一面真っ白な雪原に、雪と氷でつくられた4棟の建造物が出現する「アイスヒルズホテルin当別」。北国の冬と暮らしを「アート」と「北欧」をテーマに楽しむイベントとして2014年からスタートした。さっぽろ雪まつり期間に、クロスホテル札幌の前庭にドリンクを提供するアイスバーを設けた同ホテル支配人が、北海道の寒さと雪を活用して地域活性化に貢献できないかと思いついたのが始まりだ。
「北海道は冬になると観光で訪れる人が減るという課題がありました。そこで、観光資源として氷の建造物をつくり、人を呼べないかと考えました。会場に選ばれた当別町は、札幌市から車でも電車でも1時間以内と近く、北欧の国・スウェーデンのレクサンド市と姉妹都市。北欧で親しまれているアイスホテルを建てるのにぴったりの環境・景観があります。当別町の協力も得られることになり、このプロジェクトが実現したのです」(小林さん)
会場には、アイスバーがあるレセプション棟と、最長12時間の滞在ができる滞在体験棟3棟が建つ。雪と氷でできた建造物が冬の静かな日差しに輝く様子や、降り続く雪の中で凛と建つ景色は神秘的。また、エリア内には、スノーモービルやスノーシューなどのコース、さまざまな体験型イベントが用意されている。来て楽しい、見て楽しい、遊んで楽しい場所だ。来場者数も、2014年の9000人から、2015年には1万2000人に増加。2016年も、国内外の数多くのメディアに取り上げられたこともあり、1万5000人程度の来場者数が見込まれている。
冬の寒さや雪は、北海道で日常を過ごす大人にとっては、正直やっかいだ。最高気温が氷点下の時期には外へ出るのも億劫だし、毎日の除雪は重労働。スキーやそりで遊びたくて初雪を待ちわびたのは子どものころの話だ。しかし、アイスヒルズホテルin当別の会場では、大人たちが雪を楽しんでいる光景が多く見られるのだとか。
「毎週末に来てくださるファミリーや、カップルも多いですね。そりやスノーモービルのヘルメットを持参でいらっしゃるので、地元や近郊の方たちではないかと思います。大人たちは、はじめはアイスヒルズホテルを『きれいね』と眺めているだけなのですが、子どもたちに誘われてそり遊びを始めると、気が付けば大人のほうが夢中に。ご近所の目がない解放感からか、思い切り楽しんでくださっています。日常とは違う場所で雪に触れることで、忘れていた雪の楽しさを思い出すのかもしれませんね」(三浦さん)
雪と氷の建造物は、本場スウェーデンでアイスホテルづくりに携わっていたプロのビルダーを中心に製作されているのだが、毎年、町の職員が手伝いに参加するほか、地元教育委員会の後援で、当別町在住の小学生と中学生のべ20名がキッズビルダーとして参加している。
「子どもたちには、雪と氷で大きな建造物をつくるという経験から、『雪ってこんなことにも使えるんだ』という発見で視野を広げてもらえるとうれしいと思っています。近年、冬に積もる雪を夏の冷房に利用するなど、雪のさまざまな活用や研究が行われています。そんな新たな雪活用に目を向けるきっかけづくり、“雪育”にもつながればいいですね」(小林さん)
雪を観光資源として活用しようと始められたアイスヒルズホテルin当別だが、雪活用の効果は、地元の活性化や子どもたちの教育など、幅広い分野に広がりつつある。