神奈川県川崎市にある武蔵小杉は大規模な再開発が続き、注目を集めている街だ。めまぐるしく変貌を続けるこの街のなかで、ひときわ輝く1日があるという。「コスギフェスタ」と名付けられた、そのイベントに参加してきた。
「コスギフェスタ」が行われたのは、好天に恵まれた10月25日。澄み切った青空のもと、およそ5万人が来場したほか、テレビ撮影も入るなど、大盛り上がりの1日となっていた。そもそもコスギフェスタとは、今年で4回目を迎えた武蔵小杉の住民によるお祭り。ただ、このイベントのすごいところは、再開発で誕生したタワーマンションに住んでいる人をはじめ、旧来から武蔵小杉で暮らしている地元商店街がコラボして、ともにつくりあげたところにある。
ご存じの人も多いかと思うが、武蔵小杉の再開発は工場跡地などを中心に行われており、面積・戸数ともに大規模。タワーマンションも複数誕生しているだけでなく、分譲会社も分譲・入居時期も異なっている。その複数のタワーマンションを巻き込みつつ、旧来から住む商店街の人とのコラボするイベントとは、まさに前代未聞の試みといっていいはず。では、その狙いとは? コスギフェスタの仕掛け人に、話を聞いてみた。
「イベントを始めたそもそもの目的は2つあります。1つは子どもにふるさとや思い出をつくってあげたいということ。僕自身はタワーマンションで暮らしていて、今子育て中なんですが、子ども時代のことを思い出すと、お祭りの記憶が思い起こされるんです。大人になってからもお祭りにあわせて帰省していたこともありました。自分が親になった今、子どもたちにお祭りの思い出をつくってあげたい、というのが1つめの理由です」と話すのは、このイベントの責任者でもある山中佳彦さん。
「そしてもう1つの理由が、やはり今まで武蔵小杉にお住まいだった方との相互交流です。武蔵小杉には、『花見市』や商店街が開催する『餅つき大会』『そうめん流し』といった定番のイベントがありますが、タワーマンション住人からすると参加していいのか、少し構えてしまったところがありました。そこで、新旧の住人が自然に交流をはかれる機会をつくろうということで、このイベントを立ち上げました」と山中さん。そのとき、すでにいくつかのタワーマンションで秋に行われていた「スタンプラリー」があったのだが、これと合併するかたちで、この「コスギフェスタ」が誕生したのだという。
「タワーマンションに暮らしている住人と、もっと交流をはかりたい」。実はこうした思いは、今まで武蔵小杉に住んでいた商店街の人たちも同じだったようで、イベントを開催するうちに、全面的に協力してくれるようになったのだとか。
「武蔵小杉の商店街は、昔ながらの飲み屋街のような面影を残していて、一見さんにはちょっとハードルが高い。でも、行くとすっごくいいお店がたくさんある。だからこのイベントでそのハードルをさげられたらいいと思っていたんです」と話すのは山中さんと同じくタワーマンションに暮らし、ともに責任者をしている松尾寛さん。
第1回のコスギフェスタでは、1人のスタッフとして参加していたが、山中さんに誘われるかたちで、今は責任者に。親子ほども年齢差があるが、冗談を言いながら、楽しそうに参加している。
イベントでは、地元の飲食店のブースがならんだほか、武蔵小杉や川崎ゆかりのキャラクターが集合したり、ベビーマッサージ教室が行われていたりと、内容も多彩で、実施エリアも広い。メインとなる会場は、東急東横線の武蔵小杉駅前すぐの「こすぎコアパーク」だが、仮装パレードで練り歩いたり、複数のタワーマンションをスタンプラリーでまわったり、そこかしこに仮装している大人や子どもが歩いているので、街全体に祝祭感が満ちている。住人の手づくり、しかも4回目にしてはあまりにもクオリティが高すぎるような気もするが。
「武蔵小杉に住んでいる人って、職業も年齢も、家族構成もまったく違います。でも、イベントに積極的で、しかもすごいスキルを持っている人がたくさんいるんです。個々人の能力をお借りしてきたら、ここまでのイベントになっていました」と山中さん。住人の「武蔵小杉愛」がこのイベントを育ててきたかたちだ。
しかし、想像以上に規模が大きくなってしまったゆえの悩みもあるようで、「いちばんはスタンプラリーの数ですね。事前申し込み制なので、今年は1500名分用意しましたが、初日に700名近くの申し込みがありました。最終的には1500名分も完売になってしまったんですが、『お友達が参加するから私も』などと申し込みがあってもすでに完売してしまっていて…。お子さんが泣かれてしまうのは、悩ましいところです」と松尾さん。
武蔵小杉が、短期間で大きく変貌しつつあることに、複雑な気持ちを抱いている方もいることだろう。だが、「コスギフェスタ」のような、愛のあるイベントを街全体で共有して、積み重ねていくことで、住んでいる人の思いが強くなり、「つながり」や「愛着」が育まれるのではないか。今住んでいる街を「魅力ある、ずっと住んでみたい街」とするために肝心なのは、やっぱり住んでいる人自身なのではないだろうか。筆者も何かできることを1つでも、してみたいな思う取材となった。