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嘉屋 恭子
2016年1月7日 (木)

「発達障害児の放課後」空き家を活用した居場所づくり

発達障害の子どもの学童問題。空き家を活用して放課後の居場所に
撮影:嘉屋恭子
地方だけでなく、都市部にも点在し、問題となっている「空き家」。そんな空き家を活用して発達や知的障害を抱える子の居場所とする試みがはじまった。日本の小・中学生の児童のうち6.5%は発達障害という推計もあるが、放課後支援はきわめて手薄い状態だという。ではなぜ「空き家」で、「障害を持つ子どもの居場所」だったのか、運営する凸凹kidsすぺいすの代表・渡部さんに話を聞いた。

障害を持つ子どもたちには、放課後の居場所がない

障害をもった子どもを対象にした、放課後等デイサービス「凸凹kidsすぺいす」があるのは、京王線千歳烏山(ちとせからすやま)駅から徒歩10分弱の住宅街。隣家は薬局になっているなど、住居と個人商店が混在するエリアだ。代表を務める渡部さんは、空き家になっていたこの場所で今年4月から「凸凹kidsすぺいす」の運営を開始した。

現在の登録利用者は24名。発達障害といっても広汎性発達障害・学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害などさまざまあり、軽度の子どもや知的障害の子どもなど、状況はさまざま。利用者は児童福祉法により1割の自己負担で利用できる。子どもは毎日ここに来る子もいれば、○曜日だけ、という子どももいる。小学1年生から高校3年生までを対象にしているが、通っているのは主に小学生〜中学生だ。全国各地で空き家の利活用は課題となっているが、こうした「障害を抱えた子どもたちの居場所」として活用するケースはまだまだ珍しい。その経緯を聞いた。

「もともと、私は特別支援学級の支援員をしていたのですが、そこで障害をもった子たちは、放課後の居場所がないことに気がついたんです。もちろん、世田谷区には学童保育もありますが、そこでは定員いっぱい子どもを受け入れているので、馴染めない子も多くて……。じゃあ、自分でつくろうと思って、まずは公園にあるログハウスを借りて、週1回程度、イベントなどを開催していたんです」と、これが2014年の春のこと。ただ、2カ月程度運営してみたところ、場所を借りて運営するにも限界があるという結論に至った。

「ちょうど私の自宅が引越した時期だったので、自宅の一部屋を開放して運営してみました。ですが、動きたいざかりの小学生男子が多くて、やっぱり空間が狭すぎる。専業のスタッフも配置したかったですし、必要な資金を試算しなおして、きちんと場所を借りようという話になったんです」(渡部さん)

【画像1】もともと文房具店だった場所を改装した。1フロアで40m2を確保し、1日で最大10名まで受け入れている(撮影:嘉屋恭子)

【画像1】もともと文房具店だった場所を改装した。1フロアで40m2を確保し、1日で最大10名まで受け入れている(撮影:嘉屋恭子)

空き家はあっても、マッチングが難しい現実

まずは、子どもたちの通いやすさを考え、主に児童が通っている小学校周辺で、空き家にしぼって物件探しをしたという。

「小学校の目の前、わずか50mの距離に4軒も空き家がありました。所有者さんと連絡をとり、“使ってもいいよ”といわれて、建物の内部を拝見したのですが、建物の傷み具合がひどくて……。水まわりや壁なども含めて、リフォーム予算が足りなかったんです」と話す。

建物は人が住まないとここまで傷むのか、と驚いたそう。また、リフォームなどの総予算700万円のうち、200万円ほど東京都の助成金をうける施設(空き家活用の施策として)のため、1フロア40m2の広さを確保する必要があった。だが、東京の一戸建てではなかなかこの広さを満たした物件がなかったという。そんななか、気になっていたのが今、借りている場所だ。

「もともとは、文房具店だったようで、場所も広さも良いと思っていました。実は一度、お借りしたいとお願いしたのですが、そのときは子ども向けの施設ということでお断りされたんです」と渡部さん。空き家はあってもなかなかマッチングは難しい、そんな現実が立ちはだかった。

なかなか思うように物件が見つからずにいたところ、再度、知人を通して、今の建物の所有者と交渉を開始。すると、空室期間が長かったためか、今度はとんとん拍子に話が進んだ。長い間、借り手がいなかったせいか、保証金や家賃なども下がっていたという。

「築年も比較的浅かったので、建物の状態も良く、内装工事も最低限ですみました。東京都の給付条件も満たしていましたし、晴れて2015年4月から運営をはじめたんです」(渡部さん)

地元のニーズにあわせた、空き家対策

「凸凹kidsすぺいす」を開始して半年、子どもたちには、手芸や工作、クッキング、書道などさまざまな学習プログラムを提供している。この場所が誕生していちばん喜んでいるのは、何より障害を持つ子どもとその親たちだ。

「家にいるとゲームばかりする、子どもの体力に親がついていけない、家にいるとケンカばかりなどと、ストレスを抱えている家庭はとても多いんです。この場所で親とも学校の先生とも違う、スタッフと接することで、社会性を身につけていけたら」と渡部さん。また、最近では、商店街の近くという環境を利用して、子ども同士での買い物など、社会生活に必要な訓練も行っているという。

【画像2】学習プログラムの様子(画像提供:凸凹kidsすぺいす)

【画像2】学習プログラムの様子(画像提供:凸凹kidsすぺいす)

「障害を抱えた子どもと接する機会はとても限られていて、それゆえに地域社会の人に理解されにくいという側面もあります。凸凹(でこぼこ)という名前の通り、発達に差はあるかもしれませんが、例えば商店街での買い物などを通して、子どもたちを理解してもらえれば、と思っています」(渡部さん)。当初は子どもたち向け施設ということで、難色を示した所有者も、今では見守ってくれているという。

「凸凹kidsすぺいす」は、空き家対策としてはじめられたわけではなかったが、結果として地元・世田谷区のニーズに即したかたちで、建物が活用された好例といえる。今後もこうした地元のニーズや課題に即した、空き家の活用法に注目していきたい。

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