道路で急に人が飛び出してきた際、レーダーやカメラが素早く検知して車のハンドルを自動で切ってくれる――。日産自動車の開発した「緊急操舵回避支援システム」は、日進月歩でクルマがロボットに近づいていることを実感させられる。
前方車両との車間距離が縮まるとブザー音で知らせたり、ドライバーが障害物を回避する運転をしないときに自動でブレーキをかけて減速したりといった安全技術は、すでにトヨタ、日産、ホンダなど多くの車種で導入されている。
しかし、単なる運転支援のシステムと侮ってはいけない。その驚くべく性能について語るのは、自動車ジャーナリストの井元康一郎氏。
「安全技術を謳うクルマに搭載されているミリ波レーダーは、実は飛行機やミサイル技術などに使うレーダーと同じなんです。どこにどんな大きさの障害物があり、どう動いているのかをリアルタイムで察知できる非常に精密なものです」
そう聞くと、もはや人が操作しなくても車が自動運転して目的地まで連れて行ってくれる時代が、遠からずやってくるのではないかと思ってしまう。井元氏は「技術的には可能なレベルに来ている」という。
「例えば、日産は遠隔操作でエンジンを自在にコントロールする電子制御技術を開発し、無人で駐車させるシステムも公開しています。こうした先進車だけが走る限られた道路だったら、すぐにでも実用化できます」(井元氏)
アメリカではネット検索最大手のグーグルが自動運転可能な車を開発。ネバダ州で公道走行試験を本格化させ、5年以内の実用化を目指している。日本でも2040年には道路交通の75%が自動運転になるとの予測があるが、実現までの道のりは険しい。
「閉鎖された高速道路ならともかく、一般道では不特定多数の障害物をどう判断し、どう動くのかを予測して、危険なときの対処法をアルゴニズム化しなければ危険でしょう。法整備や道路環境のインフラ整備なども課題ですしね。そんなことを考えていくと、完全に自動運転の時代が来るまでには半世紀はかかるかもしれませんよ」(井元氏)
そもそも、クルマは完全自動運転にするのが良いのかというコンセンサスを取る必要にも迫られよう。
「単なる移動手段と考えるならば自動運転もいいでしょうが、それでは電車と同じですし、運転する楽しみがなくなって、逆にクルマの価値が下がる可能性だってあります。そんなことになれば先進技術に費やした多額の投資は水の泡です」(経済ジャーナリスト・福田俊之氏)
技術力の進歩は凄まじく早い。ただ、SF映画のような社会にするかどうかは、最終的には人間の意志次第といえる。