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コハマジュンイチ
2015年5月7日 (木)

実家の親が認知症。その時、不動産の売却はどうすればいい?(2)

実家の親が認知症。その時、不動産の売却はどうすればいい?(2)(写真:iStock / thinkstock)
写真:iStock / thinkstock

親が認知症になり、申し立てを行って成年後見になったあと、さまざまな理由で親が住んでいる実家の売却が必要になったとしたら、どうすればいいのか。家庭裁判所に居住用財産の売却許可を申し立てるとき、知っておきたいことなどを司法書士武田十三さんに伺った。

自宅の売却には、家庭裁判所の許可が必要

大阪と京都を結ぶ私鉄沿線。特急停車駅でもある大きな街の駅近くの住宅街に91歳のNさんは居住していた。
が、Nさんは最近判断能力の低下がみられ日常生活にも困難をきたしていた。認知症の診断を受けたNさんの子どもたちは、話し合いの結果特別養護老人ホームへの入居を決めた。さっそく、長男のSさんが、高齢者住宅への入居手続きをするために後見人候補者となり、申し立てを行った。

このケースでは、幸い長男のSさんは成年後見人として認められたのだが、問題となったのが、自宅の売却許可であった。Nさんが所有する実家を売却するためには、家庭裁判所の許可が必要だ。正式には「居住用不動産処分許可の申立」を行う必要があるということだった。

そもそも処分する必要があるの?ということも判断される

そこで、Sさんは、司法書士を通じて家庭裁判所に申し立てを行った。裁判所が処分を許可するかどうかの判断基準として挙げているのが、

(1)被後見人のどの不動産を処分するのか
(2)誰に対して処分するのか
(3)どのような価格・条件で処分するのか
(4)処分する必要があるのか

といったポイントだ。Sさんが今回行った申し立てで、裁判所の判断として引っかかったのが、4のポイント。つまりそもそも売却する必要があるのか、という点。

確かに、施設の費用を捻出するというのは、誰もが納得のいく理由ではあるが、預貯金も含めて十分な現金資産を持つNさんにはそこまでする必要もなかった。Nさんが建てたこの住宅で、3人の子どもたちは育った。彼らにとっても思い出がいっぱい詰まった家ではあったが、住む人が誰もいなくなるこの家を、誰が管理し、維持していくのかといった問題があった。兄弟同士のもめ事となりそうなこの問題を避けるため、売ってしまおう、というのが兄弟の一致した結論だったのである。

成年後見制度のポイントは、あくまで“被後見人のため”かどうか

居住用不動産の処分許可はあくまで、被後見人(Nさん)にとって必要かどうかが検討されるものであり、後見人(Sさん)自身、あるいは推定相続人となるものの意向は、関係ないとされる。従って、被後見人の財産管理の趣旨に照らし合わせて、売買契約そのものの内容、具体的には価格や売却先等も検討されるわけだ。

このケースでは実際には「特養ホームの費用の捻出」ではなく、居住用財産の「老朽化」を理由として、売却は許可されたわけだが、成年後見制度を理解するうえで大切なのは、「被後見人の生活にとって良いか悪いか」ということ。「推定相続人としての立場もある親族後見人の場合、相続税対策といったような本人以外の利益につながる処分であってはならない」ということだ。

つまりそこには「親のものは相続で継承される家族のもの」といったような家族単位の考えは、ない。さまざまな法制度が「家」を単位に成り立っている中、成年後見制度は、あくまで個人ための利益を社会全体でサポートしようとするものなのだ。

実家の売却は、子どもたちの都合では許可されない。
成年後見制度は「家族の関係」とは一切関係ない制度だ。しかし、民法では、子どもは親の扶養義務があるのも確か。認知症になった親の生活を支援する子どもとしての義務。それと、成年後見人としての責任。もし、実家を売却することになったとき、ここをしっかり分けて考える必要がありそうだ。

●取材協力
武田十三事務所
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