この「ゆるい移住」を発表した鯖江市は、国内生産シェア95%を誇る眼鏡フレームの生産地としてだけでなく、最近は鯖江市内在住、または鯖江市内の高校等に通う女子高校生がまちづくり活動を行う「JK課」などでも注目を集めています。
8月9日(日)に東京・日本橋で開催された説明会の参加者は15名。男女比率は男性が少し多めで、ほとんどの方が20代でした。対象が「20~35歳くらい」とあるにしても、若い!
また、筆者自身も移住に興味があり、いくつかの説明会に参加した経験があるのですが、参加者は多くて10名くらいという感覚。それが若い人だけでこんなに集まるのはやや多い印象です。
「ゆるい移住」は完全移住ではなくあくまでも移住のプチ体験です。そのポイントは大きく3点
ざっくりいうと、“最大半年間家賃ただで鯖江に来て好きなことやっていいよ、そのなかで一緒に鯖江について考えてほしい、やりたいことは市がサポートするよ”という実験的な移住施策です。
説明会のなかで「どうして“ゆるい”移住がよかったのか?」と市から参加者への逆(?)質問がありました。それに対しての参加者の回答は
「期間に幅があるのが魅力。田舎暮らしに興味があるけど、都会育ちだからずっといられる自信がない」「家賃無料が魅力」「やめたくなったらやめられそう。ハードルが低い」といったものや
「地方創生に関われることに興味がある」「市の方と関わってやりたいことをやらせてもらえるのがいい」など。
移住に関してぼんやりと考えている人には“なんとなく”“気軽に”という魅力があり、一方、まちづくりに興味があったり、何かをしてみたいという意欲のある人には“市と何かをすることに期待している”という、2方向の魅力があるようでした。
鯖江市はどうしてこのような移住施策を打ち出したのでしょうか?
国が掲げている「地方創生」と、どこの自治体でも抱えている「若者の減少」という問題。それを解決するために“Uターン・Iターンの施策を” というのがそもそもの背景だそう。
では、そこでどうして“ゆるい”というワードを打ち出したのか。「JK課」のプロデューサーも務めた若新雄純さん(福井大学客員准教授)によると
「鯖江のまちとしての魅力は“なんとなく雰囲気がいい”程度だと思っています。福井のなかではベッドタウンとして人気だけど、県外からみると“眼鏡のまち”くらいしか認知されていない。眼鏡をPRしたところで『じゃあ鯖江に住もう!』とはならないですよね(笑)
JK課の取り組みをやってみたときに “鯖江の魅力は、若者のやりたいことを自由に、さらに一緒になって取り組んでくれること”だと感じました。JK課には市の職員、しかも中堅くらいの方が1年間専任で担当についてくれていたりします。そこが一番の魅力じゃないかなと。
そういう姿勢のまちなので、行政から地元への就職を押し付けたり、地域おこし協力隊のように仕事としてまちづくりに関わってもらうのではなく、参加者の方に鯖江で自由に過ごすなかで、一緒にまちづくりに取り組めたらいいのかなと。なにか新しいことが生まれるんじゃないかと思って“ゆるい移住”を考えました」(若新さん)
最後にどんな人に参加してほしいかを聞いてみると
「率直にいうと若い人。 “ゆるい”というのはとてもキャッチ―だと思っているので、まずは鯖江に興味を持ってもらえれば。若者や“よそ”からの意見を受け入れるのはとても大事なこと。鯖江は仕事でも、趣味でも“自分のしたいことができる場”として在りたいと思っているし、応援したいと思っている」(鯖江市政策経営部 地方創生戦略室 室長の斉藤さん)
とのお言葉が。
今回、説明会に参加した15名のうち、以前から移住に興味があったのは4名だけ。残り11名は「ゆるい移住」そのものに興味を持って参加したそうです。こういった市のスタンスが、若者を引き寄せる大きな力なのだなぁと感じました。
翌日大阪にて開催された説明会にも6名の若者が参加。「現在、大学4年生で時間がある。留学か?海外ボランティアか?ゆるい移住か?で考えている」と、学生最後の1年の過ごし方の候補として考えている男性もいたそうです。
参加希望者はこれから1泊2日の事前合宿を経て、ゆるい移住が始まります。この前例がない新しい取り組みがどうなっていくのか楽しみです。