住んでみたい路線として、常に上位にランクインする中央線。そのなかでも人気のある荻窪駅からほど近い住宅街に、この9月、猫つきシェアハウスが誕生した。女性3人と猫5匹が暮らす住まいなのだが、その住み心地やいかに。さっそく取材してきた。
「動物と入居できるシェアハウスやオーナーが動物を飼っているシェアハウスはありますが、おそらく猫つきシェアハウスは日本初だと思いますよ」と教えてくれたのは、この猫つきシェアハウス物件の企画と管理を担当するリビングゴールドの藤堂薫さん。このシェアハウスでは、40m2ほどの部屋を3室に区切り、猫と人間が共同生活を行う。入居者は全員女性で、そのうち猫の飼育経験があるのは1人、2人はまったく初めてだという。
この猫つきシェアハウス、募集をはじめてからわずか1週間で満室になり、「入居できなくてもいいからせめて見学でも」というリクエストがでるほどの人気ぶり。家賃は3万3000円+管理費2万円(猫のための積立金含む)で、突出して安いわけではないが、「ぜひ猫と住んでみたい!」という人が殺到したのだとか。
「広さに余裕がないので、猫も人間もストレスを感じないよう、内装を工夫しました。特に猫はキャットウォークがあれば上下運動ができ、完全室内飼育でもまったく問題ないんですよ」(藤堂さん)。目指したのは、住める猫カフェ。まったりと和み、自然と人も猫がリラックスできる空間だ。実際の住み心地はいかがだろうか。
「もう猫がかわいくて、ずっと家にいたいくらい。仕事が終わったらすぐに帰宅しますし、時にはお世話のために一度、帰宅することも。休みの日のお出かけも減ってしまいました」と笑うのは、都内でお勤めをしている女性。ひとり暮らしをしたいと物件を探して、そこで猫を飼おうと考えていた矢先、猫つきシェアハウスを知り、申し込んだとか。
「ひとり暮らしだと、どうしても日中、家は猫だけになってしまう。猫を飼ったことがなかったので不安もありましたが、このシェアハウスなら誰かいるし、相談に乗ってくれる人もいるし不安がない。即決でした」という。もう一人の女子学生は、「大学が近かったことと猫つきシェアハウスにひかれて。友人が一度、遊びにきましたが、猫のかわいさにうらやましがられました(笑)」とか。とにかく、猫がかわいくて仕方がないようだ。
では、実際に住んでみて大変だったことはないのだろうか。
「ストレスからなのか、布団で粗相をしてしまう子がいるので、その子のお世話はすこし手がかかりますね。あとは夜、走り回る運動会くらいかな(笑)」。もう一人の女子大学生は「このシェアハウスの場合、餌やりの時間と内容をメモしていくので、気軽にご飯をあげていた実家とは違い、手間がかかります」といい、やはりお世話はそれなりに手間がかかるようだ。
というのも、実は、ここの猫たちは多頭飼育崩壊現場(※1)から、救いだされた子たち。猫を先に入居させたのは猫を新しい環境に慣れさせるため、また猫の飼育ルールをつくるためだ。こうしてルールがあることで、入居者同士の飼育方針の違いによるトラブルを避けることができるという。
猫たちの推定年齢は4から5歳だが、1日遅ければ死んでいたという劣悪な状況からいきなり異なる環境にきたためなのか、1匹は上述のような粗相のクセが抜けないのだという(※2)。また、えさをもらえなかった記憶からか、えさを置いていると好きなだけ食べてしまう子がいるため、ここでは1日2回、決められた時間にえさをあげ、管理票に記入している。ちなみに餌やトイレにかかる費用は管理費込み。突発的に高額な医療費が必要になっても、入居者の自己負担はない。
※1 劣悪な飼育環境で異常繁殖し、飼い主の手に負えなくなった状況のこと
※2 去勢避妊手術をした猫は、決められた場所以外で用を足すことは少ない
この猫つきシェアハウスは、以前紹介した猫つきマンション(https://suumo.jp/journal/2013/07/30/49132/)の仕掛け人である東京キャットガーディアンの山本葉子代表と不動産会社である藤堂さんの二人三脚によるもの。住人は猫を飼えるだけでなく、猫の保護団体は猫の住まいを見つけることができ、大家さんは物件の空きを解消できる。3者が幸せになる仕組みだ。
「猫つきシェアハウスも、猫つきマンションも全国からお問い合わせがあり、今では『しっぽ不動産』というサイトでまとめて紹介できるほどになりました。そのなかには、大家さんからの問い合わせも少なくありません。大家さんも猫好きな方が多く、不動産業界でいわれているほど、賃貸物件での猫飼育はタブーではないのです。猫は飼育方法を間違えなければ、集合住宅に向いている動物です。大切なのは、相談の窓口があること。その点、東京キャットガーディアンさんに相談できるのは、心強いですね」(藤堂さん)
今回、この物件はリビングゴールドが購入し改装したため、その費用の一部、クラウドファンディング(※3)も導入しているのもユニークだ。ちなみに、現在、一戸建ての猫つきシェアハウスのプロジェクトも進行中。
猫つきマンションと同様、「猫をつれてシェアハウスを卒業していくのがひとつのゴール」(藤堂さん)だが、住人は「今は退去なんて考えられない。5匹ともかわいくて選べない」というほど、猫との暮らしを満喫している。このシェアハウスが提供しているのは、住まいという場だけでなく、人と猫との幸せな時間なのかもしれない。
※3 ネットを経由して寄付を募る仕組み