6.ロックってすげえや!
スティーブンは自分を魅了する音楽が何なのか知りたくてレコードショップに行きました。
そこにはこの世のものとは思えないほど髪が長く、ヨレヨレのTシャツを着て、ボロボロのジーンズを履いた人がいました。
彼は「ジミーおじさん」と呼ばれ、地元の音楽少年から親しまれていました。ジミーおじさんは食べているときと寝ているとき以外はギターを弾いていて、よく風呂場で感電しているともっぱらの噂でした。
「おじさん! 音楽について教えてよ!」
店に入るなり、スティーブンが叫びます。
「坊や、なにが知りたいんだい? モーツァルトか? エリック・サティか? それとも20世紀以降の現代音楽かい?」
ジミーおじさんは「俺は音楽全般の教養があるんだ」とアピールしたいがために、よくクラシックの作曲家や現代音楽家の名前を出します。ここ数ヶ月は「マイケル・ナイマンがさ・・・」が口癖です。
「“テケテケテケテケ!”って感じの音で、身体が“ビリビリビリ!”って感じの音楽さ」
「坊や、そんな音楽は世界に1つしかない。“ロック”ってやつだな」
「ろ、ろろろ、ろっく!? なんだい、それは?」
「聞いたほうが早えや、こいつを持っていけ!」
そうしてジミーおじさんが渡したのが、The Monkeesの“Daydream Believer”でした。
家に帰り、レコードを聞いていたスティーブンは震えていました。これがロックなのかと。なんて身体が痺れるんだと。
そのときです。
ガチャッ!
すごい勢いで、父親のビクターが部屋に入ってきました。
「誰だ、ロックなぞを聞いているやつは!」
トロールのような顔をして怒っています。
「こんな不良が聞く醜悪な音楽を! お前も堕落したならず者になってしまうぞ! 今すぐやめろ!!」
すごい勢いで喚き立てます。
「父さん! 僕、音楽を聞いてこんなにドキドキしたことってないんだ! ここには何かがあるよ!!」
「うるさい! 出て行け! もうお前はうちの子じゃない!!」
「言われなくても出ていくよ! 最低の家だな、ここは!」
スティーブンは泣きながら家を飛び出しました。
7.さよならタイラー家
それから1ヶ月が経ちました。
スティーブンは一向に帰ってくる気配がありません。食卓はビクターと母親のリンダの2人ぼっちです。
「あなた、スティーブンのこと探したほうが良いんじゃない?」
「うるさい、あんな音楽を聞く奴は私の息子じゃない!」
ビクターはそう意地を張って、スティーブンのことを放っておきました。
リンダはビクターほど強情ではありません。スティーブンの友達に聞き込みをして、居場所を探しました。すると、街外れにある廃ビルで寝泊まりしているという情報を手に入れたのです。
その足でリンダは廃ビルへと向かいました。
そこは粗大ごみを持ち寄った不良たちの住居となっていました。ビルに侵入して、すぐにスティーブンの姿を発見しました。ボロボロのジーンズとボサボサの長髪で、まるで別人かのようになっていました。
「スティーブン、私よ、リンダよ。さぁ、おうちに帰りましょう」
「・・・うるせぇ」
「スティーブン! 正気に戻って。父さんもきっと反省しているわ」
「うるせえって言ってんだよ、ババァ!」
次の瞬間、辺りに轟音が鳴り響きました。バイクのエンジン音です。
「おうおう、ばあさん! スティーブンは帰りたくないって言っているぞ!」
「無理やり連れていくなんて、児童虐待なんじゃねえか!?」
リンダはバイクに乗った不良たちに囲まれました。リンダの周りをぐるぐるぐるぐると、エンジンを吹かしながら同心円状に走るのでした。
(つづく)
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