街・地域
次にくる住みたい街取材班
次にくる住みたい街 取材班
2016年3月19日 (土)

東京の東側「小岩」が、若者たちに注目されているワケ

東京の東側「小岩」が、若者たちに注目されているワケ
写真撮影/次にくる住みたい街はここだっ!取材班
SUUMOで調査している「みんなが選んだ住みたい街ランキング」では、毎年ランキング上位に登場するのは、吉祥寺や恵比寿、目黒といった「東京の西側の街」がほとんどです。確かに浅草や上野、錦糸町などの東側の街と比べると、西側の街にはなんとなくオシャレで住みやすいイメージがありますよね。大繁華街である渋谷や新宿、池袋に出るのにも便利です。

しかし、最近はアンテナの鋭い若者たちの間で「東京の東側(右半分)にもっと注目しよう」という新たなムーブメントが起こっているようです。東側の街といっても、豊洲や品川などの再開発が目覚ましいエリアではありません。昭和っぽいレトロ&カオスが感じられるディープタウンに注目が集まっているのです。ううむ、これは、気取った街にばかり人気が集中している風潮に対する「揺り戻し現象」とでもいったらいいのでしょうか……。

さらにここ数年は、東側エリアに数多く点在する「懐かしのスナック」を再評価する動きも高まっています。浅草キッドの玉袋筋太郎氏が手がけた『スナック案内』、『ナイトスナッカーズ』などの書籍やDVDが話題を呼んでいるほか、昨年末にはマガジンハウスの雑誌『BRUTUS』(2015年11月15日号)でも「スナック好き。」という珍特集が組まれました。

また、テレビ界でも『モヤモヤさまぁ〜ず』『有吉くんの正直さんぽ』『夜の巷を徘徊する』などといった街歩き番組内で、錦糸町や小岩、立石をはじめとする東側のディープタウンを取り上げるケースが徐々に増えているようです。

いったい、若者たちは東京の東側の街のどんな部分に魅力を感じているのでしょうか? それを検証するため、取材班は千葉県との県境に接し、東京の東の端っこに位置する「小岩」(江戸川区)を歩いてみることにしました。小岩というと、これまではスナックやキャバクラ、風俗店が建ち並ぶ、デンジャラスな歓楽街という印象がありましたが、最近は赤羽や大井町などと並んで、女性客も安心して飲める「センベロ居酒屋の聖地」としても人気が高まりつつあるようです。

アーチェリー場、大衆演劇など、懐かしのアミューズメントが目白押し!

小岩の駅を出てまず驚かされるのが、商店街の充実ぶりです。気の利いた雑貨店や、今どきの若者が好みそうなカフェは残念ながら一軒もありませんが、その代わり、昭和テイストあふれる古びた個人商店やスナックがずらりと軒を連ねていて物価は超激安! 焼鳥1本60円、弁当は280円均一、古着もなんと50円からそろっています。
さらに都心部では希少となった銭湯も数多く健在だし、「アーチェリー場」や「大衆演劇スポット」など、他の街に見られない懐かしい遊び場も街のあちこちに点在しています。

【画像1】デザイン性やトレンドよりも、安くて機能的な品ぞろえを重視した店が多いのも小岩の商店街の特徴だ(写真撮影/次にくる住みたい街はここだっ!取材班)

【画像1】デザイン性やトレンドよりも、安くて機能的な品ぞろえを重視した店が多いのも小岩の商店街の特徴だ(写真撮影/次にくる住みたい街はここだっ!取材班)

【画像2】1ゲーム(12本)300円で楽しめる「江戸川アーチェリー」。初心者でも店主が丁寧に指導してくれるので安心(写真撮影/次にくる住みたい街はここだっ!取材班)

【画像2】1ゲーム(12本)300円で楽しめる「江戸川アーチェリー」。初心者でも店主が丁寧に指導してくれるので安心(写真撮影/次にくる住みたい街はここだっ!取材班)

東京から失われつつある大切なものに気づかされる街

ブラリと街を歩いてみただけでは、これといった特徴のない、ただの古びた街のような印象を受けますが、この街を訪れた人の多くは、不思議な居心地の良さを感じるはずです。その理由は、街に漂う独特のゆる~い空気感と、人の温かさにあるように思えます。

普段、常に競争の中に身を置きながら働いているビジネスピープルは、なにかにつけて、自分をより大きく見せよう、良く見せようとしがちですが、この街ではそうした虚勢や承認欲求はまったくの無意味です。パジャマ代わりのジャージの上下で街を歩いても平気だし、ブランドもののファッションを身につけて高価なバッグを抱えて歩いていても、その価値に気づく人は少ないかもしれません。

その代わりに、商店街の店に入れば「お客さんどっから来たの? 最近寒い日が続いてるから風邪引かないようにね〜」といった雑談や世間話が必ずといっていほど交わされます。居酒屋やスナックも同じで、一見客に対しても、古くからの馴染み客と変わらない態度でフランクに接してくれます。とにかく、人と人との距離が近いのが小岩の最大の魅力といってよいでしょう。

【画像3】1本60円の激安焼鳥店では、外国人から若い女性まで、さまざまな人々が楽しんでいる姿が(写真撮影/次にくる住みたい街はここだっ!取材班)

【画像3】1本60円の激安焼鳥店では、外国人から若い女性まで、さまざまな人々が楽しんでいる姿が(写真撮影/次にくる住みたい街はここだっ!取材班)

最近、スナックやディープタウンに注目が集まっているのも、おそらくは人間同士のふれあいに若者たちが回帰しはじめたからではないでしょうか。SNSでつながるのもいいけど、時にはスマホをいじるのを止めて、生身の人間同士、ふれあってみるのも楽しいものです。私たちが忘れてしまった大切な「何か」を気づかせてくれるかもしれません。

構成・取材・文/中村宏覚

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