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2015/06/03 12:00

 

大森靖子が中野サンプラザ単独公演と〈洗脳ツアー〉でみせたもの——OTOTOYライヴ・レポート

 

大森靖子が全国ツアー〈❤爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー❤〉の東京~ノスタルジック中野サンプラザ~公演を4月26日に行った。追加公演の沖縄を除くと、この公演が約2ヶ月におよんだツアーのファイナルとなった。モーニング娘。を敬愛する大森が「どんなライヴハウスよりも通いつめていた」という中野サンプラザ。そんな聖地での特別な公演は、彼女の核である歌の力強さを改めて提示するとともに、この規模の会場にふさわしい演出を融合させた素晴らしいライヴとなった。

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定刻より10分ほど押して場内が暗転。「わたしは絶対に悪くない」といった歌詞が印象的な新曲が流れると、幕が開いて大森が姿を現わした。観客は拍手で迎える。チケットは完売しており、2000人以上を収容する中野サンプラザは満員。そんな空間で、大森はたったひとりでステージに立ち、アコースティック・ギターを力強く2回ストロークすると、「PINK」からライヴをスタートさせた。

「PINK」は、インディーズ時代の2012年に発売した彼女にとって最初の全国流通音源『PINK』に収録されている。このEPを発売して以降、大森はメジャーに向けての勢いを一気に加速させたように思う。それと同じ2012年に公開された大森のドキュメンタリー映画「サマーセール」を、このツアーがはじまる直前に改めて鑑賞する機会があった。この映画のなかで彼女は、新宿アルタ前を行き交う人たちの雑踏のなかで、たったひとりで「PINK」を熱唱していた。そこには彼女の歌に興味を示す通行人など、誰ひとりいなかった。大森は映画完成後、このシーンについて「全ての売れないミュージシャンの実情。私たちがいかに虚しいか」と語っていた。この曲をライヴで歌うときの彼女は、映画と同じくとても孤独で、傷を負いながらも必死にひとりで戦っているような、そんな印象を受けることが多かった。

その翌年の2013年5月13日、渋谷クラブクアトロで行ったワンマン・ライヴで、大森は客席を埋め尽くしたピンク色のサイリウムの光に包まれながら、再び「PINK」を歌っていた。彼女は涙ぐみながらも、それまで観たどのステージよりも幸せそうな笑顔を浮かべていた。この頃から、彼女のまわりには少しずつ人が増えていったように思う。クアトロを満員にするだけの多くのファンがついていたし、メディアや著名人も徐々に注目するようになった。

そして2015年、今回のツアーは、いまや彼女の分身のような存在であるぬいぐるみ「ナナちゃん」のほか、スタッフ兼カメラマンの二宮ユーキ、マネージャーの美マネが全公演、一緒にまわっていた。メジャーに行ったのだから、人が増えて当たり前なのかもしれない。それでも、長らくひとりで活動してきた大森が近くにいることを許した人たち、近くにいてほしいと願った人たちなのだから、絶大な信頼をおいていることだろう。そしてなにより彼女は、2014年に最愛の人と出会い結婚している。今年の5月には妊娠も発表した。もう「サマーセール」で「PINK」を歌っていた頃のように、ひとりではない。〈ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー〉は、それを印象づけたツアーでもあった。全国各地に、彼女に強い愛情を抱く人がたくさんいた。そして中野サンプラザには、2000人を超えるファンが集まった。そのなかで歌った「PINK」は、あの頃より何倍も力強くて、これからさらに彼女が進化していく決意表明のようにも聴こえた。

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「こんばんは、大森靖子です。よろしくお願いします」とあいさつすると、まるで彼女の歴史を振り返るかのように、序盤は初期の曲をメインにアコギ1本の弾き語りで演奏した。「秘めごと」を歌いはじめると、ステージに散りばめられた電飾がキラキラと光る。これまでさまざまな場所でみせてきた弾き語りライヴと変わらぬ緊張感。「デートはやめよう」では多くの観客とともに「エロいことしよう」と合唱。そして「魔法が使えないなら」の最後に「つまらん夜はもうやめた」と言い放った瞬間、ドラムが力強くカウント。続く「絶対絶望絶好調」から、直枝政広(G / カーネーション)、畠山健嗣(G / H MOUNTAINS)、tatsu(B / LÄ-PPISCH)、奥野真哉(Key / ソウル・フラワー・ユニオン)、ピエール中野(Dr / 凛として時雨)によるバンドでの演奏に変わり、ライヴの勢いは加速していった。

演奏が進むにつれて、それまで座っていた観客が徐々に立ち上がっていく。「きゅるきゅる」では多くの人がグッズの「ナナちゃん処女膜再生ステッキ」を光らせてステージに手を伸ばしていた。広い会場がよく似合う煌びやかな「イミテーションガール」では、大森はステージ・セットの大きな切り株の上に立ってパフォーマンス。「ノスタルジックJ-POP」ではステージ上を右へ左へと歩き回り、「ここは君の本現場です」と歌いながら手を伸ばして最前列の観客と握手した。

大きな拍手のなかで大森は客席をみわたすと、遠くから来ている人たちを気遣いつつ「いろいろあって来てくれることが本当にうれしいです」と感謝した。再び演奏に戻り、「あまい」でサイケデリックなサウンドを聴かせる。イントロにセリフをつけくわえてはじまった「子供じゃないもん17」では、途中でギターをぎゅっと抱えながら歌うなど、かわいらしい一面をみせた。直枝と畠山によるギターの掛け合いから「おまけ♡~スーパーフリーポップ~」へ。大森はステージを這うように歌ったり、客席に降りて客のメガネをかけるなど場内を沸かせたあとは、バンドを残して一度ステージからはける。バンドの即興演奏を経て、曲の終盤に衣装を着替えた大森が再び合流すると、ステージ上手に設けられたサブ・ステージでキーボードを弾きながら絶叫した。そのまま大森がキーボードを鳴らすと「KITTY'S BLUES」を披露。奥野はこの曲ではアコーディオンを演奏し、しっとりと大人っぽいアレンジを聴かせた。

「キラキラ」「歌謡曲」は大森がキーボードの弾き語りで演奏。どちらも、まだ客がわずかだった時代から歌ってきた曲たち。当時と変わらない生々しい歌声が、広いホールの隅々にまで響いていった。キーボードの前から立ち上がると、アカペラで「さようなら」を歌いながらゆっくりと歩き出す。ステージ中央に到達すると、敷かれていた花びらを掴んで投げながら「わからないなら死ねばいい」と歌った。圧倒的な歌声に緊張感が場内を支配するなか、大森はアコギを持って切り株に腰掛けて「呪いは水色」を歌いはじめると、途中からバンドもくわわる。曲が終わると、それまで演奏に集中して聴き入っていた観客が、一斉に拍手を贈った。

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ここで少し長めのMC。大森はこれまでの活動を振り返りながら、感慨深そうに語った。

「ツアーはまだ3回目なんですよね。1回目の『魔法が使えないなら死にたい』のツアーのときは、地方の喫茶店やらストリップ小屋やら、友だちが借りられそうなところや弾き語りができそうなところに自分で電話して。友だちの車とかヒッチハイクとかで行って、なんとかひとりふたり観にくるようなツアーのファイナルが渋谷のクラブクアトロで。月に20本とか30本とかライヴをやっていたのが、客の伸びになかなか繋がらなかったんですけど、練習嫌いでも上手になれたから良かったなって、いまは思うんですけど。なんとかクアトロが満員になって、ちょっとだけ話題になれて。次の年が『絶対少女』のツアーで、ファイナルがリキッドルームでメジャーの発表をしたんですけど、口が軽いからみんな知っていて驚かないっていう(笑)。そして今日は中野サンプラザなんですけど…。よく来れたなって思いますね」

「大森だから大きい森にしてみました」とステージ・セットについて説明しつつ、話題は自身の”炎上”について及ぶ。

「計算ってことにしているけど、全部思ったことを口に出しているだけですから。言い訳を上手に考えるんですけど、取り返しがつかなくなってきましたねえ。あと何年メジャーにいられるかわからないですけど、これから先もね、いろいろやりたいことがあるので。邪念を自分のなかに入れておきたくないんですよ。常に空っぽでいたい。空洞でいたいというか、虚無でいたいんですよ。顔とかも整形したいですけど、整形したい顔があるんじゃなくて、小顔にしすぎて消し去りたいんですよ」

これまでのライヴでは早口で話すことも多かった彼女が、ゆっくりと穏やかに話している姿が印象的だった。最後に「家ではずっとベッドで寝てるだけなんですけど、そんな人でも、なるべくかわいく生きましょうという曲をやりたいと思います」と曲紹介すると、「絶対彼女」から演奏を再開。繰り返し「絶対女の子がいいな」と歌う彼女の声も、とても優しく聴こえた。切り株に腰をかけながらポエトリー・リーディングのような新曲「春の公園(調布にて)」を披露しつつ、「焼肉デート」へ。アコギを振り回したり担いだりとアグレッシブなパフォーマンスをみせると、「新宿」では演奏中の畠山をステージ前に引っ張ってきて髪の毛をくしゃくしゃにするなど、のびのびと歌い踊っていた。

ライヴは、もう終盤。大森は客席に降りて、最前列の女子の隣に座って「どこから来たの?」と楽しそうに話しかける。そして「行くよ?」と合図すると場内の空気は一変、客席を歩きながらアカペラで「音楽は魔法ではない」と歌い「音楽を捨てよ、そして音楽へ」がはじまった。途中でバンド演奏もくわわると、お客さんに絡みながら、まるで喜怒哀楽のすべてを1曲で表現するかのように、巧みに表情を変えながら歌った。曲中に「ギター、直枝政広!! ギター、畠山健嗣!! ベース、tatsu!! キーボード、奥野真哉!! ドラムス、ピエール中野!! ヴォーカル、大森靖子でした!!」と誇らしげに叫びながらメンバー紹介。ミラー・ボールの光が照らすなかで、気が触れたかのように笑いだす。そして最後の一節を歌い終えると、演奏がクライマックスへと進むなか、マイク・スタンドを限界まで伸ばし客席中央付近の通路に置き、後ろと前を向いてそれぞれに礼。そのまま客席の出入り口をとおって、大森は姿を消した。やがてバンド演奏も終わると、客席からは拍手喝采が起こった。魂を揺さぶるような熱唱と、圧巻のパフォーマンス。それに対して客席に残されたマイク・スタンドは「これが私の歌だ。あなたたちは、なにを歌うのか」と観客に問いかけているように思えた。

彼女はアルバム『洗脳』発売後のインタビューで、ファンについて「魅力あふれる人であってくれることがうれしい」と語っていた。その言葉の意味を改めて考えさせられるシーンだった。

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拍手はアンコールへと変わり、たくさんの花で装飾されたピンク色のドレスを着た大森がステージに戻る。照れくさそうにお辞儀をすると、客席から聞こえたいくつもの「かわいい!」の声に「かわいいって言える人は、あなたがかわいいからですよ。ありがとう」と返した。「さっきも言ったんですけど、虚無っていうより、ミラーになりたいんですよ。みんなが持ってきたものを、そのまま増大して返せるような芸術になっていきたいと思っていて。そういう曲を作りました。それが7月15日にシングルで発売されます」と発表。さらに引っ越しにあたり、かねてからの夢だった自宅でのライヴに「裏ツアー・ファイナル」として1名を招待することを告知した。そして、その新曲「マジックミラー」をバンドとともに披露。曲がはじまり、ふいに客電がつき場内が明るくなると、ステージ後方に大きな鏡が姿を現す。そこには、大森やバンド・メンバーの背中、そしてピンク色のサイリウムを持ちながら、あっけにとられている客席が映し出されていた。まるでステージから客席をみているような、空想と現実が交錯しているような不思議な感覚。先ほどの言葉どおり、彼女は観客の応援する姿そのものをミラーに映し出し、感動的な演出として取り込んでしまった。大森靖子という存在は、これほど多くの人の思いを受けて歌っているのだということを、示しているようにも思えた。とても美しい光景だった。

大森は、この日最後のMCで、中野サンプラザでライヴをすることへの強い思いを語った。

「今日は本当に、どうもありがとうございました。MJっていう番組に出させていただいたときに、大好きなモーニング娘。の道重さゆみさんが卒業される前に共演したいっていうのがギリギリで間に合って。「間に合ってよかった」って言葉が自然に出てきちゃったんですよ。まだわからないですけど、ここも解体されるかもしれないんですよね。私は、本当にどんなライヴハウスよりもここに通いつめていて、いつも素敵なものをもらって帰っている場所だったので、本当に出られてうれしくて、今日も間に合ってよかったなって思いました。これからも、いろんなことに間に合い続けたいなと思っています」

道重が昨年行われたモーニング娘。の卒業公演で着用していた衣装も、たくさんの花で彩られたドレスだった。アンコールでの大森の衣装は、彼女の「さゆになりたい」という夢を叶えるため、デザイナーのさくらいかおりが用意したもの。まさに、この舞台にぴったりの衣装だった。

「みなさんも、ついてきてくれている人はよくついてきてくれていると思います。このくそみたいな性格のやつに。なに言ってるのってときがいっぱいあると思うんですよ。でも、これからも優しい気持ちで見守ってくださいね」と彼女なりの感謝の言葉を述べると、「最後の曲です。ありがとうございました」と告げて、道重への思いをつづった曲「ミッドナイト清純異性交遊」へ。客席に立ち上がるように促すと、観客は一斉にピンク色のサイリウムやナナちゃんステッキを光らせてステージに手を伸ばす。それに応えるように、大森は暖かい笑みを浮かべながら客席へと何度も手を伸ばした。鳴り響く大きな拍手と歓声。曲が終わっても、大森はずっと幸せそうな満面の笑顔のままだった。最後にバンド・メンバーと手を繋いで掲げると、約2時間20分ほどのライヴは終了した。

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「ミッドナイト清純異性交遊」の冒頭に「アンダーグラウンドから君の指まで遠くはないのさ」という歌詞がある。弾き語りで「PINK」からはじまり、アンコールで最新曲「マジックミラー」をバンドで披露したライヴは、アンダーグラウンドから道重さゆみが何度も立った中野サンプラザの舞台まで駆け上がってきた、彼女のこれまでの歴史を総括しているようだった。今回のツアーはキャパ50人足らずの元ストリップ小屋や喫茶店での弾き語り、中規模のライヴハウスでのバンド演奏など、内容は場所によってさまざまだった。しかしどの公演においても、彼女の芯である歌は、変わらずまばゆい輝きを放っていた。演奏する場所や出演形態などは、大森にとって歌を装飾する要素であり、表現の幅や可能性を広げるための手段にすぎないのだろう。そんな彼女の表現の振れ幅の広さを最大限にみせつつ、大舞台を存分に使った演出を取り入れたこのツアー・ファイナル公演は、メジャーで活動することの意味と、ライヴの新たな魅力や可能性を提示するような完璧な内容だった。

大森は6月3日から初の舞台「夏果て幸せの果て」に出演する。そして妊娠を発表している彼女は、7月15日に予定されている両A面シングル『マジックミラー / さっちゃんのセクシーカレー』発売後、短くとも数ヶ月の間はライヴ活動を休止することになるだろう。ライヴのない日々が2週間続くだけで「ライヴがしたい」とつぶやいてしまう彼女がしばらくライヴをしないなんて、いったいいつぶりなのか想像もできない。しかし舞台出演や休養、出産という新たな経験を経た大森は、いまよりもっとおもしろくなっていることは間違いない。メジャーだからできること、そして大森靖子だからできることを、これから彼女はどれだけみせてくれるのだろう。期待はふくらんでいくばかりである。(前田将博)

photo by Masayo

■大森靖子 全国ツアー〈❤爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー❤〉
2015年4月26日(日)東京~ノスタルジック中野サンプラザ~
<セットリスト>

SE.私は悪くない
1.PINK
2.秘めごと
3.夏果て
4.デートはやめよう
5.魔法が使えないなら
6.絶対絶望絶好調
7.きゅるきゅる
8.イミテーションガール
9.ノスタルジックJ-POP
10.あまい
11.エンドレスダンス
12.子供じゃないもん17
13.君と映画
14.おまけ♡~スーパーフリーポップ~
15.KITTY'S BLUES
16.キラキラ
17.歌謡曲
18.さようなら
19.呪いは水色
20.絶対彼女
21.少女3号
22.あたし天使の堪忍袋
23.春の公園(調布にて)
24.焼肉デート
25.新宿
26.音楽を捨てよ、そして音楽へ

アンコール
27.マジックミラー
28.ミッドナイト清純異性交遊

■大森靖子 全国ツアー〈❤爆裂! ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー❤〉レポート
・大森靖子、地元・松山での初凱旋ライヴでツアー幕開け (3月8日 初日・松山公演)
http://ototoy.jp/news/81260
・大森靖子、鳥取の元ストリップ小屋にて生音で圧倒的な"歌"を聴かせる (3月29日 鳥取公演)
http://ototoy.jp/news/81369
・大森靖子、秋田の小さな喫茶店でツアー折り返し 複雑な胸中を明かす (4月5日 秋田公演)
http://ototoy.jp/news/81448
・大森靖子、ツアー大阪公演は圧巻のバンド演奏で魅了 (4月16日 大阪公演)
http://ototoy.jp/news/81498

・大森靖子、メジャー・ファースト・アルバム『洗脳』をハイレゾ配信&インタヴュー掲載!!!
http://ototoy.jp/feature/2015020702

■大森靖子×根本宗子 ねもしゅーせいこ「夏果て幸せの果て」
2015年6月3日(水)〜9日(火) 東京芸術劇場シアターイースト
チケット : 前売 4,200円 / 当日 4,500円 (全席指定)
詳細 : http://www.oomorinemoto.jp
【公演スケジュール】
6月3日(水)19:30~
6月4日(木)14;30~ / 19:30~
6月5日(金)19:30~
6月6日(土)14;30~ / 19:30~
6月7日(日)14:30~
6月8日(月)19:30~
6月9日(火)14:30~

■2nd 両A面シングル『マジックミラー / さっちゃんのセクシーカレー』
2015年7月15日(水)発売
収録曲(予定)
・マジックミラー
・さっちゃんのセクシーカレー
・私は悪くない

・大森靖子 オフィシャルサイト
http://oomoriseiko.info


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