白ペンキがちょこちょこ剥げた廊下を進み、重そうなスチール扉をおもむろにノック。ドアが開いて部屋が見えたとたん、同行者が息をのむが分かりました(もちろん私も)。そして、「うぉー!」と歓声をあげながら次々にお部屋にお邪魔する私たち。
外から見ていたビルのおんぼろ具合や、廊下の無機質さからは予想もできない、スコンと広く明るい空間。広い部屋いっぱいに、日光を届ける天井一面のきらめく蔦(ツタ)たち。迎えてくれたのは、はにかんだような笑顔が魅力的なKim Harrison。ここは、彼女がパートナーのHagai Yardenyと暮らす部屋です。
150m2ほどのただっ広いワンフロアに、なんとも無造作に置かれた椅子やソファやテーブルたち。天井から吊られた椅子に座って、「(2頭の愛犬が)この辺を一番好きなの。彼らの好きな場所を一緒に楽しむために、ここに下げてるの」と語るkim。この椅子が彼女の一番好きな場所だそう。
ベッドは朝日で目覚められる窓の側に、集中しやすい暗い玄関横にはワークスペースを。一見、バラバラに置いているように見えた家具たちも、よく聞くと、二人の「したいこと」「過ごしたい時間」が優先されていて、だからこんなに心地よいんだなと納得します。
座りたいところに椅子を持っていき、寝たい場所で寝る。気分が変わると場所を移動して、広い部屋の中を旅するように暮らす。そんな二人の生活が目に浮かびます。だからこそ、彼らの家具は質素で軽やか。ベッドは、古いワイン箱を重ねた上にマットを置いたもの。ベッドボードもワイン箱でつくりました。照明や他の家具も手づくりしたり、友人からもらったり。求める暮らしの形が明確な二人には、存在を主張する重々しい家具より、二人の気持ちに沿って持ち運べる家具がよく似合います。
二人が住むような、あまりに広い空間はガランと落ち着かなくて、実は暮らしには不向きと思われがち。壁や家具で区切ったり、ラグを敷いたりして、落ち着くサイズにするのが一般的です。しかし、この部屋はポンと150m2ほども広いのに、明確な仕切りは何も無く、家具もポンポンと置いてあるだけ。なのに、不思議とまとまっていて、落ち着きます。
なんでだろうと、部屋をうろうろして気づいたのが、天井から垂れ下がる青々とした蔦の葉っぱ。ともすると、殺風景でバラバラになりそうな広い空間を、蔦の葉の緑がやわらかに太陽の光を取り込んで、明るく温かい雰囲気をつくり上げているのです。
大きなコンテナに植え替えて、光を当て、天井までの棒に巻き付けて、二人は丁寧に4年をかけて蔦を育ててきました。「部屋づくりはまだ道半ば。これからが楽しいのよ」と笑う二人の、この先の部屋が楽しみです。
Chiristoの部屋は、実は2度目の訪問。初めてこの部屋を訪れたとき、彼のユニークな色彩感性あふれる部屋に惹かれ、2時間ほどもじっくり座って話を聞きました。再訪して、改めて彼のものづくりへの情熱に感銘を受けることになりました。
Christoがこの部屋に移り住んで約10年。約30年前に、アフリカからニューヨークに渡ったアーティストは、今は会社経営者の顔も持ちつつ、好きな仕事に没頭しています。そんな彼にとって、部屋は一番の自由の象徴。その時々の感性で手を加えられるように、可変性を重視して部屋づくりをしてきました。
「意味を決めつけたり、デザインしきっちゃいけない」というように、彼の部屋で目を引くのは、天井から垂れ下がる大きなカーテン。大胆な赤のカーテンや白色の大きな布が、おもむろに空間を仕切っていて、開いているときと締めたとき、まったく違う表情が印象的です。最近ではairbnbで人を迎えられるように、カーテンで仕切った空間にベッドを置いて、部屋にもしました。
また、玄関すぐの窓辺には、古いフローリング材をつなげ曲線にカットした広い小上がりが。大きな丸いテーブルの周りに、30人が座れるほどの広さを確保して、親しい仲間とのホームパーティを開くそう。窓から一望できるワラバウト湾を楽しみながら、外と中を行き来して、バーベキューも楽しんでいるとか。
部屋の奥に見える小さな窓は、実は浴室の窓。「バスタブにつかりながら、外のブルックリンの景色が見たかった」と、空のバスタブに浸かって眼の高さに窓をつけました。自分の一番いいように部屋をつくる。そんな彼のスタンスが、随所に表れる空間でした。
今回ご紹介した部屋はどちらも、自分の思うままに大胆に空間に手を入れた部屋でした。どんな人が住んでいるのか、どちらの部屋も入ってすぐに連想できるほど部屋は人を表します。次回は、日本では見たことが無い「家の中の家」をお届けします。