これからの住まい・暮らし
連載これからの住まいのカタチ
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嘉屋 恭子
2015年7月2日 (木)

新しい住まいのカタチ[2] やまもといちろうさん〜都心の賃貸〜

新しい住まいのカタチ(2)やまもといちろうさん〜都心の賃貸〜
写真撮影:片山貴博
鋭い論評と的確な分析で知られる投資家・ブロガーのやまもといちろうさん。インターネット黎明期から、ネットとそれを取り巻く人間模様を観察、活写してきました。やまもとさんご自身は投資家ですが、昔から家族や親族が都内に不動産を所有、会社を経営していたこともあり、不動産の取引経験も豊富、悲喜こもごものドラマも目の当たりにしてきました。現在、やまもとさんご夫婦と3人のお子さんが暮らしているのは、都心の賃貸マンション。マンションを所有しているのに、賃貸派というその理由はーー。
【連載】新しい住まいのカタチ
家を買うか借りるか、住むなら都心か地方か。永遠のテーマともいえる”住まいのあり方”を考える連載です。
ひと昔前までは、「郊外に庭付き新築一戸建てを買う」という、住まいのアタリマエがありました。でも、ひとり暮らしや夫婦共働きが増え、都心部ではタワーマンションが建設ラッシュ。一方で、地方移住が関心を集めていたり、古民家リノベが注目されたり。住まいのアタリマエは時代とともに変わり、そしてひとつである必要もありません。この連載では家を買うor借りる、住むのは都会か地方か、その暮らし方について、識者のみなさんと探っていきます。

今の自分が重視するのは、教育環境とセキュリティ

「今、私と妻、家族にとって最優先だと考えているのが、子どもの教育環境とセキュリティです。我が家には小学校入学前の3人の子どもがいるのですが、それぞれの個性にあった教育環境、しっかりと勉強できる環境を与えたいと思っています。今のところ、長男は私立小学校を受験させる予定ですが、通学先にあわせて、住まいも変えていきたい。二男、三男はどうなるのか分からないので、住み替えできる身軽さ、オプションを持っていたいと考えています」

また、海外を含めて出張が多い仕事柄から、家族を守るセキュリティが充実しており、24時間、ある程度人の目があるところと考えていくと、都心部の賃貸マンションという結論になったといいます。ただ、やまもとさんの周囲には、東京の湾岸エリアでタワーマンションを購入する人、鎌倉や湘南などに住まいを構える人も多く、「勤務地が都内と決まっていて、小学校も地元の学校、もしくは自宅から通学できる範囲と考えであればその決断もありえますし、こればかりはその人の価値観なのでしょう」といいます。

なお、自身が所有する不動産については、「家族で住むにはエリアとして、少し不便」と考えていて、賃貸として活用しているそうです。

【画像1】3人のお子さんの話をするときは、とたんに柔和な表情に(写真撮影:片山貴博)

【画像1】3人のお子さんの話をするときは、とたんに柔和な表情に(写真撮影:片山貴博)

シンガポール、ウラジオストック、東京。それぞれの暮らし

とはいえ、現在の住まいに落ち着くまでは、いくつかの都市で暮らした経験がありました。結婚後、第一子が生まれた直後には、奥様のご実家がある北海道で、一時期はロシアのウラジオストック、シンガポールでも生活した経験があるといいます。

「子どもに手がかかる時期は妻の実家に近い札幌で暮らし、東京で週の半分程度過ごすという生活を送っていました。また一時期、長男が3才くらいのときですね、ウラジオストックに住み、インターナショナルスクールに通わせて育てることも考えました。シンガポールにも3カ月位滞在して、暮らしましたよ」と振り返ります。

ただ一方で、海外ならではの事情にも直面しました。例えば、ウラジオストックのインターナショナルスクールの通学費用は非常に高額。中国人や韓国人、アメリカ人などが肩を並べて学ぶ環境ながら、大人の人間関係(主に会社の上下関係)が学校に持ち込まれているように見えたこと、また経済危機もありロシアでのビジネス機会が減ったことから、現実的ではないと日本に戻ったそう。

一方で、シンガポールは滞在中の3カ月は学校や周囲の人間がどんどん入れ替わっていくことから、「あまりにも人間関係が不安定」で、住みにくかったといいます。また、日本で暮らしている間も、取引先が多く羽田空港に近いエリア、もしくは千代田・中央・港区のエリアで住まいを検討したそう。

「今は、子どもの幼児教育は日本で十分だと考えています。ただ、子どもに必要な環境って、時期とタイミングで変わっていく。私も通学には苦労しましたから。仮に家を購入するとなると、住み替え時に売却するエネルギーがかかる。いつ日本を離れるか分からない生活なので、私には賃貸がフィットする気がします」

【画像2】必要な教育環境にあわせて、引越していきたいと話す(写真撮影:片山貴博)

【画像2】必要な教育環境にあわせて、引越していきたいと話す(写真撮影:片山貴博)

子育てがひと段落したら、地方都市への移住も選択肢に

「今は、ディンクスやファミリー、高齢者も含めて、都心へ回帰する流れが続いています。また、例えば北海道なら札幌など、核となる都市部に人口が流入していますね。ただ、問題はその後の動向でしょう。総人口も減り、都市近郊部には空き家も増えるでしょうし、資産価値を考えるとかつてのように家を購入することがバラ色の未来、とは誰も思っていないでしょう。今分かることは、年代などの同質性が高過ぎる街は厳しいということです。多様な年代が住む街の価値が見直されていると思います」と住宅動向を分析しています。

最後に、子育てが終わったあとに、地方移住などに興味はあるのでしょうか。

「ありますね。愛媛県松山市、新潟県新潟市、富山県などは候補としていつも考えています。コンパクトに都市機能がまとまっていて、食事も美味しいし、住みやすそうだなと思います。すべては子育てを終えて、その後の心境になってからですが(笑)」

子どもの環境を考えて住み替えるというのは、有名な孟母三遷の故事に重なります。やまもといちろうさんの住まい方、生き方は、現代の「孟母三遷」といえるのかも。子どもを思う親の心は古代も、そしてこれからも変わらぬ価値観なのかもしれません。

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連載 これからの住まいのカタチ 家を買うか借りるか、住むなら都心か地方か。永遠のテーマともいえる“住まいのあり方”を識者のみなさんと探っていく連載です。
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