずか数秒しか聞こえなかった音楽に、スティーブンは心動かされました。

 

5. エレキギターってなんだろう?

 

自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がると、頭の中で数秒間の音楽を、何度も何度も思い出しました。

 

(父さんは“エレキギター”って言っていたなぁ。“ギター”はわかるけど、“エレキ”って何だろう・・・)

 

スティーブンはエレキギターの姿を想像しました。重厚で、魅惑的な音を奏でるエレキギター。

 

(きっと象の鼻にギターの弦がついているんじゃないかな? たぶん“エレキ”は“エレファント”のことだな!)

 

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その日の夜、スティーブンはエレキギターに追いかけられる夢を見ました。

 

(つづく)

 

【シリーズ一覧】

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