抗告訴訟提起 翁長知事会見(全文)


この記事を書いた人 Avatar photo 金城 潤

 抗告訴訟を提起した後に開催された翁長雄志知事の記者会見の冒頭発言と一問一答の全文は次の通り。(2015年12月15日)

 【冒頭発言】
 本日は、国地方係争処理委員会の決定および国土交通大臣が行った執行停止決定に対する抗告訴訟の提起について私から報告を申し上げる。
 第1に、昨日、国地方係争処理委員会の審査会合が聞かれ、県が去る11月2日に行った審査申し出は同委員会の審査対象ではないとして、申し出を却下するとの決定がなされた。
 同委員会が3度にわたり会合を聞き、長時間にわたり検討を重ねられたことについては一定の評価をするが、結果として執行停止決定の違法性についての実質的な審査が一切行われることなく却下の判断が示された。この判断は、地方自治法に規定する関与制度および国地方係争処理委員会の存在意義を自ら否定しかねないものと考えており、誠に遺憾だ。
 第2に、去る18日に県議会の議決をいただいた「国土交通大臣による公有水面埋め立て承認取り消し処分の執行停止決定の取り消しを求める訴えの提起」について、本日、那覇地方裁判所に訴えを提起するとともに、執行停止決定の執行停止を求める申し立てを行った。
 本件の訴えは、国土交通大臣による執行停止決定の効力を失わせることにより、沖縄防衛局が行う埋め立て工事を止める上で有効な方法だと考えている。
 以前から繰り返し申し上げているように、行政不服審査法は、国や地方公共団体の処分等から国民の権利利益の迅速な救済を図ることを目的としている。
 国の一行政機関である沖縄防衛局が、自らを一般国民と同じ「私人」であると主張して審査請求を行うことは、同法の趣旨にもとる違法なものだ。この点については、約100人もの行政法研究者からも批判の声が上がっているところだ。
 また、「辺野古が唯一」という政府の方針が明確にされている中で、同じ内閣の一員である国土交通大臣に対して中立・公正な判断は期待し得えず、この点からも、本件審査請求手続きにおける執行停止は違法だ。
 県としては、これから裁判所に対して、その旨主張・立証していく。
 私は、今後ともあらゆる手法を用いて、辺野古に新基地は造らせないとの公約実現に向け、不退転の決意で取り組んでいく。
 県民の皆さまのご理解とご協力をお願い申し上げる。
 【一問一答】
 ―国交相の執行停止を止めるための緊急性について、どこに一番重きを置くか
 知事 今、代執行の裁判も開始している。本来ならば、代執行裁判の結論が出るまで工事はできないが、今回は行政不服審査法でもって、まず工事ができるようにして、その後、どういう経緯をたどるか分からないが、いずれにしろ工事は進めていくという国のダブルスタンダード(二重基準)というか、二重のやり方がある。工事を止めることが一番重要なので、その意味での抗告訴訟だ。
 ―特に強調したい緊急性は何か。
 知事 先ほど申し上げた通り、工事の差し止めをしっかりとやらないといけない。執行停止の執行停止はこれが一番有効であるということでさせてもらっている。
 ―抗告訴訟の提起時期の政治的な意味合いは。
 知事 特に政治的なタイミングはなくて、先の記者会見で、議会の議決を得て、その後は速やかにそれを実行させていただくと話した。速やかにとは法律的な問題、訴状を作ったりするので、そういう準備が整うこと。弁護士とも相談し、時期的に可能であれは速やかにということを前に申し上げた。昨日、一昨日から、「大丈夫だ」と報告を受けたので、速やかにという意味できょうの日を設定させてもらった。
 ―国地方係争処理委員会の却下の翌日という形になった。
 知事 時期的な意味では全くの偶然だ。昨日、本当に長時間にわたって、議論がなされたようだ。小早川(光郎)委員長の記者会見も読ませてもらったが、7時間に及ぶ議論もあって、もう1回、開催したらどうかというマスコミからの質問もあった。平行線という言葉は使っていないが、そのようなニュアンスのようなものを持ってして、きょうで終わりたいなどというような話も、うかがうことが記者会見の中から感じた。
 地方自治という問題に関して、ある意味で10年、20年前とは違う感覚・考え方を持って、議論された部分も大きいんだなというのは思いつつも、結果的には遺憾なことになった。
 申し出を却下された翌日に抗告訴訟ということで、偶然であるが、あらためて不退転の決意であらゆる手法を持って、新辺野古基地は造らせない意味合いにおいて、途切れないで、こういった問題を県民や全国の皆さんに、県の決意を示したということは大きなことではないかと思っている。
 ―国と県が訴訟を提起し合う異例の事態となる。
 知事 この話をすると長くなり、1、2分で説明すると誤解を招くのではないかと思っている。いずれにしろ「辺野古が唯一」と言っているところに一番大きな問題があるかと思っている。沖縄の置かれている戦後の基地の歴史も含めて、沖縄全体の歴史も含めて今ある現状について、「一つ勘弁してくださいよ」という話をするわけだが、それを裁判で強権的に進めていく。
 戦後のサンフランシスコ講和条約で切り離されたときの米軍による土地の強制接収は大変理不尽なことだった。まさしく70年を経て、今度は米軍ではなく日本政府が銃剣とブルドーザーではないが、強権的な形で海上の強制接収に感じられる。二重三重に裁判をやることは大変残念だが、県の将来、特に子や孫の安心安全を守りながら、日本の安全保障体制を品格のあるものにしてもらいたいという沖縄から切実な願いを話している。その意味では国民全体で日本の安全保障は考えてもらいたいということを申し上げている中で、裁判が二重三重になっているかと思う。
 ―抗告訴訟の中で、執行停止の執行停止を申し立てる。県としてどれくらいで決定が出ると考えるか。
 竹下勇夫弁護士 本来、執行停止は緊急を要すべきものなので、早く出すのが前提だと思う。今回、国が申し立てた執行停止により、工事がすでに始まっている。それを止めるという求めなので、普通の執行停止とは違う要素がないわけではない。非常に大きな論点を含む訴訟なので、私どもとしても、従来の執行停止の手続きと同じようなものでいいのかどうかということもある。通常の執行停止の早さとは若干違うことになるかもしれない。
 ―めどは持っているか。
 竹下弁護士 最後は裁判所がどういうふうに進めるかに関わってくる。例えば、執行停止の中でも口頭弁論の手続きを行うか、行わないかという議論もあり、進み方が異なってくると思う。仮に口頭弁論が必要な重要な執行停止の問題であるなら、若干長くなるかもしれない。進め方によって違ってくると思っている。
 ―国地方係争処理委員会の却下決定に対する訴訟を起こすこともできる。選択肢とするか。
 知事 これから弁護士と相談し、やっていく。
 竹下弁護士 最終的には弁護団と県と協議した上で決めたい。現段階では昨日の小早川委員長のブリーフィングしか見ていない。正式に通知される書面をきちんと検討した上で、弁護団としてどういう意見を出すか決めたいと思う。現段階で、訴訟を提起するかしないか、どちらか固まっているというものではない。
 ―国地方係争処理委員会は全会一致でなく多数決だった。却下に関して少なくとも1人の専門家は却下すべきではないという考えだ。どう受け止めるか。
 知事 却下されるのではないかという話をする方が多くて、それでも私たちからすると県の主張が正しいということで申し出た。その中での議論が3回は数えたということ。なおかつ、3回目において7時間に及ぶ議論をして、なおかつ多数決になったということは、やはり地方自治法の20年以前と20年以内と、その中でいろんな経緯を経て、意味合いがご理解いただけた。
 行政法の関係者の専門家が100人ほど同じような考え方を持ってる方がいるので、そういう中で委員の中に、強くそれを主張する人がいるのは、そういった結果の中では将来を見通せるものが出ているのかなと。残念ながら多数決でそういう結果になったので、その点では遺憾には思うが、今おっしゃっている1人2人、意見を強くおっしゃった方がいるというのは敬意を表したい。
 ―係争委で却下されたことで、今回の抗告訴訟は非常に知事としては移設を止める上で非常に重要な手段になってくる。
 知事 あらゆる手法を尽くして新辺野古基地を造らせないという意味で、可能性のあるものは全部やっていくということで抗告訴訟を提起した。裁判は、どちらも勝算を持ってやるだろうし。法律的な意味合いは弁護士にお願いしたいが、個人的な僕の思いだけにとどめる勝算なら、当然のことながら県の主張していることは私どもからすると正当な権利だと思っているので、必ず理解いただけると思っている。
 ―今後、移設を止める手段について。
 知事 これは総合力だ。法廷もあるだろうし、いろんな集会とかもあるだろうし、こういったいろいろなものの重なり合いで、多くの国民にも理解してもらって。今年国連にも行ったが、世界的な視野で今の日米安保体制、そしてどういう形でそれが維持されているのか。日本本土の方にも日米安保体制の品格、日本の民主主義、地方自治を裁判を通じて多くの方々に注目をしてもらってご理解をいただくというのも、この1年間振り返っても相当の、私は、日本国民全体の理解と海外への浸透があったと思う。継続していく裁判の法廷闘争は、裁判のあるべき結論も大切だが、それをやることによって多くの国民や県民に理解していただく、共有していただく中で、この問題は必ず、私たちの思いと一緒になって解決していくものだと思う。
 ―来年は、裁判と並行して宜野湾市長選など重要な選挙もある。裁判が並行することが選挙にどう影響していくと考えるか
 知事 裁判と選挙が一緒になることはどうなんだろうか。それと絡めて考えたことがないので、どういう影響を及ぼすとか、そういうことは私の頭の中にはない。裁判は裁判として、選挙は選挙として、それ以外のもろもろはそれ以外のもろもろ。その集大成が、今言う県民の力、国民の力に、ご理解いただくものがあれば、最終的には私たちの考えがご理解いただけると思う。
 ―基地問題をめぐり、県が国を提訴するのは初めてだと思う。背景をどのように考えるか
 知事 心情的に言わせてもらうと、やむにやまれずだ。私の歴史認識を含め、戦後の成り立ち、そして今の日米安保体制の現状、沖縄の過重な負担。なおかつ一連のこの1~2年の経緯でも、私が当選してもお会いをしてもらえない。その中で私たちからすると、強権的な一つ一つの手法。こういったものを考えると、県民の誇りと尊厳を守る意味からすると、やむを得ないものだと私は思っている。
 それともう一つは、そういうものを置いておいても、今沖縄の状況は、いわゆる本来国のあるべき姿とか、地方自治とか民主主義という意味からも、客観的に結果的に厳しい状況だろうと。今のままだと日本は一体どうなるのかという思いがある。日本という国をある意味で愛しているがゆえに、現状は先行きの厳しさを感じている。沖縄のみならず、日本国全体の厳しい環境になっていくのではないのかなと、私なりの思いはある。
 ―知事の支持母体「ひやみかちうまんちゅの会」会長の宮城篤実氏が「裁判で勝つか負けるかも大事かもしれないが、一番尊いのは、知事が基地を容認せず、最後まで全力を尽くして闘うことだ」と言っていた。知事はどう考えるか。
 知事 まさしく今、オール沖縄、イデオロギーよりアイデンティティーという形で、保守の重鎮である宮城篤実先生がそのように言ったということなら、イデオロギーに基づくことではなくて、県民、日本国全体の中での民主主義、地方自治、あるいはまた自己決定権、こういったこと等を含めると、言うように不退転の決意で思いを遂げていく。それが私たち責任世代の役割だというふうに思っている。確かに厳しい環境にあるが、後ろ姿をしっかりと子や孫に見せることによって、子や孫が自分の生まれた沖縄に誇りや勇気を持って、それぞれの世代にはそれぞれの世代の感覚があるので、今の私たちの責任世代の思いを、彼らが吸収して、彼らなりの思いでもってふるさと沖縄の将来を担うことにつながっていくのであれば、私たちの役割はそこにあるのではないかと思っている。