ミュージシャンにお金を払う いちばんの方法

先日もちらっと触れましたが、iTunes、iOSなどと連動するApple Musicが発表されました。

大々的な報道と注目度、もともと持っているiOS(iPhone,iPad)とiTunes(Win,Mac対応でiOS使う人はかなり必須)の利用者の膨大さからして、無料で音楽聴き放題なサービスをやっている先行音楽サービスSpotifyなどを叩き潰せるかどうかに注目が集まっています。

が、自分は違うところが気になっています。

AppleやSpotifyは結局レコード会社にいくら支払い、レコード会社はミュージシャンにいくら支払うのか、という話です。
端的に言えば、僕らが「 ミュージシャンにお金を払う 」のに一番よい方法はなんなのか?

かつてCDの時代、アーティストの契約内容によって相当な差は出るのですが音楽を創りだした人の権利から発生する取り分1、いわゆる「印税」という慣用句は3〜8%といったところでした。CDが3,000円で売れたら、まあ150円入ってきたらそれなりに嬉しい、というか良いレベルのミュージシャンと言えたでしょうし、それが10万枚も売れれば大雑把に1500万円の収入、そのほかにライブやTシャツなどに始まるマーチャンダイズ収入からも何%かが得られたはずです。

ところが今や、世界的にCDなんてウォルマートみたいなスーパーでたたき売り。熱心なファンはiTunesでダウンロード購入するし、そこそこ好き、ぐらいの人はSpotify、Pandora、Rdio、Tidalなどなど、ネットを通じて無料または定額契約すれば聴き放題というサービスを使うようになっています。日本では結局、既得権益なみなさんがカネのなる木を失うわけにはいかん!とばかりに策動されているせいか、台湾やフィリピンでもサービスインしているSpotifyにもスルー2されてしまっています。

なんでかというと、CDの方が儲かるからですね。日本の若い人の間では、Youtube検索してアップされているものをグレーなもの含めて聴くというのが一般化していますが、それもこれもネット経由できちんと楽に音楽を聞く方法を日本のレコード会社や権利団体が邪魔しまくっているからです。

ま、それは余談として、世界最大手であるこのSpotifyがストリーミング一回に対してアーティストにいくら払うのか。

これは一部のアーティストが以前から公開していたので有名な話だったんですが、0.006から0.0084ドル。
世界的に売れたClavin Harris “Summer”は2014年に20300万回も再生されて、支払いは最大でも170万ドル、と発表されました。これが多いか少ないかはさておき
Spotifyは「Taylor Swift級のミュージシャンには600万ドル払った」とアピール。ところがTaylor Swift側はUS国内でのストリーミングから得られたのは496,044ドルだと公表。現在ではSpotifyで彼女の曲は聴けなくなっています。

どういうことでしょう?

僕らは元々音楽が好きで、それを楽しみたいからアーティストとその周辺にお金を出してきたわけです。もちろん人によっては単に渋いレコードが買えればそのお金がアーティストの手元に届こうが届くまいが気にしない人も多いでしょうが。でもアーティストで大きな組織を動かして自分を売り込んだり出来る人は少ないですよね? だからその手助けをする会社としてレコード会社をはじめ芸能事務所だ音楽出版だといろいろな企業があったわけです。そのなかでお金の分配を決めてきたわけですが、どうもストリーミングという新しい仕組みについてはなんだかとても安い金しかアーティストに届かないらしい、ということがわかってきました。

それがよりはっきりしたのは、先日SpotifyとSony Musicとの契約内容が漏れたためです。
これによると、Sonyは巨額の前払金をSpotifyから複数年契約として受け取っています。各レーベルのシェアに従った算出で取り分を少しでも大きくできるコスい条項まで盛り込んでいますが、それ以上に問題なのは内部告発者によると「これらの前払金は使いみちをはっきりさせずに会社のためにとってある」というのです。ミュージシャンの作品をサポートするのがお仕事だったはずのレコード会社が、自分の取り分を確保してから、残った少しのお金を計算してみんなに分配していると。こんなおかしな話がありますか?

これに対して、Jay-Z主導で人気ミュージシャンが協力して立ち上げなおされたサービスがTidalです。音質の高さやミュージシャンとの密接な関係による独占コンテンツなどを売りにする一方、アーティスト自身によるサービスだけに1回のストリーミングあたりの支払いはSpotifyの3倍から4倍との数字が出ています

こういった状況下で、出てきたのがApple Musicです。
大手ですよね。Spotifyのようなやや若い企業よりも、よほど強い発言権のある関係をレコード会社との間で作ってきた彼らが一体アーティストにはいくら払うのか。

音楽のような、「普通は食えない」ことを職業とする人たちがどれだけ生き残れるのか。
音楽をイメージ戦略に大活用してきたAppleだけにその部分はぜひとも裏切らないで頂きたいと思っているのですが……サービスが始まれば、近いうちにミュージシャンたちからの「レポート」が聴けることになると思うので楽しみにしたいと思います。

それまで、僕は引き続き「(アーティスト側の)手数料が格安のサービス」3、僕が支払ったお金の85〜90%4がアーティストやレーベルに渡るBandcampで音源を買い続けるつもりです。

もちろん将来的には「音源を買う」ということの意味がはっきりと変わってしまうでしょう。ですが、創作というものを支えるのにはそれを楽しむ人たちがお金を支払うことが必要なのは変わりません。そのための、なにか違う道もあるかもしれません。それをみんなで考えていかなければと思っています。

みなさんも、「小さな」アーティストを応援してみませんか?

そして素晴らしい音楽を創り上げた人と、これから作っていきたい人への愛情が込められたこちらも。
  1. 著作権は原則、作者にありますが著作隣接権などは音楽家ではなくレコード会社、音楽出版社などが保持することが多いのです。
  2. 国内でのSpotify人事募集は随分前にあり、日本支社がありながら数年来の交渉を経ても「オリンピックまでには」という体たらく
  3. 誤解を招く表現があったため訂正しました。bandcampはアーティストへの無償サービスではありません
  4. 実は一定数が売れるまでは全額がアーティストに支払われます。