<入居者プロフィール>
田中景さん(28歳)、悠美子さん(28歳)/夫婦/会社員
■住まいデータ
所在地:静岡県静岡市葵区
アクセス:東海道本線「静岡駅」よりバス10分、徒歩2分
築年数:築28年
間取り:2LDK/約56m2
家賃:9万2000円(管理費込み)
入居時期:2012年10月
最近は賃貸でもオシャレにリノベーションが施された物件が増えつつあります。しかし、それは東京、大阪、福岡など大都市圏に限った潮流。地方都市においてはまだまだ事例に乏しく、リノベ物件はおろかデザイナーズ物件すらほとんどないのが現状かもしれません。では、地方でオシャレな賃貸物件に住みたい人はどうすればいいのか?
2012年10月、夫の転勤で川崎市から静岡市に転居してきた田中さん夫妻も、新居探しにあたってそんなお悩みを抱えていたとのこと。
「川崎のときも新築のデザイナーズ物件に住んでいて、とても気に入っていました。なので、静岡での新居も同じような雰囲気のところがいいなと思っていたのですが、当時このあたりにはあまりグっとくる物件がなくて……。けっこう急な転勤で物件探しの時間も限られていたから焦りましたね」
忙しい仕事と転勤準備の合間をぬっての新居探し。しかし、妥協はせず「静岡 デザイナーズ 賃貸 リノベーション」などのキーワードを軸に、根気よくインターネットで物件探しを続けた結果、ついに理想的な部屋に巡り合ったとか。
「その部屋は静岡のリノベーション物件が掲載されているサイトに載っていたんですが、写真を見てすぐ『この写真の部屋に住みたい』って思いました。残念ながらその部屋はデザインを手がけられた山口芳紀さんという方がそのまま事務所としてお使いになるということで僕らは住めなかったんですが、その山口さんから『これからリノベーション工事に入る物件があるから同じような雰囲気に仕立てることも可能ですよ』とご提案いただき、お願いすることにしました」(田中さん)
当該物件は築28年の賃貸マンション。前入居者が退去し空室となったタイミングで、これからまさにリノベーション工事に入ろうかという段階だったとか。で、そのデザイン設計を任されていたのが山口さんだったと。かなり絶妙なタイミングですね。
「この物件のオーナーである落合さんは、もともと入居者が自分たちの好みに合わせて内装や設備をオーダーメイドできるような賃貸住宅をやりたいと考えておられました。そんななか、田中さんからの申し出もあり、じゃあここを静岡発『オーダーメイド賃貸』の第一号にしようと。内装材を全て取り払ったスケルトンの状態から、ご夫妻の要望を取り入れつつ形にしていきました」(アールデザインスタジオ・山口芳紀さん)
田中さん夫妻にとってはまさに渡りに船。壁紙や床、細かい設備に至るまで自分たちでチョイスできる、しかも工事費(380万円!)は全額オーナーが負担。夢のようなうまい話に若干の疑いを抱きつつも、すぐに乗っかったそうです。
「賃貸物件で自分たちの好きなようにカスタマイズできるなんて最初は信じられなかったです。こんなチャンスを逃す手はないなと、すぐに入居を決めましたね。基本的なデザインは山口さんにお任せしつつ、夫婦ともにビンテージな風合いが好きなのでその観点から壁紙や床を選んでいきました。あとは細かい部分の要望にいろいろ々とお応えいただきましたね」(田中さん)
打ち合わせ期間含め1カ月半というスピードで完成したオーダーメイドな我が家。デザイン性はもちろん細かい設備に至るまで、夫婦の要望を完璧に満たすものに仕上がっています。例えば、大量の洋服を収納できる奥行きあるウォークインクローゼット、箱までとっておきたい「靴マニア」である夫のコレクションを全て保管できる玄関脇の大棚は、田中さんの要望によってつくられたもの。ほかにも、洗濯機置き場の上にバスタオルを置いておける棚を設置したり、洗面所の鏡が開閉式の収納棚になっていたりと、使い勝手に配慮した細かい工夫が随所になされています。
その一方で、洗面下やキッチンまわりにはあえて収納スペースをつくらず空洞状態に。住みながらカスタマイズできる余地も残しています。山口さんによれば「一部に余白をつくり住まい手に委ねることで、カスタマイズして暮らす楽しさが生まれると思います。例えば田中さんの場合、洗面下の空白スペースに突っ張り棒を立ててうまく収納をつくり、その上からビンテージ風の布をかけてオシャレに使ってくれています。そうした自由な発想を楽しんでいただく部分も含め、オーダーメイドなのかなと思います」とのこと。
なお、田中さん夫妻がここに転居してからすでに2年近く経っていますが、壁や床にはシミひとつなく、まるでつい最近住み始めたかのような綺麗さ。とても大切に住んでいるのが伝わってきます。それも「自分たちでつくりあげた」という愛着があればこそではないでしょうか。
なお、当物件オーナーの落合さんは今後も山口さんとタッグを組み、こうしたオーダーメイド賃貸を拡大していくそうです。静岡を皮切りに、他の地方都市でもこうした事例が増えていくことに期待したいですね。