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米国産ピーマンと伏見とうがらしの交配で誕生した京野菜とは

京都人は野菜の味にどん欲

 夏に野菜をもっとも多く食べるのは京都府民だ。京野菜に代表される「野菜どころ」でもある。夏野菜の魅力について、食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が語る。

 * * *
 春は芽のもの、秋は実のもの、冬は根のもの──。野菜の旬をあらわした言葉である。春は山菜などの新「芽」を、秋は栗などの「実」を、冬は大根や長ネギといった「根」に旬の味があるという。

 ところが夏だけは「夏は葉のもの」「夏は水のもの」「夏はつるもの」といくつかの言い回しがある。といっても、まったく違う野菜が夏に旬を迎えるというわけではない。「葉のもの」は青々と葉が生い茂った様子をあらわし、「水もの」とはたっぷりと水分をたくわえたたわわな実の姿を。「つるもの」とは「蔓物」でつるという植物の特徴を指している。

 そんな夏野菜の味にもっともどん欲なのが、京野菜でも知られる京都市民だ。総務省の家計調査(2012年・総世帯調べ)において、京都は夏野菜の支出金額のNo.1と言える存在だ。特産品の小茄子や賀茂茄子など品種の豊富なナス(2563円)や、文字通り水分をたっぷりとたくわえたトマト(8090円)やピーマン(1911円)など、夏野菜への支出金額で第一位の品目が目白押しなのだ。

 もともと京都は、どの季節の「旬」野菜でも支出金額が多い都市である。「京都の着倒れ、大阪の食い倒れ」ということわざとは裏腹に、「春」のたけのこや「冬」の大根など、それぞれの季節でも何品目かの野菜は、支出金額で第一位に。さらには品目としては取り上げられない「その他の野菜」カテゴリーの年間支出も、第一位の新潟(2万9277円)、第二位の秋田(2万8914円)に続く堂々の第三位(2万8599円)に。また「梅干し」「だいこん漬け」「はくさい漬け」以外のすべての野菜の漬物をくくった「他の野菜の漬物」も第一位は京都の指定席だ。

 生食できるものも多い旬の夏野菜は、ビタミンをしっかり体に取り込むことができ、豊富な水分は体温の調整機能に一役買うことができる。「京野菜」というブランドに象徴されるように、京都においての野菜はそのアイデンティティに関わる重要な素材だ。水分の豊富なナスやきゅうりなどの夏野菜は熱帯のインドから中国を経由して、日本に伝えられた。トマトやピーマンなどの中南米原産の夏野菜は16~17世紀にポルトガルを経由して伝来したという。

 代表的な京野菜の万願寺とうがらしは大正末期~昭和初期に、アメリカでもポピュラーなピーマンのカリフォルニア・ワンダーと伏見とうがらしの交配によるもの。長く農家の自給用だったものが、1983年からJAで販売がスタートしたという。つまりまだ商品化されて30年しかたっていないという「伝統野菜」なのだ。

 およそ100年ほど前、明治の文明開化で洋食や中華など海外の食を取り込み、現代日本の食文化の土台は構築された。旬の夏野菜には、万願寺とうがらしのように最近になって定着したものも多い。だが青々とした葉をしげらせるとうがらしは、間違いなく「夏は葉のもの」だ。

 純粋で典型的な「和食」だけではない。例えば夏場のカレーや冷やし中華なども、日本では大衆的な「日本食」として、さまざまな業態の店で食べることができる。仕立てだけでなく、使われている具材や素材などをよくよく考えれば、いずれも「夏」にふさわしい。もうすぐ「葉のもの」の夏は通り過ぎ、「実のもの」の秋がやってくる。「舌で季節を感じられる」のは、京都人だけではないはずだ。

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