サードプレイスとは、都市生活者の「自宅(ファーストプレイス)」でも、「職場(セカンドプレイス)」でもない、自分らしさを取り戻せる第三の居場所のこと。通勤時間が長い人ほど重視する傾向がある、という調査結果を読売広告社都市生活研究所が発表した。サードプレイスについて深掘りしてみよう。
調査結果によると、「自分だけの場所」を持っているのは25.6%。4人に1人がサードプレイス所有者ということになる。その場所はどこかという質問には、「カフェ/喫茶店」「公園や河原、海などの屋外」「スポーツクラブ/ジム/ヨガ」がトップ3。ただし、20・30代では男女ともに「カフェ/喫茶店」が最多であるのに対して、60代男性では「居酒屋/飲み屋」が高く、60代女性では「スポーツクラブ/ジム/ヨガ」が高くなるなど、年齢や性別によって違いが見られる点が特徴だ。
次に、仕事を持つ人に絞って通勤時間との関係を見てみると、通勤時間が長い人ほど「自分だけの場所は欲しいが持っていない」割合が増え、「自分だけの場所は重要だ」と答える傾向が強まるなど、通勤時間(自宅と職場の距離)とサードプレイスは関係性があるという結果となった。
サードプレイスはどこで、何をしているのかについても、通勤時間によって違いが見られる。通勤時間が「10~30分未満」の職住近接者では、「スポーツ」や「自然に触れる」活動をしており、場所も「スポーツクラブ」や「公園・河原などの屋外」が上位になる。
一方、通勤時間が「50分以上」の遠距離通勤者では、「何もしない」か「学び」の活動をしており、場所は「カフェ/喫茶店」や「映画館/美術館/劇場」が上位に挙がる。また、両者の中間となる通勤時間が「30~50分未満」の人では、「カフェ/喫茶店」や「居酒屋/飲み屋」で「飲酒/飲食」をする人が多くなる。
同研究所では職住近接者は「アクティブ レスト(活動的休息)」の場所を求め、職住分離者は、「メンタル リセット(精神初期化)」の場所を求めると見ている。
同研究所では、大規模マンションやタワーマンションなどの分譲マンションの共用部は、魅力的なサードプレイスになりうるかについても聞いている。「魅力的な場所であれば、そこを“自分だけの場所”として使いたいか」という質問に、「ぜひ使いたい」が1割程度、「使いたい」が2割強おり、「内容によって使うかもしれない」も4~5割いるという結果。この質問では、通勤時間による違いがあまり見られないのが、面白い点だ。
同研究所では、「現状、都心部タワーマンションの共用部では、眺望ラウンジのほかにスポーツジムなどが多く見受けられますが、今回の調査結果を見ると、その商品企画はどうやら職住近接者のライフスタイルニーズに合致しているらしいことが分かります。 一方で、都心近郊の大規模マンションでは、キッズスペースや多目的スペースだけでなく、利用者が日常の猥雑さから心をリセットできることを意識した『書斎ブース』のような空間があってもよいのかもしれません」と分析している。
自宅と職場の間でどこかに立ち寄ることがない、という人もいるだろう。あるいは、休日にわざわざ外出するのは面倒だけど一人になれる場所は欲しい、という人もいるだろう。たしかに、自分が住むマンションの共用施設なら、効率よく気分転換ができる場所になるかもしれない。
小中規模のマンションでは必要最低限の共用空間しかないが、大規模なマンションであれば、敷地内に庭園、棟内にラウンジやゲストルーム、パーティールーム、シアタールームなどを用意しているケースが多い。こうした贅沢な共用空間を利用できるのは、大規模マンションのメリットのひとつだ。
ただし、維持管理には費用もかかる。多くの居住者に長期間利用されてこそ、お金をかける意味がある。マンション居住者のライフスタイルは個々で異なるため、それぞれのマンションに応じた共用空間になるよう、分譲会社による商品企画だけでなく、管理組合でも積極的に活用方法を考える必要がある。
さて、江戸時代にもサードプレイスはあった。男なら町内の風呂屋や床屋、女なら長屋の井戸端。ご近所連中がふらっと立ち寄って、くつろいで時間をつぶせる場所だ。
その場所がくつろげるのは、気軽に立ち寄れる場所があるというだけでなく、良好なコミュニティがあるからだ。マンションの共用施設がサードスペースとなりうるには、コミュニティがつくりやすい仕掛けや雰囲気などもあわせて考えるのがよいだろう。