「認知症1000万人社会」の到来とともに、「認知症予備群」と呼ばれるMCI(軽度認知障害)患者も急増する見込みだ。現在400万人(2012年)とされる患者数は、MCIの有病率13%(全国推定値)から推計すると、2025年には475万人にまで膨らむ。認知症・MCIの専門医院「メモリークリニックお茶の水」院長で、東京医科歯科大学特任教授の朝田隆氏が解説する。
「MCIとは記憶障害はあるものの物忘れの自覚があり、日常生活にもほとんど影響がない“認知症の前段階”の状態です。ただしMCIを放置するとおよそ4年間で50%が認知症を発症するとされています」
“認知症の一歩手前”と位置付けられるMCIだが、朝田氏の言葉を言い換えれば「50%は数年経っても認知症を発症しない」ということでもある。40%はMCIのままだが、専門家が注目するのは残りの10%の人々だ。彼らはMCIから正常に戻っていたのである。
これまで3万人以上の認知症患者の診療経験を持つ「おくむらmemoryクリニック」院長の奥村歩氏(脳神経外科)がこう話す。
「現状では、認知症を発症すると進行を確実に止める術はありませんが、MCIは“まだ間に合う”のです。
近年、認知症は生活習慣病の側面を大きく持つことが各国の研究データ等で明らかにされつつあります。そのため生活習慣を見直すことで認知症を予防でき、MCIの症状が改善することがわかってきました。MCIの方が本人の意識改革で生活習慣を改め、回復した事例を私も数多く見てきました」
なぜ生活習慣を改善すれば回復に繋がるのか。その秘密は認知症の発症メカニズムに隠されている。