2015.07.27
IT系シェアハウス、ギークハウスの実態 「ライフスタイルもオンプレじゃなくてクラウドでいこう」

IT系シェアハウス、ギークハウスの実態 「ライフスタイルもオンプレじゃなくてクラウドでいこう」

ITエンジニアやWEBクリエイターなど、インターネット界隈の人たちが寄り添うシェアハウス「ギークハウス」が広まっている。その住み心地や居住メリットについて、実際にギークハウスに居住経験のある落し物ドットコム代表の増木大己さん、LIGエンジニアの菅原のびすけさんにお話をきいた。

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【プロフィール】
増木大己さん(写真右)…株式会社 落し物ドットコム代表取締役。起業を機に前職の社員寮をでてギークハウスへ入居。御徒町のコワーキングスペース ギークガレージのマスターも務める。

菅原のびすけさん(写真左)…株式会社LIG エンジニア。岩手県から上京時に知人の紹介を機にギークハウスへ入居。現在は家賃0円クリエイターズシェアハウスに居住。Milkcocoa公認エバンジェリスト。

ギークな価値観を共有できる概念・イデオロギーのようなもの

― 今回のテーマは「ギークハウスとは?」です。まずは、その成り立ちを教えてもらえますか。


増木:
もともとは、プロニートとして有名なphaさんが「ひとりで家を借りると高いし、面白くもないからみんなでシェアした方がよくない?」と提唱し、自然発生的にIT/WEB系のエンジニアやクリエイターといったギーク(技術オタク)な人々のためのシェアハウスを作る「ギークハウスプロジェクト」が誕生したのが始まりだと思います。


― 通常のシェアハウスとは、どういうところが違うのでしょうか。


増木:
間取りや設備に大きな違いがあるわけではなくて、一番の違いは「価値観」の部分だと思います。私もシェアハウスは色々見てきて思うのですが、住む人の属性によって、カラーって大きく変わるんですね。そのカラーと温度感の違うところに住んでしまうと、疲れちゃうんです(笑)

例えば、浅草近辺だと、海外からの渡航者が多く集まるゲストハウス式のところがたくさんあるのですが、そういうところは「出会い」や「交流」に重きを置いているんです。夜はほぼ毎晩パーティやっていますとか、リビングでワイワイしてますみたいな。 そこに 「コミュニケーションならチャットでやった方が早いし楽だよね」という人が住んでも居心地が良いとは限らない。それならそういう人同士で「ギーク」な価値観を共有できるメンバーでシェアできる物件があった方が良いわけです。

のびすけ:
だからといって、特にアウトローの集まりとか、意識高い系の集まりっていうわけでもないですけどね(笑) 強いて言うなら、インドア系のゆるいアウトローっぽい人が多いかな。自分の好きなことに一生懸命なタイプが多いですね。

増木:
たしかに、エンジニアやクリエイターが集まってはいますが、一緒に生活しながら新たなプロダクトやサービス、ビジネスを立ち上げよう!…みたいな意識高い感じというわけではないですね。物件によってカラーが違うので、そういうところもあるかもしれませんが、少なくとも私が住んでいた物件では生活圏にそこまで求めているわけでなかったです(笑)

― なるほど。とりあえずギークな価値観を共有できるシェアハウスが「ギークハウス」なんですね。


増木:
そうですね。「ギークハウス」というブランドの専門運営会社や、全国的な組織があるわけではなくて、共通の概念とかイデオロギーみたいなものと言った方が正確ですね。私が住んでいる上野の物件も、通常のシェアハウスを運営する不動産業者が「ギークハウス」という概念に乗っかって運営している形です。

現在、私が認知している範囲で20以上のギークハウスが都心部を中心に各地に存在していて、それぞれのギークハウス同士はSNSによるゆるい繋がりはありますが、それぞれ独自に運営していて、居住形態もルームシェア方式、下宿方式、ゲストハウス方式など色んな形があります。


菅原のびすけさん_増木大己さん


夜飲みながらお互いノートPCを開いてるのが普通の光景

― 居住者の職業は、やはりWEB系の人が多いのでしょうか。


増木:
だいたい半数以上がWEB系企業の人ですね。特にエンジニアが多めです。他にはフリーランスやニートの人とか。その他の業界の人もいますが、一般的なシェアハウスに比べると、これほど特定の業種の人が集まって住んでいるシェアハウスは珍しいんじゃないかと思います。


― 実際にギークハウスに住んでみての印象はいかがですか?


のびすけ:
ギークハウスプロジェクトのWEBサイトに、皆でこたつを囲んで、ノートPCでハッカソンをしている風の写真が載っていたので、住む前のイメージだとああいう感じなのかなと思っていました(笑)

増木:
特に談笑しているわけでもなく、時間だけ共有して、やっていることは別々みたいなね(笑) ああいう図を見てキモチ悪いと思わないっていうのは、ひとつの価値基準かもしれないですね。これも物件によってカラーの違いはあると思いますが。実際には、毎晩ハッカソンしているわけでもないですし、皆が集まる共有スペースや「卓」がないところもありますしね。

のびすけ:
ハッカソンよりもう少しゆるめの「もくもく会」というのが月2~3回程度行われるギークハウスもあって、各自もくもくと勉強したり、本を読んだりしています。近所のギークハウス同士の交流もありますよ。

シェアハウスに入居する時点で、ある程度「出会い」や「交流」に期待しているところはあると思いますが、ギークハウスの場合はそれだけじゃなく、黙々と技術の勉強ができるとか、たまにギークな話ができるとか、そういうのを求めている人が多いのかなという印象ですね。


― ギークハウスならではのメリットはどういう時に感じますか?


増木:
私の場合は、起業したての時に、オフィスのすぐ近くにギークハウスができて、住居にかけるお金が節約できたのがすごくラッキーでしたね。敷金や礼金が必要なく、無線LANや家具・家電・食器等の生活に必要な最低限のものが揃っていたので、「これはまさに自分のためにできたような家だ!」と思いました(笑) 

のびすけ:
僕の場合は、一緒に住んでいる人と夜飲みながらNode.jsを教えてもらえたりして、すごくありがたかったですね。普通、飲みながらお互いがノートPCを開いてる状況ってあんまりないじゃないですか?そういう光景が普通にあるのが、ギークハウスならではっていう感じですね。


菅原のびすけさん_増木大己さん


オンプレミス型の生活はムダ

― ギークハウスを選ぶ人の特徴みたいなものはあるのでしょうか?


のびすけ:
僕の場合は、もともと家でプライベートな時間を持ちたいとかあまり考えていなくて、「帰って寝るだけの場所」として割り切るつもりだったので、会社から近くて、家賃が安ければ普通のシェアハウスでもどこでも良いと思っていました。ギークハウスを選んだのは、たまたまなんですが、価値観が近い人が集まっているのは結果として良かったですね。

増木:
私も同じく、たまたま近くにあったギークハウスを選んだタイプですが、逆に言うと「吉祥寺に住みたい」みたいなプライベート重視型のモチベーションがなかったからこそ選んだのかもしれませんね。通勤に時間をかけたくないとか、電車に乗りたくない…みたいな合理性を追求していくタイプの人がギークハウスには多いかもしれませんね。

のびすけ:
あー!それは確かにあるかもしれませんね!エンジニア系の人って「所有よりも利用」っていうクラウド的な発想で「オンプレミス型の生活はムダ」って考える人が多いですよね。お風呂は近くの銭湯に行けばいいし、食事も1人なら外食した方が安いし冷蔵庫いらない、Youtubeが見れればTVもいらない……みたいな。オープンソース文化のマインドで、ライフスタイルもオープンにした方が合理的と考える傾向はあるかもしれないですね。

増木:
あとギークな人って、めんどくさがり屋タイプの人が多いですよね。ハックしたり、自動化プログラムを書いたりするのも、もともと「めんどくさい」「汗水たらして無駄なことはしたくない」っていう発想から行動する人たちですからね。とはいえ一応ギークハウスもシェアハウスですから、共同生活をしていく上での基本的なルールは守れる人じゃないと厳しいですね。掃除を持ち回りで担当するとか、 使った食器はすぐに洗って元に戻すとか……ごく当たり前のことですが。

のびすけ:
そうした生活まわりの世話を特定の人が担当する「管理人制度」がある物件もありますよね。管理人になった人は、その分家賃が安くなるみたいな。それもまた経済合理性で解決していて、ギークハウスらしいなと思いますね。

仕事がなくても10万円とPC1台で上京できる

― ギークな人が集まると、なにか面白そうなプロダクトが生まれたりしそうなのですが、実際のところはいかがですか?


のびすけ:
あまりそういう話は聞いたことがないですね。僕が思いつくのは増木さんが運営しているギークガレージくらいです。何かビジネスをやろうっていうタイプの人は少ないですよね。

増木:
エンジニア系の人は、それぞれの得意分野には強いけど、横の人を巻き込んで、音頭をとって共通のベクトルへ進めようってタイプの人は少ないかもですね。料理で例えると、野菜を作る名人や、水をくむ人はいるけど「この材料を使ってスープを作ろう!」っていうシェフタイプの人がいない。それって少しもったいないとは思いますね。どこかのギークハウスでは、そうした企画が進行しているかもしれませんが、あまり聞かないです。そんなにガツガツせず、ゆるい雰囲気なのが良いところとも言えます。


― 今後、ギークハウスを利用しようと考えている人へのメッセージはありますか?


増木:
ギークハウスは地方で埋もれているギークな人にとって、上京のキッカケづくりとして大きなチャンスの場だと思いますね。入居にかかる費用が安いですし、10万円くらい貯金があれば1ヶ月くらいなら仕事を探しながらでもなんとか生活していける。その間に横のネットワークを活用して、色んな機会を見つけていけると思います。個人的には今後ギークハウスやギークガレージでそうした活動のお手伝いをしていきたいなと考えています。

のびすけ:
確かに、僕も上京した時にギークハウスがあって助かりましたね。コストの面でも助かりましたし、電気・ガス・水道・インターネット…といった契約まわりをひとつずつ結ぶ必要がなくて楽でした。カバン1つ、PC1台あれば気軽に上京できるし、僕は前の物件から今の物件に転居する時に、タクシー1台で引越しできましたからね(笑)


― ギークハウスについて、色んな可能性を感じるお話を聞くことができました。今回は貴重なお話をありがとうございました!


[撮影場所協力] ギークガレージ


文 = 鈴木健介


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