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既に多くのメディアで報道されているとおり、全国で映画館を運営するTOHOシネマズは、12月18日に封切する『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を、六本木ヒルズなどの一部の映画館で特別価格2000円で提供すると発表しました。通常料金が1800円なので、約一割増です。

■特別価格2000円の衝撃
ざっと見渡したところ、概ねどの記事でも「一部の映画館で一部の映画だけ高く設定するなんてビックリ」、「高くする理由は…」、「過去にはこんな例が…」、「割引価格は普段通り適用」等といった内容で書かれているようです。これは、映画に限らず色んなものが全国ほぼ同じ価格で提供されることが多い日本らしい反応です。しかし、世界の多くの国では、場所や曜日等で映画の価格が異なるのは当たり前で、むしろそれがニュースになってしまうことの方が驚きでしょう。

おそらくTOHOシネマズは、今回の措置による追加的な収入増を主な目的として考えているのではなく、需給等の諸条件によって異なる価格が適用されるのが当たり前だという“常識”を広めようとしているのではないでしょうか。合理的な市場メカニズムを導入することこそ、日本の映画業界にとっての重要課題だと考えられるからです。

■ドル換算価格は、世界トップレベル
ところで、そもそも日本の映画料金は、他の先進諸国と比べてどうなのでしょうか? 実は、日本の映画料金は、世界的に見て非常に高い水準にあるのです。

UNESCO Institute for Statisticsが発表しているデータによれば、日本の映画料金は、2012年の平均が15.8ドルで、16.7ドルだったスイスに次いでOECD加盟国中2番目に高額でした。2013年は円安の影響で12.8ドルとなりましたが、それでも34カ国中6位とトップグループです。この年10ドル超となったのは、全体の3分の1未満でした。

ちなみに、世界最大の映画供給源となっている米国は、2012年8ドル、2013年8.1ドルです。感覚的には、日本の半額程度以下といったところでしょう。

■ビッグマックが4個買える
実際その国で感覚的にどの程度の水準にあるのかを見るには、各国のビッグマックの値段を物差しにしたビッグマック倍率が分かりやすいと思います。Economist誌がウエブ上で提供するデータを用い、各国の映画料金をビッグマック倍率に換算し、図に示しました。
eiga_vs_bigmac

図の中で、一番右端で目立っているのが我が日本です。ビッグマック4個分というのは、2位以下を大きく引き離し、ダントツの1位です。

ビッグマック4個と映画1回、どちらがバリューなのかは人によって違いますが、日本の平均として、同等程度の価値があると見なされていることになります。

■一人当たりGDP比でも世界一
ビッグマック換算だけでは心許ないため、一人当たりGDPに対してプロットしたものも作成しました。次の図です。直線から下側に外れれば外れるほど国民の平均的な所得に対して映画料金が割安、上側に外れれば外れるほど平均的な所得に対して割高、ということになります。
eiga_vs_gdp

金持ちばかりの小国ルクセンブルクを例外として見れば、最も割安なのが米国で、圧倒的に割高なのが日本です。割高ゾーンには他に、北欧諸国やスイス、イギリス、オーストラリア等、いかにも高そうな国が並んでいますが、それらの国と比較してもダントツです。

日本の映画料金がこれほど割高になっている明確な理由は分かりませんが、最初に見たように、価格に市場メカニズムがほとんど働いていないことが大きく影響していると考えるのも、あながち間違ってはいないのではないでしょうか。

割高な価格設定は、映画ファンにとっての不利益となるだけでなく、潜在的な需要を喚起しないことで、映画業界全体にとっての不利益にもなります。映画を観に行かない人の多くが、価格の高さを主な理由にあげているのです。

TOHOシネマズはじめ業界の皆さんには、業界側と観客の双方にとって利のある取り組みを、今後も期待したいと思います。

以下の記事も是非参考にしてください。
■不遇の天才チューリングの半生を描いた脚本家が感動のアカデミー賞スピーチで訴えた、日本に一番足りないもの。(本田康博)
http://sharescafe.net/43977373-20150326.html
■映画「イミテーション・ゲーム」の暗号解読ミッションを、「魚のムニエル」で解説してみました。(本田康博)
http://sharescafe.net/43988269-20150327.html
■「100分中20分が性描写」と話題の女性向け官能恋愛作品がもたらした衝撃と、大人の事情。(本田康博)
http://sharescafe.net/43385921-20150216.html
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。(本田康博)
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html

■まとめ
・ TOHOシネマズの特別料金は、市場メカニズムの導入を狙ってのもの、かもしれません。
・ そもそも日本の映画料金は世界的に見てかなり高い水準です。
・ ビッグマック4個分は、ダントツ。
・ 1人当たりGDP比で見ても、ダントツ。
・ 割高なのは市場メカニズムが働いていないため、だと思います。

本田康博 証券アナリスト・馬主

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