お湯を入れてわずか30秒。たったこれだけでコクと香りのカレーができあがる、江崎グリコのフリーズドライカレー『新世代カレー CURRY POT』。フリーズドライの技術を駆使した、新ジャンルのカレーはどのようにして誕生したのだろうか。
グリコが、新ジャンルカレーの新製品の開発をスタートさせたのは2007年。レトルトカレーの売り上げが横ばいを続ける中、新たな価値を生み出すことが目標にされた。
レトルトカレーに勝るとも劣らぬ素材のおいしさや香りをさらに引き出すことはできないか。食の簡素化に対応し、もっと調理時間を短くできないか。
「今こそ標準を見直し、“創意工夫”にあふれた新しいカレーを作るべきだ」。グリコのDNAが試されたこの時、開発チームのメンバーから提案があがった。
レトルトカレーは、お湯や電子レンジで温めるのが当たり前。その「標準」を見直してみようという提案だった。メンバーからは様々な意見が寄せられたが、チーム内で議論した末に、フリーズドライに挑戦しようとまとまった。
お湯をかければすぐにでも食べられる。技術も確立されている。早速、試作に取りかかった。目標はお湯をかけて30秒で濃厚なコクと香りのカレーソースを完成させること。その実現は容易ではなかった。お湯を入れてもまったく溶けないのだ。
なぜか? カレー特有のとろみを付けるために使用している小麦粉が原因だった。確かにとろみのないカレーも存在する。ならばそれを選ぶこともできた。だが、村上の出した結論は「ノー」だった。
カレーのとろみは小麦粉という「標準」の見直しも必須となった。その時、研究所のスタッフから「野菜や果実を組み合わせれば、とろみをつけることは可能になるかもしれない」という提案が出された。
仕事柄、さまざまな飲食店での食べ歩きを心がけていたスタッフは、ある店で食べた味に可能性を見出したのだ。
その目論見は的中した。ペースト状の野菜と果実の絶妙な配合で、小麦粉でつくるのとは違った味わいのとろみがついたのだ。この製法のフリーズドライカレーにお湯を注ぐと、30秒以内にしっかりと溶け、絶妙のとろみあるカレーに仕上がった。
フリーズドライならではの効果もあった。レトルト食品の場合、調理時に120℃の加圧加熱殺菌を約4分もしなくてはならない。このためカレーの風味や香りまで損なう欠点もあった。
ところが、フリーズドライなら加熱調理後、すぐにマイナス30℃で急速に冷却、真空状態にまで減圧する方式だ。これなら素材の持つコクや香り、旨味もそのままの状態で残すことができる。深みのあるコクはカレーの重要なポイントであることを知っている同社にとって、フリーズドライは願ってもない手法となった。
※週刊ポスト2012年9月14日号