新築の分譲マンションは「できたものを買う」のが基本。注文住宅などと違い、住まい手の個性やエッセンスが入り込む余地はありません。しかしこの程、そんな業界の常識を打ち破らんとする新たな試みが、都内の新築分譲マンションにて行われました。
それは、「マンション契約者自身が、居室の壁を塗る」というもの。ただの既製品として引き渡すのではなく、一部に手づくりの温かみを残す。そんな、分譲マンションの新たな可能性を取材してきました。
というわけで、やってきたのは「エコヴィレッジ蓮根みなみ公園」。東京都板橋区のファミリー向け新築分譲マンションです。過日、こちらで実施されたのが新規契約者を対象にした「自室の壁に珪藻土(けいそうど)を塗る」催し。つまり、入居前のタイミングで、住まい手自身にお部屋の壁を塗ってもらいましょうという画期的な試みです。
今回は、訪問日の数日後に入居を控える安永さん夫婦のお宅にお邪魔し、壁塗りの様子を見学させてもらいました。
慣れない手つきでコテを操る安永さん。プロの左官職人の手ほどきを受けながら、おそるおそる塗っていきます。
左官といえば、プロの職人でも壁を平らに塗るには10年かかるといわれる厳しい世界。素人仕事で仕上がりは大丈夫なのかしらと思っていたのですが、珪藻土というのは「硬さの調整がしやすい」「乾いて硬化するまで時間がかかる」「何度でも塗り直しができる」とった特性があり、素人でも比較的塗りやすい素材なのだとか。仮に少しくらい失敗したとしても、その塗りムラがかえって味になるんだそうです。
これから長く暮らしていく家で、夫婦初めての共同作業。ふたりで協力しあい、せっせと珪藻土を塗る姿は、夫婦の絆を塗り固める儀式のようでもありました。
たとえ喧嘩をしたとしても、きっと壁を見る度「ああ、この壁ふたりで塗ったんだよな…」なんて、かつての甘い気持ちを思い出したりするのでしょうね。
今回の催しを企画した同マンションのデベロッパー・リブランによれば「自分たちで塗った壁は生涯の宝物になりますし、家族の絆を深めます。傷がついてしまっても、また家族みんなで塗り直せばいい。そうやって自分たちの手を使いながら、丁寧に住まうことの歓びを感じていただけたらうれしいですね」とのこと。
壁塗り自体は正味1時間程度のものでしたが、夫婦にとってはとても意義深いひとときだったのではないでしょうか。感想を聞いたところ「たとえ少しでも自分たちが住まいづくりのプロセスに関わることで、より愛着が湧くと思います。家に遊びに来た人にも、ここは自分たちでやったんだよって自慢したいですね」と満足気でした。
なお、リブランでは今後も同社が手がける新築の分譲マンションに対し、同様の催しを仕掛けていくとのこと。99.9%まではプロがつくるにしても、最後の0.1%に住まい手が関わる。今後、そんな分譲マンションが増えていくことに期待しましょう。