サイト内検索:

遺産分割協議編(前編)

1.遺産分割協議について

 被相続人が亡くなると、相続が開始され、相続人が被相続人の財産を引き継ぎます(民法896条)。(以下で、単に○○条とある場合は、民法の条文です)
 相続人が複数いる場合はその相続財産はその共有に属し(898条)、遺産分割の手続を経て、最終的には個々の財産が各相続人に帰属することになります。

 遺産分割は遺言があればそれに従い、ない場合は原則として法定相続分によることになりますが、遺産分割協議でこれと異なる分割割合を決めることもできます。

 もっとも遺産分割の基準として、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と規定されています(906条)。
 これは、機械的に平等に分割するのではなく、種類や各相続人の置かれている状況などを考慮して、相続人間で不公平のない分け方をすることが望ましいことを意味しています。

 また、遺産の分け方について容易に話し合いがまとまらない場合も考えられます。
 話し合いによって解決できない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停または審判の申立てをすることにより解決する方法もあります(907条2項、家事審判法9条1項乙類10、同17条)。


2.遺産分割協議の方法

1) 

 遺産分割協議は、遺言で分割が禁止されている場合を除いて、相続開始後(被相続人の死亡後)であればいつでも行うことができ(907条1項)、いつまでにしなければならないという期限はありません。
 ただし相続税の申告義務がある場合は、その相続の開始があったことを知った日の翌日からから10ヶ月以内に申告しなければならないという期限がありますので(相続税法27条1項)、一応その期限までに終了させることが望ましいといえます。

 遺産分割協議は、相続人が全員参加することが要求されています。
 相続人が1人でも欠けていたりするとその分割協議は無効になります。

 違産分割協議は、相続人全員が一堂に会して話し合いをするのが望ましいのですが、相続人の中には遠方に住んでいる場合もあり、実際に全員集まるのが難しい場合があります。
 その場合は、電話や手紙で調整することも一つの方法です。

 相続人全員の話し合いで決まったことは、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名捺印し印鑑証明書を添付しておきます。

 遺産分割協議書は必ず作成しなければならないという法律上の決まりはないのですが、協議の有無、内容についてのトラブルになった場合に証拠となるので、できるだけ作成しておいたほうがよいでしょう。
 また、遺産分割協議で決まったことは、不動産の登記、預貯金の解約、相続税申告の際に遺産分割協議書の提出を要求されますので、内容に間違いのないようにきっちりと作成しておきます。

 一度作成した遺産分割協議書は、原則としてやり直しができないので納得するまでよく話し合うことです。

2) 

 遺産分割協議をする前に以下の点をはっきりさせておく必要があります。

  • 相続人を確定する
  • 相続財産の範囲を確定する

 以下、具体的に説明します。

ア.相続人を確定することについて

 誰が相続人かわかっているつもりでも、相続人たる資格を有する者が他にいたというケースもありますので、念のため被相続人の出生時から死亡に至るまでの被相続人の戸籍謄本などを取寄せて確認します。
 仮に遺産分割協議に、相続人が1人でも欠けている場合には無効となりますのできっちり確認しておきます。

 相続人の中に未成年者、胎児、認知された婚外子(非嫡出子)、行方不明者がいる場合は難しい問題を含みますので、次回詳しく説明します。

イ.相続財産の範囲を確定することについて

 遺産分割協議をする前提として、遺産の範囲が決まっていなければ具体的な分割の話し合いになりません。
 また、相続財産の一部を除外して遺産分割をしても、後に除外した財産について再び遺産分割が問題になる可能性があります。
 相続財産の範囲を明確にするために、相続財産目録を作成しておくのもよい方法です(分割協議で必ず作らなければならないという決まりはありません)。


3.寄与分あるいは特別受益がある場合

1) 寄与分がある場合

 寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与・貢献をした者がいる場合、その者の本来の相続分に一定の加算をする制度です(904条の2第1項)。
 被相続人の財産の維持や増加について寄与・貢献をした者を、何の貢献もしてない他の相続人と同様に扱い、あくまでも法定相続分どおりに分配するというのでは、不公平といわなければなりません。
 そこで法は、相続人間の公平を図るため、特別に寄与分を認めたのです。

 寄与分が認められる行為は以下の場合です。

  • 被相続人の事業に対する労務の提供
  • 被相続人の事業に対する財産上の給付
  • 被相続人の療養看護
  • その他の方法

*その他の方法とは、前述の労務の提供、財産上の給付、療養看護に匹敵するような方法であることが必要です。

 もっとも、寄与分権利者となれる者は、相続人に限定されています。
 つまり、共同相続人でない者(内縁の妻、被相続人の子と死別した配偶者など)は、被相続人の財産の維持・増加に貢献したとしても寄与分は認められないのです。

 具体的な寄与分の額について、相続人全員が話し合いでどの程度の寄与があったか協議し額を決めます。
 寄与分はどのように決めても構いませんが、遺贈の価額を控除した額を超えることはできないことなっています(904条の2第3項)。

 寄与分の額が決まると、被相続人が相続開始の時点で有した財産から寄与分の額を控除し、これを相続財産とみなします。

相続財産 - 寄与分 = 残った財産(みなし相続財産)

 もし、寄与分についての話し合いがつかないときは、家庭裁判所に寄与分を定める調停を申立て、それでもまとまらない場合は、審判の申立てに進みます(904条の2第2項、家事審判法9条1項乙類9の2、同17条)。

 寄与分があった場合の具体例を挙げてみます。
 相続人として、母、長男、長女の3人がおり、被相続人である父の財産が8,000万円であったとします。
 そのうち長男が無給で、父の事業を手伝った甲斐があって、事業の発展に多大な貢献をしています。
 そこで、相続人全員が話し合って、長男の寄与分が3,000万円と決定されたとします。

 まず、相続財産から寄与分を控除します。

8,000万円 - 3,000万円 = 5,000万円

 次に、みなし相続財産5,000万円を法定相続分で計算します。

母 5,000万円 × 1/2 = 2,500万円

 長男、長女の各人の相続分

5,000万円 × 1/2 × 1/2 = 1,250万円(それぞれの相続分)

 以上をもとに、寄与分を考慮した相続人の具体的相続分は、

母  2,500万円
長男 4,250万円(相続分1,250万円 + 寄与分3,000万円)
長女 1,250万円

となります。

2) 特別受益がある場合

 特別受益とは、相続人が生前贈与や遺贈を受けていた場合は、他の相続人との公平を期すために本来の相続分から受益分を差し引く制度です(903条1項)。

 遺贈については、すべて特別受益の対象になりますが、生前贈与については、何が特別受益なのかその対象に限定があります。

  • 婚姻のための贈与
    持参金、嫁入り道具、結納金、新婚旅行などの費用など
  • 養子縁組の贈与
    持参金、新居など
  • 生計の資本
    子が世帯を持つときに土地や財産などの援助を受けた、営業資金を出してもらったなど

 生前贈与があった場合の具体例を挙げてみます。
 相続人が、母、長男、次男、長女で、被相続人である父が残した財産の総額が9,000万円とします。
 そして長男が営業資金として1,000万円の贈与を受け、姉が結婚の際の支度金として800万円をもらっているとします。

 特別受益を考慮せず法定相続分で計算すると、

母 9,000万円 × 1/2 = 4,500万円
長男、次男、長女の各人の相続分
9,000万円 × 1/2 × 1/3 = 1,500万円(それぞれの相続分)

となりますが、これでは何ももらっていない次男は不公平です。

 そこで、特別受益を考慮してみると、
 遺産総額9,000万円に長男の営業資金1,000万円と結婚支度金800万円を加えると、みなし相続財産は、1億800万円になります。
 これを遺産分割の際の基礎とします。このような処理を行うことを「特別受益の持ち戻し」ともいいます。

母 1億800万円 × 1/2 = 5,400万円

長男、次男、長女の各人の一応の相続分
  1億800万円 × 1/2 × 1/3 = 1,800万円
     ↓
長男、長女は生前に父から贈与してもらっていますので、特別受益を控除します。
長男 1,800万円 - 1,000万円 = 800万円
長女 1,800万円 - 800万円 = 1,000万円
     ↓
以上特別受益を考慮した相続人の具体的相続分は、

母  5,400万円
長男  800万円
次男 1,800万円
長女 1,000万円

となります。

 上記のように長男や長女の特別受益額が相続分の範囲内に収まっている場合ばかりではなく、相続分を超えている場合もあります。
 しかし、そのような場合でもその超過分を返還する必要はありません。相続分が0となるだけです(903条2項)。

 もっとも、被相続人が生前贈与や遺贈をする際に特別受益を相続財産に戻さなくてもよい旨の意思表示をしておけば、相続分を減らされません(持戻免除の意思表示)(903条3項)。
 ただし、他の相続人の遺留分を害さない範囲内という制限があります。

 また、遺産分割協議の際に相続人の間で生前贈与や遺贈をそのまま認めるような協議をすれば、持ち戻し免除の意思表示がなされた場合と同様です。
 この場合は、遺留分の制限などは関係なくなります。

ページトップへ