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金井直子
2015年12月11日 (金)

154作品から選ばれた「リノベ」グランプリ作品は?

154作品から選ばれた2015年の「リノベ」、グランプリ作品とは?
画像提供:株式会社ブルースタジオ
今年で3回目となる「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2015」の授賞式が11月8日に開催され、「この1年を代表するリノベーション作品」が決定しました。グランプリや部門別最優秀賞などバラエティに富んだ各作品は、リノベーションの大きな可能性や魅力を感じさせてくれます。そんなリノベの最新傾向を探ってみました。

街の活性化までも実現させた作品がグランプリに

リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2015とは、「リノベーションの楽しさ、魅力、可能性」を感じさせる作品を表彰する一般社団法人リノベーション住宅推進協議会主催のコンテストです。
リノベーションとは、建物が持つ本来の性能を向上させたり、価値を高めたりすること。「中古住宅を購入してリノベで自分らしい家に変えたい!」「魅力的なリノベ済み住宅が欲しい!」という消費者の方々のリノベーション住宅に対する期待は年々高まっているように思われます。
そうした意識の高まりからか、「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2015」にエントリーされたのは154作品にも上り、多くの候補物件の中から、グランプリ1作品、部門別最優秀作品賞4作品、特別賞7作品が選ばれました。まず、グランプリと部門別最優秀作品賞の特徴を紹介します。

●総合グランプリ
こどもたちの駅前広場「ホシノタニ団地」 

株式会社ブルースタジオ

【画像1】こどもたちの駅前広場「ホシノタニ団地」(画像提供:株式会社ブルースタジオ)

【画像1】こどもたちの駅前広場「ホシノタニ団地」(画像提供:株式会社ブルースタジオ)

ホシノタニ団地があるのは小田急線座間駅。駅のすぐ隣という好立地にありながら、老朽化や耐震性の面から閉鎖されていた社宅2棟を、1LDKの賃貸住宅としてリノベーション。人が行き交う立地を活かすべく、広場には芝生の築山と貸し農園を、1階部分には公益施設(子育て支援施設、カフェ、コミュニティキッチン等)を設けて、住人以外も活用できる「駅前広場」としました。
新たなコミュニティをつくり出し、駅前に活気ある風景を取り戻すことで、座間の街全体の価値を高めている点が高く評価されました。

●部門別最優秀作品賞〈500万円未満部門〉
ノスタルジック秘密基地

株式会社シンプルハウス

【画像2】ノスタルジック秘密基地(画像提供:株式会社シンプルハウス)

【画像2】ノスタルジック秘密基地(画像提供:株式会社シンプルハウス)

大阪にある築35年のマンション。光の入らないダイニングを広がりのあるLDKにし、思春期の子どもたちに個室を設け、ナチュラルで懐かしさを感じさせる内装に仕上げました。長女の部屋に遊びにきたお友達から「秘密基地みたい」と評されたことから、この作品名になったとか。
費用を抑えつつ、明確な目的をシンプルに追求した点で評価された事例です。

●部門別最優秀作品賞〈800万円未満部門〉
守口の長屋〜まるで露天風呂〜

株式会社アートアンドクラフト

【画像3】守口の長屋〜まるで露天風呂〜(画像提供:株式会社アートアンドクラフト)

【画像3】守口の長屋〜まるで露天風呂〜(画像提供:株式会社アートアンドクラフト)

昔ながらの風景が広がる大阪府守口市に立つ長屋の賃貸住宅。長屋の雰囲気を極力壊さないよう、その古さから生じる趣を活かして再生。庭から出入りする浴室の開放感が新鮮だと、問い合わせが多数あったそう。
「ボロいのはNGだけど、古いのはOK」という、長屋暮らしが好きな人たちの意識や要望をうまくすくいあげている点が特に評価されました。


●部門別最優秀作品賞〈800万円以上部門〉
「特別などこか」へ行かなくても、日常こそが特別な暮らし「井の頭の家」

株式会社リビタ

【画像4】「特別などこか」へ行かなくても、日常こそが特別な暮らし「井の頭の家」(画像提供:株式会社リビタ)

【画像4】「特別などこか」へ行かなくても、日常こそが特別な暮らし「井の頭の家」(画像提供:株式会社リビタ)

桜並木の続く玉川上水に面して立つ、築31年の一戸建て住宅。森の中にいるかのような環境と、窓外の緑を家に取り込んだような既存構造を、リノベーションで活かしきりました。現行法に適合した耐震化、現状の省エネ基準を超える断熱化を行い、建物の性能を格段に引き上げています。
家の美点を見つけ、それらを丁寧に磨き上げ、高い価値を新たに付与している点で評価されました。

●部門別最優秀作品賞〈無差別級部門〉
リノベーションの全ステップを実際に体験できるワークショップ「DIY R SCHOOL」

9株式会社

【画像5】リノベーションの全ステップを実際に体験できるワークショップ「DIY R SCHOOL」(画像提供:9株式会社)

【画像5】リノベーションの全ステップを実際に体験できるワークショップ「DIY R SCHOOL」(画像提供:9株式会社)

舞台となったのは築40年以上になる泉北ニュータウンの団地。リノベーションの全ステップをワークショップ形式で行い、団地を再生した日本初のプロジェクトです。45m2、3DKの5住戸を題材にし、解体、材料の搬入、塗装、フローリング工事など、延べ500人の参加者が約5カ月間、毎週土曜日に21回かけてDIYしました。
自分で手掛けたいと思ってもなかなか取り掛かれないDIYですが、住人参加を呼びかけ、ワークショップにより「自分でもできる」と気づかせた点が、DIYリノベーションの可能性を示しています。

物件や手法のバリエーションが多様化&深化

グランプリ、部門別最優秀作品賞のほかに7作品が審査員特別賞を受賞しています。審査員特別賞には「賃貸リノベーション賞」「再販リノベーション賞」「省エネリノベーション賞」などがあり、そうした部門名や受賞作品からも分かる通り、リノベーションの領域は広く、持つ役割は多様であることを示しています。
「今年は一気に多様性が広がった」「年々レベルが上がり、内容が深化している」と選考委員の方が評するように、リノベーションが社会にもたらす意義やユーザーの意識を変革する取り組みなども合わせて、今年は特に次の5つの特徴を感じました。

(1)リノベーションが街を活性化させる!
顕在化しつつある郊外の空き家・空き団地問題を解決する手法としてリノベーションが用いられる事例はここ数年いくつか見られてきましたが、建物の再生に留まらず、場を外に開くことで街の活気を取り戻し、地域再生につながるという傑出したプロジェクトが今回登場し、リノベーションの大きな可能性と力を示してくれました。

【画像6】敷地と建物の一部を地域に開いて人の行き交う駅前広場になった「ホシノタニ団地」(画像提供:株式会社ブルースタジオ)

【画像6】敷地と建物の一部を地域に開いて人の行き交う駅前広場になった「ホシノタニ団地」(画像提供:株式会社ブルースタジオ)

(2)「再販リノベーション物件」の高レベル化
「再販リノベーション物件」とは、中古住宅を購入した企業がリノベーションしてから売り出す物件のこと。立地や構造など、住宅の良い点を最大限活かしたリノベーションを施すことによって、物件の魅力を格段に高めています。ここ数年、そうした再販物件が高レベル化、充実しつつあり、中古住宅を買ってからリノベーションをするよりも、プロがこだわって仕上げた美しく快適な空間を堪能できる点で注目が集まっています。

【画像7】左:【再販リノベーション賞受賞作品】ターゲットとする購入者世代の感覚をデザインに採用した「リノベーション済み物件の“新常識”でつくられた住まい」(画像提供:株式会社ブルースタジオ) 右:高額な販売価格にも関わらず、すぐに買い手がついたという「井の頭の家」(画像提供:株式会社リビタ)

【画像7】左:【再販リノベーション賞受賞作品】ターゲットとする購入者世代の感覚をデザインに採用した「リノベーション済み物件の“新常識”でつくられた住まい」(画像提供:株式会社ブルースタジオ) 右:高額な販売価格にも関わらず、すぐに買い手がついたという「井の頭の家」(画像提供:株式会社リビタ)

(3)「DIY」がリノベの道を開く
今年の住まいの重要キーワードとして上げられるものの一つにDIYがあります。賃貸住宅でも壁紙を張ったり、ホチキスで壁面家具を取り付けたりという原状回復可能なプチリノベを楽しんでいる人が近年増えており、当然、「家全体を自分で」という人も現れつつあります。DIYの経験を積むことで、「中古を買ってリノベDIY」
が選択肢の一つとなっていく、その可能性の大きさが示された年となりました。

【画像8】電動工具の扱いもばっちりという「DIY R SCHOOL」(画像提供:9株式会社)

【画像8】電動工具の扱いもばっちりという「DIY R SCHOOL」(画像提供:9株式会社)

(4)住宅性能の向上で不快→快適に
築30年、40年、それ以上の家ともなると、新築住宅に比べて耐震性、断熱性、気密性などの性能は旧態依然としたままで、冬寒く、夏は暑い、結露がひどい、地震が恐いなど、暮らしにくい面が多々あります。今年は住宅性能を高めるリノベーションによって、住人の快適な暮らしを実現させた事例が目立っていました。

【画像9】左:【省エネリノベーション賞受賞作品】札幌の寒くてカビだらけという室内を快適に変えた「暖房なしでも暖かいマンション」(画像提供:棟晶株式会社) 右:窓が大きいのに断熱性が基準以上に高い「井の頭の家」(画像提供:株式会社リビタ)

【画像9】左:【省エネリノベーション賞受賞作品】札幌の寒くてカビだらけという室内を快適に変えた「暖房なしでも暖かいマンション」(画像提供:棟晶株式会社) 右:窓が大きいのに断熱性が基準以上に高い「井の頭の家」(画像提供:株式会社リビタ)

(5)「古さ」を武器にする
建物の古さを趣ととらえて、あえてそのまま活かす事例にもバリエーションが出てきています。「古いもの=×」ではなく「古いもの=魅力」と考えるユーザーが増えていることの現れなのでしょう。古い長屋も古い団地も建て替えることなく、賃貸住宅として新たな住人を迎えることとなりました。

【画像10】左:長屋の雰囲気を壊さないという観点で最小限の範囲でリノベされた「守口の長屋」(画像提供:株式会社アートアンドクラフト) 右:【賃貸リノベーション賞受賞作品】内装の張り替えや塗り替え等を最小限にした「団地リノベ / コンクリートと無垢の家」(画像提供:株式会社タムタムデザイン)

【画像10】左:長屋の雰囲気を壊さないという観点で最小限の範囲でリノベされた「守口の長屋」(画像提供:株式会社アートアンドクラフト) 右:【賃貸リノベーション賞受賞作品】内装の張り替えや塗り替え等を最小限にした「団地リノベ / コンクリートと無垢の家」(画像提供:株式会社タムタムデザイン)

世の中から価値の低いものと考えられているものにまったく異なる価値をもたらすことが、リノベーションの一番の醍醐味です。さまざまな制約の中から自由な発想でリノベーションされた今回の多彩な受賞作品には、それぞれ異なる「再生の物語」を垣間見ることができ、リノベーションの自由な発想や大きな可能性を見てとれました。
さらに、グランプリ作品「ホシノタニ団地」で見られたように、地域の魅力まで再生する手法として有効であることが示されたことで、リノベーションの必要度や注目度が以前に比べてより一層高まってきたと感じたコンテスト結果となりました。

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