「今、先祖代々のお墓を維持するのがすごく難しくなっているんですよ」と、最近のお墓事情について教えてくれたのは、葬儀・お墓・終活コンサルタントの吉川(きっかわ)美津子さん。高齢化が進み、孫・子ども世代が都会で暮らしている地方では特に深刻で、熊本県人吉市では約4割のお墓が無縁墓という衝撃データもあるほど。
住んでいる場所とお墓が離れている、子どもがいないなど、無縁墓になる事情はさまざまだが、高齢になればなるほど、「このお墓をどうしようか」と悩んでいる人も少なくないという。
「お墓の維持管理で悩んでいる場合、お墓を残すか、残さないかで大きく変わってきます。残す場合は、親戚のなかでお墓の維持管理する人を決めておくとよいでしょう。高齢で難しい場合は、お墓参り代行サービスを利用する人もいらっしゃいます」(吉川さん)。墓参り代行は1回数千円〜が相場だが、「お墓の規模や掃除などのサービス内容によって金額は異なります。最近では寺院や霊園がサービスを行っていることもありますので、一度、聞いてみるといいでしょう」とアドバイスする。
ただ、いつまでも親族が健康で資金に余裕があるとも限らず、親族が管理する場合の見通しがたつのは10年程度だろう。その先20年、30年後は難しくなってくる。では、お墓を残さないと決めた場合、どのような選択肢があるのだろうか。
「もとの墓を撤去し、中の遺骨を取り出して、新しいお墓に移すんです。最近はこれが墓じまいと言われています。移転先は一般的な墓だけでなく、納骨堂や合葬墓などさまざまですが、今、この墓じまいをしたいという人が増えています」(吉川さん)
この墓じまい、住まいでいうならば、「引越し」にあたるわけだが、移すものが遺骨となれば、話はそう簡単に進まない。かかる費用や時間、手続きなど、詳細を解説していこう。
墓じまいには大きくわけて2つのプロセスがある。1つは新しい遺骨の移転先を決めることと、もう1つは今あるお墓を撤去・解体することだ。
「お墓から遺骨を取り出し、解体・撤去作業は石材店が行います。作業自体は1〜数日で終わりますが、遺骨を取り出すには自治体へ書類(埋蔵証明など)を提出し、改葬許可を受けなくてはいけませんし、お墓が代々、菩提寺の境内にあれば離檀料(※)が必要になることも。まずは、どこに移転するのかを親族・親戚とよく話し合いましょう」と吉川さん。
また、お墓の移転先を決めるにしても、どこでもいいというわけではないはず。墓地や永代供養墓、納骨堂など、候補をあげて比較検討していると、あっという間に1年が経過するとか。時間・気力・体力、費用も必要になるため、遅くとも60代、70代のうちに進めておくのが大切だという。
「近年では、木を墓標として見立てた樹木葬墓地のような新しい永代供養のかたち、マンション型納骨堂などが続々と登場していますし、何を重視するかは人それぞれです。ただ、お墓の情報を集めて比較・検討するのは根気のいる作業ですので、元気なうちに動くことをおすすめしています」と吉川さんはいう。ちなみにお墓のトレンドは住宅とまったく同じで、都心回帰&アクセス重視、セキュリティ完備、デザインも洋風・小型化傾向にあるのだという。
少子化や離婚、生涯独身の人が増えてきた今、誰もが直面する可能性がある「墓じまい」。吉川さんによると、墓じまいをした人は、「大変だったがやってよかった、これで安心して逝ける」と皆、口をそろえるのだとか。死んだあとの「住まい」について、今一度真剣に考え、話し合っておくのは、家族や親戚、若い世代にとってもプラスになることだろう。
※離檀料…寺院内にお墓があり、お墓を移転・改葬する場合、それまでのお礼としてお布施を包む習慣があり、これを離檀料という。高額な金額を提示され、トラブルになるケースもあるという