角の取引合法化でサイを絶滅から救えるか

ビクーニャ復活に学ぶ「持続可能な利用」の実像

2015.01.09
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2014年、南アフリカ共和国ではサイの角を狙った密猟によって1000頭以上のサイが犠牲となった。(Photograph by James P. Blair, National Geographic)

 野生のシロサイは、あと20年もしないうちに絶滅するだろうといわれている。

 19世紀終わりにも絶滅の危機にさらされ、50頭にも満たないことがあったが、保全努力によって持ち直した。現在ではアフリカ大陸に2万頭以上いると推定され、そのほとんどが南アフリカ共和国に生息している。ところが、サイの角を狙った密猟により、2014年には1000頭以上が、2013年にもほぼ同じ数のサイが殺されており、来年にも個体数は減少に転じると見られている。

 このような状況の中、2016年10月にケープタウンで開催予定のワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)締約国会議で、南アフリカ共和国はシロサイの角取引を合法化するよう強く求める方針だという。

 科学的根拠はないものの、ベトナムをはじめとするアジアの一部の国では、サイの角を粉末にしたものが発熱や癌の治療に効果があると考えられており、それが密猟や違法取引の原因になっている。

 合法取引の支持者は、こうしたサイの角取引を合法化することで、密猟や違法取引に手を染めようとする者を減らせるはずと考えている。さらに、サイの角は切り取った後でもまた少しずつ生えてくる再生可能な資源だと主張する。

持続可能な利用でサイは復活する?

 持続可能な利用によって保全に成功した例として、彼らが挙げるのは、アンデス地方のビクーニャだ。これをサイの角取引にもあてはめられないだろうかと言う支持者も多い。ビクーニャは南米を象徴するラクダ科の哺乳類で、ラマやアルパカの仲間である。その柔らかく繊細な毛は、古くからこの地方で珍重されてきた。

アンデスの高地に生息するビクーニャの体毛は、古くから珍重されてきた。(Photograph by Rurik Hermann, LIST)

 1960年代、ヨーロッパ市場での需要を満たすために乱獲されたビクーニャは、絶滅寸前まで追いやられていた。当時は、銃で撃ち、その死体から毛を刈り取るというやり方が一般的だった。1970年代に入ると、ビクーニャの生息国でワシントン条約が批准され、体毛の取引禁止などの措置が取られるようになり、ようやくその数は回復し始めた。おかげで1990年代までにその数は20万頭を超えるまでに回復し、規制のもとで体毛の合法的な取引が再開された。

 南米チリの生態学者クリスチャン・ボナシックは当時、持続可能で倫理的なビクーニャの利用法に関するガイドライン作成の指揮をとっていた。そのボナシック氏に、現在注目されているサイの角取引をめぐる論争について話を聞いた。

「持続可能な利用」の考え方を教えてください。

 野生生物をうまく利用すれば、保全は可能だというものです。動物たちの持続可能な利用によって地元社会に利益をもたらすことができれば、密猟は減るという考え方です。事実、1990年代の傾向を見ると、このアプローチが様々な種で成功を収めており、その効果が証明されていました。

 しかし、世界は大きく変わりました。昔ながらの地域社会は多くがグローバル化され、道路の数は増え、様々な取引ルートが現れました。インターネットでは、ある国で禁止されているのに別の国では合法な製品が、クリック一つで手に入ってしまいます。地元社会が動物を持続的に利用するという牧歌的な考え方は、21世紀ではもはや通用しなくなってしまいました。

現在では、ビクーニャを人道的に捕獲して体毛を刈るという方法が一般化している。(Photograph by Rurik Hermann, LIST)

ビクーニャはどのような経緯で取引を再開しましたか。

 1960年代に乱獲で絶滅寸前までいった野生のビクーニャを保護するため、ワシントン条約ではビクーニャの体毛取引に30年間の一時禁止期間を設けました。1960年代から80年代にかけて、取引はまったく行われていなかったのですが、90年代になってビクーニャ協定の下、持続可能な利用をめぐって協議が再開されました。

 合意内容は、ビクーニャを生かしたまま体毛を刈り取り、その後野生に放し、売り上げによって得た利益を地元社会へ還元するというものでした。

 ただ、体毛取引は野生でビクーニャの数が回復するまで再開されないという点が重要なのですが、回復するまでの期間はビクーニャの分布する国によって様々でした。一つの国の中でも、全地域で揃って回復したわけではなく、依然として絶滅の危機にさらされている地域もありました。

 アフリカのゾウやサイ、その他の野生生物でも同様のことが起こっていますが、これは「持続可能な利用」というやり方に大きな問題を残しています。個体群の豊かな地域で取引を始めたからといって、危機にさらされている別の地域で絶滅にブレーキをかけられるわけではないということです。

取引を再開して、密猟は減ったのでしょうか。

 体毛が市場に出回り、価格が落ち着いても、結局は野生のビクーニャを密猟から保護することにはなりませんでした。それどころか、ペルー、ボリビア、アルゼンチン、チリでの密猟の数は過去10年間で増加しているのです。

 ビクーニャの体毛産業を開いたことで、市場が拡大してしまいました。これは、予想していなかったことです。需要が拡大したことで、密猟が減るどころか逆に増えてしまったのです。現在の懸念は、グローバリゼーションによって需要がますます高まり、自然界が生産できる限度を超えてしまうことです。そうなると、野生のビクーニャは再び危機にさらされるでしょう。今もすでに、ビクーニャの分布する国の国境地帯では、違法取引による摩擦が生じています。

チリでの経験が、南アフリカでどのように生かされるべきだと思いますか。

 体毛取引が始まった当時のビクーニャの個体数と比べると、サイの数は圧倒的に少ないです。取引の合法化によってわずかでも密猟が増加すれば、サイにとっては壊滅的な結果を招きかねません。

 角取引で得られた利益を、いかにして野生の個体群回復、生態系保全、そして地元社会へ還元したらいいかも、検討されるべきです。ビクーニャの体毛と比べて、サイの角を利用することでどのような社会的恩恵が得られるのでしょうか。その取引と利用を支援することは、怪しい闇医療を助長させることにはならないのでしょうか。

 この21世紀において、ファッションや民間療法のために野生のビクーニャやサイといった動物を絶滅に追いやることが、果たして許されていいものかどうか、社会は自問自答するべきだと思います。

チリの生態学者クリスチャン・ボナシックは、ビクーニャの体毛取引で得られた経験がサイの保全の参考にできるとする。(Photograph by Rurik Hermann, LIST)

※ サイの密猟、違法取引を追った特集「サイの悲鳴」を、下のナショナル ジオグラフィック2012年3月号に掲載しています。

文=Katarzyna Nowak

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