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Dentsu Lab Tokyo大来優×フォトグラファー森嶋夕貴 インタビュー

 これまでの広告会社とは違う新しい切り口での表現開発を目指し、クリエイティブの企画・開発・制作を一体となって行うチームとして、2015年9月に発足したDentsu Lab Tokyo。PerfumeのSXSW 2015での映像パフォーマンスや、ビョークの「Mouth Mantra」MVにも関わってきた同ラボのメンバーが、アートワーク、そしてMVを手掛けたのが、2015年リリースされたシンガーソングライターSETAの1st CD『金魚鉢』だ。今回、そのアートワークを手がけたアートディレクター 大来優と、フォトグラファー 森嶋夕貴にインタビュー。制作に込めた思いや、作品を“ヒット“させるために意識していることについて話を聞いた。

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弱いからビデオを作っているわけではない

−−私達は、セールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、ルックアップ、Twitter、YouTube、Gyao!の8つのデータを使って、Billboard JAPAN HOT 100という複合チャートを作っています。採用するデータは、音楽の聴き方の変化に応じてアメリカと協議しながら選んでおり、常に「今、最も聴かれている音楽は何か」について考えています。お二人は日頃どうやって音楽を聴かれますか?

大来優:私は、もっぱらApple Musicですね。たまに聴きたい曲がない時は、iTunesでダウンロードすることもあります。通勤中や移動中に音楽がないと歩けないので、イヤフォンを忘れたら途中で買います。

−−え?そこまでするんですか。ちなみに、今は何を聴いていますか?

大来:今日、ここに来る時はシーアを聴いていました。土屋太鳳さんのあの映像が、すごく良くて。ティザーを見た時から、すごく楽しみにしていて。

−−新しい音楽とは、どうやって出会うことが多いですか?

大来:私はテレビっ子なので音楽番組やCMを通じて知ることが多いです。曲名が分からない場合はShazamで調べたり。

森嶋夕貴:私もテレビ、あとはラジオが多いです。

大来:あとは、人から薦められることが多いですかね。直接友達から薦められることもあれば、誰かが薦めている文章を読んだり。

−−音楽のみならず口コミの力って大きいですね。

大来:今、SNSのおかげでコミュニケーションの距離がすごく近くなりました。しかもそのスピードの方が、メディアを通してものごとを知るより早かったりしますよね。

−−発信していく側の立場として、そういうSNSのスピードを意識していますか?

大来:意識というより、もはや無意識ですよね。気にする以前に自分の生活にも染み込んでいますから。

−−音楽を売り出す上で、ジャケットやミュージックビデオなど音楽+αという施策が多くなってきています。音楽の力が弱くなってきているんでしょうか?

大来:音楽の力が弱くなったわけではないし、弱いからビデオを作っているわけではないと思います。拡散するためのツールとして、今はムービーがあれば便利だからというというだけ。世の中に伝えるためのツールとしてWebは欠かせないし、必要だから作っているんだと思います。

−−今回のSETAさんのデビュー・アルバム『金魚鉢』ですが、全て異なる写真がジップつきpp袋に入っているという面白い仕様になっています。このアイディアは、どうやって生まれたのですか?

大来:まず、この作品は既に音源が公開されていたので1,000枚限定で作ることになりました。それで、まだ誰にも知られていないSETAさんという人を沢山見せるにはどうしたら良いかを考えた結果、1,000枚全て違う写真で作ることに決めました。そしてレコード探しみたいに選ぶ楽しさも味わっていただきたかったし、選んでいく過程の中でSETAさんのことを知ってもらえればなと思いました。実は打ち合わせの段階では、「店頭に1,000枚一度に並ぶわけじゃないから、100カットくらいで良いんじゃないか」っていう意見もあったんです。でも、せっかくだから1,000枚作りたくて。1,000枚っていう数字が、ものすごく大きい数字だってことに、のちのち気が付くんですけどね(笑)。

−−今回、撮影された森嶋さんは、1,000枚という数字を聞いていかがでしたか?

森嶋:衝撃的でしたし、耳を疑いましたね(笑)。

−−1,000パターン写真を撮るって、すごく大変そうですね。

森嶋:ただ、1,000枚撮るということは、1枚の答えを出すわけではないので、1,000枚の中で変化していく距離感を楽しもうと思いました。いろんなSETAさんを見せようと。歌はその人自身をあらわにするものなので、最初から彼女のことを知りすぎてしまわないように、あえて「金魚鉢」も聴き込みすぎないように意識しました。

−−なるほど。

森嶋:今回、2日かけて撮ったんですが、撮影前にテストシュートする機会を作ってもらったんです。大来さんが、カメラを通じて事前にコミュニケーションをとっておく方が良いんじゃないかっておっしゃってくださって。なので、少しずつ彼女を知りながら撮影することができました。

大来:今回は一緒に1,000枚を乗り越えていかないといけないので、入り口が乱暴だとマズいかなと思って。

−−1,000枚のジャケット写真を作るために、合計何カットくらい撮影したんですか?

森嶋:3,000~3,500枚くらい撮影したと思います。撮るのも大変でしたけど、選ぶ方が大変でした。

−−“なるべく色んな表情を見せる”ことを基準に選ばれたんですか?

大来:そうですね。まずは、直観で「良い」か「悪い」かで選んで、後半は「こんな表情も入れようか」という風に調整していきました。あまりにも枚数が多すぎて、結局10時間くらいかかりましたね。あとは、オマケとしてSETAさんが書いた絵や、セルフィーも入れています。

森嶋:今まで1,000枚をセレクトするという感覚がなかったので、「良い」「悪い」の基準が難しかったですね。

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役目は、その“もの”をどういう風に伝えたいのかを考えること

−−新しいアーティストを売り出す場合、統一したイメージで打ち出すことの方が多いと思います。まず、アーティスト写真を撮って、同じイメージでCDのジャケットを作って。露出する時も、同じ写真を使う。でも、今回は逆のアプローチですよね。

大来:そうなんです。1,000枚の中に、私達のオススメの写真は何カットかありますが、決まったジャケットというのはありません。なので、メディアにSETAさんの「金魚鉢」を掲載してもらう時に載せるジャケットのサムネイルがない。あと、SETAさんはアーティスト写真もありません。でも、逆にそこが面白いかなと思いました。そして、なぜ彼女の場合それが可能だったかというと“青い髪”というキーワードがあるからです。

−−髪の毛が青いというインパクトのおかげで、ある程度共通したイメージになるんですね。盤面も、青ですもんね。

大来:ピアノを弾いてシンガーソングライターで、でも髪が青いぞっていうキャッチを大事にしたかったので、盤面は頭頂部の写真を使いました。

−−逆に、謎めいたイメージを作りたいという思いはありましたか?

大来:髪が青いミュージシャンっていうとミステリアスに聞こえますが、むしろ謎めいた感じにはしたくありませんでした。なぜなら、彼女の曲はすごく等身大でしたし、その曲の感じを伝えたかったので。なので、プライベートな雰囲気や、アーティストであれば隠すような部分も、敢えて出すように意識して撮影しました。

−−パッケージをジップつきpp袋にしたのは、なぜですか?

大来:打ち合わせでは普通のプラスチックケースというアイディアもあったんですが、数も少ないので限定グッズのような感じにしたいなと思って。あとプロデューサーの庄司さんから「本人の意思を反映したものを作りたい」ということを言われていて。なので、普段ものづくりをしている彼女を意識して、手作りっぽさも出せたらと。

 世の中には、すごく豪華なパッケージもあると思いますが、これって1つずつ手作業でCDと写真を入れているんですよ。一瞬一瞬を切り取った1,000枚の写真を閉じ込めているというか、パッキングしている感じを伝えたくて。1,000枚の中から、自分が買う1枚を選んでもらう時に、実際に手に取って触ってもらう中で、そういう気持ちも伝わればなと思いました。あとは、細かいんですが、レイヤーを増やしたかったので、この袋の白い枠部分はプリントせず、シールを貼っています。

−−なるほど。

大来:あと重要なポイントは、この1,000枚の写真って、SETAさんのWebサイトにも同じ写真をアップしてあるんです。なので、1枚買ったあと他に気になる写真があれば、自分でプリントアウトしてCDをカスタマイズできるという仕様にもなっているんです。

−−楽しいですね。そのアイディアは、どこから?

大来:1,000枚すべて違う写真で作ると、ファンの方が1人で複数枚買う場合がありますよね。でも、今回は限定枚数しか作らないし、私達としては1人の方に何枚も買ってもらうよりも、なるべく多くの人に見てもらいたかった。なので閉ざされたものにせず、全て撮った写真を公開することにしました。そうすれば1枚だけ買えば良いし、買ったあとも楽しめるよなって。

−−違うデザインのCDを作ると聞くと、1人の方にたくさん買ってもらうためなのかなと思いがちですが、逆だったんですね。

大来:今回については、たくさん売ることが目的ではなかったし、彼女を知るという体験を軸に考えたので、こういうアプローチにしました。あと、この中には歌詞カードも入っていません。Webサイトと連動するために、歌詞はサイトに掲載して、CDにはURLだけを書きました。SETAさんをより多くの人に知っていただくことが目的ですが、拡散させれば良いというわけではありません。私の役目は、その“もの”をどういう風に伝えたいのかを考えることです。今回のプロジェクトも、「SETAさんが、どんな人なのかを伝えるために最も適切なアプローチは何か?」を考えて、取り組ませていただきました。


JM_G

タワーレコード渋谷店 バイヤー
宇野文美

 メンバー別でジャケットのデザインが違うCDは、今まで扱ったことがありますが全て異なるというのは初めて見ました。お店で手にとって選ぶという新しい楽しみ方ができ、パッケージの新たな可能性を感じた作品です。

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