「ありきたりな家にはしたくなかった。とくに好きな空間イメージと素材感を大切にしたかった」という神奈川県相模原市在住の宮澤さん夫婦は、当初、限られた予算のなかで自分たちのイメージを追求するならと、「中古住宅を買ってリフォーム」という選択肢を考えていた。ところが、妻のYさんが数カ月後に出産を控えていたため、負担をかけずに住まい探し~入居までを進めなければならなかった。
そんな矢先、今回、物件探しをサポートした横浜市の不動産会社アーキプロジェクトの担当者・田尻さんとのやり取りの中で、予算内で十分手の届く「新築の建売住宅」を「リフォーム」するという一見大胆なプランが浮上。
「中古物件をリフォームする場合、物件の状態によって、躯体補強や大規模な修繕など想定外の工事が発生する可能性もあり、コストコントロールがむずかしい。その点、新築物件の場合、そうしたリスクはほぼないですし、既存の設備を活かしながら、こだわりたい部分だけをカスタマイズするという提案をさせていただいたんです」(田尻さん)。「私たちの状況・条件に照らしたとき、まさに目から鱗でしたね。新築でもリフォームってありなんだと(笑)」(夫のTさん)
「家族が最も長い時間を過ごす1階部分は、自分たちの好きな色や雰囲気にアレンジしたかったですね。とくに床材と壁面、これにはとくにこだわりました」とご夫婦。今回のリフォームにあたっては、田尻さんから紹介を受けた建築家・金刺久順さん(BATTIRI DESIGN代表)にプランニングと内装デザインを依頼。そして、金刺さんとの打ち合わせの中で、とくに宮澤さんがこだわっていたリビングダイニングと玄関ホールの壁面をDIYで仕上げるというプランが決まった。
「色はブルーと赤に決めてたんです」というリビングダイニングの壁面は、妻のYさんがコーディネート。以前から自身の部屋に壁紙を貼ったり、ペインティングしたりとお部屋替えを楽しんできたYさん。情報収集は、もっぱらインターネット。SNSやネットショップの口コミをつぶさにチェックしながら、今回のペンキをチョイスした。
「色調は、鮮やかでありながら、あまり軽くならないような色にしたかったんです」(Yさん)
そして、夫のTさんがこだわったのが玄関ホール。「リビング(ブルーと赤の配色)のほうが先に決まっていたため(笑)、玄関ホールはぐっと落ち着かせたかったのと、塗り壁ならではの渋さ、荒々しさといった風合いにこだわりました」(Tさん)。壁面のグレーは塗料をTさんが自ら調合してつくったオリジナルカラーだ。
「リフォーム予算が350万円と限られていたため、既存の設備やDIY部分と空間的に調和を図りながら、いかにコストコントロールをしていくのかが課題でした」と金刺さん。
リフォーム箇所はざっと以下の通りだ。
・洋室の間仕切りをなくし、広いリビングダイニングに
・リビングダイニングの床を無垢のフローリングに
・キッチンまわりの壁面変更
・キッチンカウンターの造作およびカウンター下部に無垢材を張りこみ
・玄関ホールの床を無垢フローリングにし、ミニ洗面コーナーを設置
・階段側面に無垢材の張りこみ
・室内ドアの変更、などである。
このリフォームにかかった期間は正味3週間、DIYでおこなった壁面塗装はほぼ1日で完了した。部分的なリフォームではあるが、建築家ならではのアイデアとDIY部分も含めたイメージのすりあわせをおこなった結果、エッジの効いたこだわり空間に。
「新しくて、見て選べる安心感が新築の建売住宅のメリットですよね。私たちみたいに『入居を急ぎたい。予算も限られている。でも、こだわりたい部分には思いっきり手をかけたい』という人にはピッタリかもしれませんね」とはTさん。
この宮澤さん夫婦のお住まいは、家全体を変えたわけではないのに、家に入った瞬間、住み手の個性や楽しさが感じられ、リフォームにかけたお値段以上の変化感を楽しむことができた。「新築×リフォーム」、一見奇をてらったように思えるが、どうしてどうして、ある意味、合理的な住まい選択のアプローチだ。