声優 田所あずさインタビュー前編「その時代にしかできないことがある。だからこそ、部活もバイトもその瞬間を楽しめ!」

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人生の多くの時間を費やす「仕事」において、自分の「好き」を見つけ、その「好き」を行動に起こしていくことで、人生をより豊かなものにできるのだと思います。

その好きを見つける応援をするため、学生生活がもっと楽しくなるお役立ちマガジン「From Aしよ!!」では、さまざまな「働くヒト」に光を当て、その過去から今、そして未来について伺い、働く楽しさ、働く意義をお届けしていきます。

本連載の第2回目に登場するのは、声優アーティストとして活動する田所あずささんです。

「部活やアルバイトって将来の役に立つのかな……」という不安を抱えているのであれば、今回紹介する先輩の姿がきっとヒントになるでしょう。そして、インタビューを通じて見えてくる「伸びる人の要素」と「仕事をする時の大切な心がけ」は、学生ならずとも参考になるはずです。

期待を集める声優アーティスト・田所あずさの姿に学ぶ

茨城県出身、現在22歳の田所あずささんは、高校在学中に「36thホリプロタレントスカウトキャラバン」で12,745通の応募からグランプリを獲得し、デビューのきっかけをつかみました。

声優デビュー後はTVアニメ『アイカツ!』霧矢あおい役を演じた他、ニッポン放送のラジオ『ミューコミ+プラス』火曜日レギュラー、歌手活動での大都市圏ライブツアーなど幅広く活動中です。

学生時代を振り返ると、中学と高校はテニス部で練習に励み、高校時代は近所のコンビニとファミリーレストランでアルバイトをしていたそう。彼女の口から聞く学生生活は、経歴だけなら決して珍しいものではありません。

それではなぜ、田所あずささんは12,745人の中で光り輝く存在であったのか。その秘密を探るため、今回は田所あずささんを見続けてきた2人のキーパーソンにもインタビューを行いました。田所あずささんのマネージャーを務めて5年目となるホリプロの金成雄文さん、2年半以上ラジオのレギュラー番組で共演するニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんです。

インタビュー前編では、田所あずささんが高校時代のアルバイトで得た貴重な体験や、マネージャー金成さんから見た魅力に「伸びる人の要素」のヒントを見つけました。また「声優アーティスト・田所あずさ」が目指す未来と吉田尚記さんの言葉から「仕事をする時の大切な心がけ」を教わります。

職業・声優の原点は、「プロフェッショナルな仕事」から受けた感動

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──声優アーティストとして活動されていますが、普段はどのようなお仕事をなさっていますか?

田所あずさ(以下、田所):声優としてアニメやゲームの作品に出演する他、歌手活動もしているのでレコーディングをしたり、あとはラジオやイベントにも出ています。私としてはお芝居が大好きなので、声優業を自分のメインに頑張り、歌手活動も一生懸命やらせていただきたいと思っています。

──お芝居を好きになったきっかけはなんだったのでしょうか?

田所:中学生の頃に、テレビアニメの『犬夜叉』を観たことがきっかけです。琥珀というキャラクターを演じられている矢島晶子さんを好きになり、「声だけでキャラクターのすべてを表現しているなんてすごい。こんなプロフェッショナルな仕事があるんだ」と感動しました。

そういった想いを抱きながら、小学生の時は『おジャ魔女どれみ』『ふたりはプリキュア』『金色のガッシュベル!!』『デジモンアドベンチャー』を観ていました。あとは兄からマンガの楽しみを教わりました。

浦沢直樹さんの『MONSTER』や『20世紀少年』。そこに加えて特に『世紀末リーダー伝たけし!』『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』『ピューと吹く!ジャガー』が好きだったみたいで(笑)。

教わったのは小学生の低学年のときでしたが、『ピューと吹く!ジャガー 』は自分で好きになり、単行本を集めていましたね。

『犬夜叉』は動画サイトで3話までを無料で観られて、「名前は知っているな」くらいの気持ちでクリックしたらハマってしまい、ビデオを借りて続きを観るうちに、声優という職業に興味を持ち出しました。

──名作のアニメやマンガたちと、ひとりのプロフェッショナルへの憧れが「田所あずさ」の原点にあるんですね。

田所:中学2年生から声優になりたいと思ってはいたものの、どうすればなれるかもわからず進学し、アルバイトや部活に打ち込んでいました。テニスばかりやっているスポーツ少女でしたね。始めたきっかけは『エースをねらえ!』のドラマから(笑)。

高校2年生が終わるころにまわりが進路で悩み始めて、自分も考えてみたけれど、やっぱり声優しか浮かばなくて……。そんな時、母校の卒業生に声優で歌手の中島愛さんがいるとわかったんです。

中島愛さんがどうやって声優になったのかを調べたら、オーディション雑誌というものがあることを知り、私も買ってみて応募したのが、デビューのきっかけになったホリプロのオーディションでした。

どんなに気が乗らなくても、必ず目を見て「ありがとうございます」と伝える大切さ

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──声優になる前の学生時代には、アルバイトはされていたのでしょうか?

田所:高校に入学してすぐコンビニで働き、1年間くらい続けていました。あとはファミリーレストランの厨房で、高校2年生の終わりから高校3年生にかけて。

人間関係に悩んだりもして、良いことばかりではなかったですけれど、「部活で教わったことが社会でもちゃんと通じた」という実感は身になりましたね。

──どのような時にその実感を得られたのですか?

田所:ファミレスの厨房でのことなんですけど、一緒に働く人ですごく厳しい……というか、いつもカリカリとしている方がいて。

私は負けず嫌いなので、その人に認めてもらえていなかったのが悔しかったんです。どうすればいいかを考え、何か教えてくださったり、目の前に物をガンッ! と置かれて嫌だなって思ったりした時でも、とにかく目を見て「ありがとうございます」って伝えるようにしたたら、その人がカリカリしなくなったんです!

もともとは、テニス部の顧問の先生から「人と話をするときは、必ず目を見て話しなさい。聴くときはまっすぐその人の目を見て、うなずきながら聞きなさい」と教わっていたので。その時の体験は今でも人とのコミュニケーション面で少なからず役立っています。

──部活動で身についた習慣や体験が仕事にも活きている良い例ですね。

田所:どれも当たり前のことなんですけれど、仕事を始めていろんな出会いをしてみると、できない人も結構いるんだなと感じます。私は教えてくださる方が近くにいて本当によかったなって。

たとえば、敬語もそうですし、「わかった?」と言われたら「はい」とちゃんと返事をするとか、人の前を通ったり座ったりする前に「失礼します」と言うとか。

いずれ自分が親になり、子どもから「うるさい」なんて言われても、ちゃんと教えてあげようと思っています。当たり前のことをちゃんとやる、という大切さですね。

今この瞬間に、好きなことを楽しもう!

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──今まさにアルバイトをしながら、夢を追ったり、道に迷ったりしている学生さんも多くいます。高校時代を振り返って、田所さんから毎日を楽しむためのアドバイスをいただけますか。

田所:「その時代にしかできないことがあるんだな」と身にしみて思うんです。友達とふざけあって先生から逃げまわった思い出も、部活も、アルバイトも、全部が身になっているなと感じています。だから、とにかく「今その瞬間」をしっかり楽しく生きていくと、何かしら役に立つものができてくるはずです!

アルバイトだからこそできる体験もあると思います。私も小さいところでは、コンビニバイとを通じてお金を数えるのがすごく速くなったし、ソフトクリームを巻くのがうまくなりました(笑)。

そういうのって学校では教わらないじゃないですか。「世の中にはいろんな人がいるんだな」ってわかるだけでも違いますよね。

そしてコンビニバイト時代に出会ったおもしろい人は、今でもラジオのネタになっています。容器入りのラーメンをアツアツにしないと気が済まないおじさんがいて、「俺が『いい』って言うまで温めろ」と言われ、「わかりました!」と応えていたら爆発してしまったのに、満足気に持っていかれたりとか。

──「アルバイトあるある」もそうだと思いますが、ふつうに生きていたら得られない体験ですものね。

田所:あとは、ちゃんと「好きだと思えること」をやったほうがいいと思います。身になることも増えるかもしれませんから。でも、好きでないことを乗り越えるのも体験ですよね。もともと私も写真を撮られるのが苦手で……その上に厳しい言葉を投げられることもあって、最初はつらかったんです。ただ今は諦めもついて、耐えられるようになってきました。

──そこで耐えられる力も、プロとして必要な要素なのかもしれません。

田所あずさは「真面目でサボらない。着実に伸びていくのがわかるからおもしろい」

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──ここで一旦、マネージャーの金成雄文さんにバトンタッチし、デビュー前後の田所さんについてのお話を聞いていきます。部活とアルバイトに励む、いわば「よくいる高校生」のひとりだった田所あずささんのどこに魅力を感じたのか、何が際立っていたのかなどを探っていければと思います。金成さんは田所さんを担当されて何年目くらいになるのでしょうか。

金成雄文(以下、金成):ホリプロスカウトキャラバンの時からなので5年目ですね。僕自身はマネージャーという仕事を始めて14年目になります。

──マネージャー歴14年の金成さんから見て、田所あずささんはどう映りましたか。

金成:まさに原石でした。スカウトキャラバンの時にはスキルはほぼなく、声質や歌声はよかったけれども、声優アーティストに必要な経験はゼロ。テニスばかりやっていた子でしたが、何よりも「声優アーティストになりたい!」という強い思いがあったし、非常に素直だったので伸びしろを感じました。

ホリプロとしても声優アーティストを手掛けるのは初めてのことだったので、「一緒に育っていくのなら、こういう子がいいな」と。あとは直感で自分と波長が合うと感じました。

──仕事を一緒にしていく中で見えてきた、田所さんの良さはありましたか?

金成:真面目で、言ったことをサボらずちゃんとやるところですね。本人が着実に伸びていて、それについてきてくださるファンもちょっとずつ増えている。そういうのが見えるからおもしろいですよね。

田所は誰よりも直球で、ウソをつけない子なんですね。だからこちらもウソはつけないし、まっすぐ向き合うしかない。「僕も成長しなくては」と思わせられます。タレントは現場でいろんなことを吸収しますから、マネージャーよりも伸びが速いんですよ。

こっちも負けないように、アニメや舞台、映画など「マネージメントの引き出し」を増やして、彼女の身になり、武器になっていく体験を与えてあげたい。田所のおもしろさはどこにあって、どうやってスキルアップさせるのがいいのかなとか。

何年後にこういう声優アーティストになるには、今こういうことをさせてあげたらいいのかなとか。そうやって考えるのが楽しいです。

吉田尚記アナウンサーとのラジオも、吉田さんという方がとにかくおもしろく、アニメや音楽をはじめ、知識の幅が広く「この人と一緒に仕事をしていることが何よりもプラスになる、刺激になる、何とかして一緒にやりたい!」と思ったのがスタートでした。

──なるほど、ここでお話が出た吉田尚記アナウンサーから見た田所さんの良さも聞いてみました。

田所あずさの良さは「視点の独特さ」と「話をよく聞いていること」

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──田所さんは2013年4月9日から、吉田尚記さんがパーソナリティを務める番組『ミュ~コミ+プラス』にレギュラー出演していますね。最初に田所さんとお会いしたタイミングはいつでしたか?

吉田尚記(以下、吉田):ホリプロタレントスカウトキャラバンですね。僕が司会をしているんですよ。司会もすることだし、おもしろそうだからと、物見遊山で彼女たちの合宿審査を熱海のホリプロ合宿所に見に行ったのが初めてでしたね。「司会だけなのにここまで来た人は初めてだ」と言われましたが(笑)。高校3年生の「田所あずさ」にそこで会っています。

──2013年に番組アシスタントがはじまった経緯はなんだったのでしょうか?

吉田:それがあんまり覚えていないんですよね。気づいたらやっていた感じで。「田所あずさを番組に入れます」って言われて、「思い入れもあるし、いいんじゃないですか」って話をしてたんだろうなぁ。

あずさちゃんは出始めた当初からおもしろかったですね。意図的におもしろくしようとしているというより、結果的におもしろくなっちゃう。言ってしまえば「天然」なんだけど、時折ものすごく本質を言い表している瞬間もあって。

たとえば、いま田所さん本人が「明るく元気に後ろ向き!」というキャッチフレーズを言っているじゃないですか。あれね、ラジオの生放送中に適当に言ったはずで、聞いた全員が「……なにそれ!」ってなったんだけど、「でも、たしかにそうだな、すごいな」と感じた。ある種のコピーの才能がありますね。

僕はももいろクローバーZの高城れにさんから「ゴボウ」と名付けられた時も「すごいな」と思いましたけど、田所さんからすると僕は「カマキリ」みたいだと(笑)。そういう才能があるのかな。物事含めて冷静に何かを見られているんじゃないかなと思いますよ。

──吉田さんがアシスタントに求めるポイントと、田所さんの良さはマッチしていると感じますか?

吉田:アシスタントが思いもよらないことをやったり、言ってくれるほうが僕はいいんですね。そうなると田所さんはおもしろくて、抜群に“持って”います。何の意図もなく話を渡した時にちゃんとミラクルが返ってくる。

「家族の話でおもしろいのは?」と聞いたら、おばあちゃんの名前が「よし」さんらしく、嫁いだ先が「なか」さんで、「なかよし」になるという『ハイスクール!奇面組』的な展開を返されたりして、それはもう「何か持っている」としか言いようがない。

パーソナリティってそれぞれに独自の視点がないと意味はないと僕は思うんですけど、あずさちゃんはかなり独自な視点を持っていますね。アーティストがゲストで来た時、ずっと質問をしてきて、最後の最後で「そのブローチはどこで買ったんですか?」って訊いたりとか。他の人が気づいていないことに、田所さんだけが気づいているってことがあっておもしろい。

──ここで再度、金成マネジャーのお話に戻します。

※後篇に、吉田さんのインタビュー続きもありますので、お楽しみに!!

「知らない、興味がない」ことを経験することで、自分の引き出しが増えていく

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──セルフプロデュースでは足りないところを補ってあげるイメージでしょうか。

金成:補うというより、僕らは大きな方向性を決めたり、提案していくイメージに近いかと思います。その方向性はタレントが自分で考えてプロデュースする必要もあるし、自身が育っていくとその要素も増えていく。そうすると、タレントとマネージャーの掛け算がさらに大きな結果になっていくのだと思います。

──田所さんのように「発見」してもらうために必要なことは何でしょうか?

金成:僕は「型にはまらないでほしい」とだけはすごく思います。たとえば、「かわいい女の子の声」を求めたとして、基本はそのキャラクターにはまるかどうかだと思いますが、声優さんが100人いたら、ほとんどの方が演じることができると思うんです。

例えば作品やスタッフさんのフィーリングや画に合うところなどから10人にまで絞られたら、その次にくるのはビジュアルなのかもしれないし、ラジオでのキャラクターかもしれないし、歌かもしれない。そういう時にひとつ上乗せするための「武器」はあるに越したことはありません。

何よりも芝居が大事なのは間違いないですが、もし「武器」を求められた時に「あまりないです」と答えるよりも、自分磨きを欠かさずに、歌がうまい、絵も描ける、ダンスができるとか、作品やキャラクターによっては何がプラスに働くかわからないので、そういう総合力があるといいなと思います。

──武器となる経験を自らつかむ上で、心がけておくべきことはありますか。

金成:好きなものを突き詰めることと同時進行で、「知らないものにこそヒントがある」と僕は思っています。田所は最近、「歌舞伎が見たい」とか「ボルダリングに挑戦してみたい」と言っているんですが、昔なら絶対に言ってなかったと思うんですよ。

けれども、歌舞伎の要素を演技で求められた時に、知っている人と知らない人では違いが出ると、彼女はわかったんだと思います。

「知らない、興味がない」ことこそ、一回突っ込んで経験してみることで、自分の引き出しが増えていくはずです。

──2016年の田所さんにはどんな体験が待っていそうですか。

金成:初めてアニメのタイアップのお話をいただきまして、『無彩限のファントム・ワールド』のエンディング主題歌として『純真Always』を歌わせていただけることになりました。アニソン歌手に仲間入りできる嬉しさもありますし、とても重要な年になります。声優アーティストのオーディションを始めて4年が経ち、改めてスタートに立ったと思っています。

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ここまでは、田所あずささんが今の仕事をする上で役立ったアルバイトや学生時代の経験などをお届けしてまいりました。

続くインタビュー後編では、田所あずささんが今後挑戦したいことをはじめ、ラジオで2年半以上にわたって共演するニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんへのインタビューから、「声優アーティスト・田所あずさ」の魅力、そこから見える「自分の磨き方」について考えていきます。

※この記事は>>アニメイトタイムズが企画制作したものです。

企画取材・構成:織田上総介(アニメイトラボ)、松本塩梅 撮影:山本哲也 衣装協力:DURAS

後編はこちら>>声優 田所あずさインタビュー後編「日常の感動や体験すべてを演技につなげていきたい」

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