「伊根の舟屋」で知られる京都府伊根町、この街でも人口減少と高齢化によって空き家となる舟屋が増え、伝統の街並みをどう残していくかという課題に直面している。空き家となった舟屋をリノベーションし、伝統建築を残していく新しい動きをご紹介しよう。
伊根町は国の「重要伝統的建造物群保存地区」にも指定されている美しい街。1階が船や漁具を収める“ガレージ”、2階が住居という「舟屋」が約230軒、静かな伊根湾を取り囲むように立ち並んでいる。建物はほとんどが明治から昭和初期にかけて建てられたもので、街の大通り(と言っても車がすれ違うのがやっとの細い道)をはさんで山側に母屋を設けた家が多い。ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで二つ星を獲得し、観光客は増加傾向、さらに世界遺産登録を目指しているそうだ。
しかし、高齢化・人口減少問題はこの地域でも課題となっており、舟屋にも空き家が増え始めている。江戸時代から続く伝統の舟屋建築を残していくためのチャレンジが、カフェと小売店を併設した短期の賃貸物件へとリノベーションするプロジェクトだ。建物が完成し、初めてのお客さまを迎えるという当日、現地を訪ねてみた。
リノベーションされた建物は伊根湾の中心部・鳥屋(とや)地区にある。舟屋の2階をキッチンと温泉露天風呂が付いたコンドミニアム風に改装し、日単位で貸し出すスタイルをとる。料金は1泊2日で1万2000円(1名)、定員は2名とのことだ。1階は船のガレージ部分を埋めてカフェスペースとし、和菓子の製造販売も行っている。上下階で別々の施設につくり替えたと考えればいいだろう。
事業を手掛ける株式会社京都北P&Mの代表、そして伊根町商工会会長でもある濱野儀一郎氏に、その背景についてお話を伺った。
「舟屋は小さな建物も多く、旅館としては使いづらい点もあるため、貸別荘のようなスタイルで手軽に利用できることを優先したプランにしました。でも、伊根には観光客の方が楽しめるようなお店が少ないことも課題だと思っていて、カフェや雑貨店、飲食施設や土産物店などの施設をたくさん設けられるよう、舟屋の持つ魅力を残しつつ1階と2階に別の役割を持たせた建物に改装しました。地元の人たちに仕事をつくり出すという意味もあり、近所のおばあちゃんたちの手づくり干物などを販売してもらうことも考えています」とのこと。
京都市内では京町家をリノベーションした建物が売買、賃貸物件として人気を集めているが、同じような発想ともいえそうだ。舟屋建築は、住居や宿泊施設に限らず、ショップやレストラン、カフェとしても再活用できる可能性を秘めている。
もうひとつ、注目しておきたいのが資金集めにクラウドファンディングを活用したという点。今回のプロジェクトは京都銀行とミュージックセキュリテーズによるクラウドファンディング案件の第1弾でもあった。約840万円の改装資金を1口2万円強の小口投資ファンドとして募集したのだが、注目度も高くあっという間に応募で埋まってしまったという。
出資者には配当のほかに特産品や宿泊券特典があったことも人気の一因なのかもしれないが、それ以上に舟屋の街が持つ将来性への期待感があったのだろう。街おこしやリノベーションの費用をクラウドファンディングで集めるという手法は他のエリアでも参考にできそう。実際、現地の見学とヒアリングを兼ねて沖縄方面の事業者が訪れていた。
舟屋の空き家物件はまだいくつもあるということなので、アイデアと実行力に自信があるという人は舟屋のリノベーションにトライしてみてはいかがだろう。空き家を活用したU&Iターン事例が次々に誕生すれば伊根町の活性化にもつながるはず。地域創生のひとつのヒントにもなりそうだ。